Special Issue
日中情報サービス産業懇談会 7年ぶりに山東省・済南で開催
2018/09/20 09:00
週刊BCN 2018年09月17日vol.1743 第2部掲載
16回目の開催を機に第二ステージに入る日中ソフトウェア産業界
懇親会の冒頭、挨拶に立った、工業と情報化部情報化とソフトウェアサービス業司の傅永宝氏は「中国のソフトウェア産業発展のスピードは大変速い。17年の売上高は12年比で2倍の5.5兆元に達している。なかでも済南市はソフトウェア産業が特に成長しているエリアでもある。この懇親会をきっかけに、中日ソフトウェア産業でWin-Winの関係を築き、新しい潜在力を発揮させていきたい」と話した。続いて、JISAの浜野一典副会長が挨拶に立ち「懇談会の開催が途絶えていた7年間で、ICTの環境は大きく変わった。特に中国は発展のスピードが速く、見習うべき点が多い。これまでの15回では基礎的なプラットフォームを築く第一ステージと位置付け、再開した今回からは新たな発展を模索する第二ステージと位置付け、日中双方でソフトウェア産業を発展させていきたい」と話した。
1日目のセッションではJISAの小脇一朗副会長・専務理事が登壇、「日本の情報サービス産業の動向とJISAの役割」と題して講演した。「日本のICT産業の市場規模はおよそ48兆円。日本の基幹産業として成長してきた。情報サービス産業の売り上げは受託開発が過半を占め業務の主流になっている。業種別の売上高では、インターネット付随ビジネスやシステムの管理運営受託が右肩上がりで拡大。特に17年度ではソフトウェアプロダクトの成長が目立つ。一方、IT人材の現状については、不足感が大変強まっている。DI値は61.3と極めて高い。今後さらに厳しくなると考えており、IT産業人口は19年をピークに減少することが見込まれ、先端技術の関連人材やセキュリティ人材の不足の懸念が強い」などとして、日本の情報サービス産業の現状を報告した。最後に「ソフトウェアには経済社会のあり方を根本的に変える革命が求められている。このような時代では国の枠を越えた大きなエコシステムの構築が不可欠」と結んだ。
次にCSIAからは呂衛峰・副理事長兼秘書長が「新時代におけるソフトウェア業界発展の構想と施策」と題し講演。「中国のソフトウェア産業は、すでに国家インフラの重要な部分を構成している。その上でオープンソース化やクラウド化が急速に進んでいる。エコシステム間の競争も激しさを増している。ソフトウェア企業の数は3万9000社で、年間の売り上げが100億元を超える企業が9社に上る。従業員はおよそ600万人、平均賃金は業界別でも最高で金融機関を上回る水準に上昇している。また研究開発投資は売上高の11%近くに上る。このように急速に拡大してきたが、これからは発展モデルの転換が必要になる。そのため、CSIAでは革新創業、企業間協力、国際交流・協力、人材育成、コンプライアンスなど五つのプラットフォームの構築を目指して活動している」などとしながら、「このような懇談会を通じて国際交流・協力を深めていきたい」と話した。
初日の最後に開かれた歓迎レセプションでは、済南市の徐群・市委員会常務委員、副市長も挨拶に駆けつけた。「済魯ソフトウェアパークの主任として北京で04年に開催された第8回懇談会に参加し、06年には済南で開催するなど、この懇談会との縁が深い。それから10年以上を経て再び済南で開催できることになった。この懇談会は中日間の情報サービス産業の交流だけでなく相互理解を深めるプラットフォームでもある。ぜひ、済南市の地元企業と交流し協力関係を築くきっかけをつくってほしい」などと話し、済南市としての懇談会に期待の大きさをうかがわせた。
急速に発展する中国ソフトウェア産業は石油に代わる資源はデータだ
2日目のセッションでは冒頭で済南市の李自軍 ・副市長が挨拶に立ち「済南市は中国ソフトウェア開発の一大拠点であり、イノベーション基地、ハイレベル技術産業、スーパーコンピューティングセンターなど多数のプラットフォームを有し、産業のデジタル化を加速してきた。済南市全体のデジタル産業の規模は17年で2500億元以上に達し、情報サービス業の規模は半分を超えた。今日の懇談会では活発で建設的な議論を通じて両国のソフトウェア情報サービス産業のさらなる発展のきっかけになることを願う」などと話した。
基調講演ではCSIAの陳宝国・常務副秘書長が「ソフトウェア産業のチャンスとチャレンジ」と題し講演。「技術のイノベーションによって、スマート化の時代がやってきた。あらゆるものがネットでつながることで新たな社会のインフラを構築する。その中で『データ』は、石油に代わる重要なリソース・資産になる。ビッグデータに基づいた産業は最も潜在成長力のある産業になるだろう。またソフトウェア社会の神経として機能し、その技術と産業発展のレベルは国家競争力の重要指標になる。株式の時価総額を見てもソフトウェア・IT企業が上位10社の過半を占めるようになっており、ソフトウェア産業の重要性はますます高まっている。『製造強国』『ネット強国』を目指す中国では、これまでの材料・エネルギードリブンの製造体制から、データドリブンの製造体制への転換を遂げようとしている。またオープンソースソフトウェア技術の発展でクラウド、ビッグデータ、AIなどを駆使したチャンスも生まれる」などと話した。
日本からは経済産業省商務情報政策局情報産業課の和泉憲明企画官が「経済産業省のIT政策”Connected Industries”」と題し、日本政府の情報サービス産業の産業戦略について講演した。「Connected Industriesとは、昨年安倍晋三総理が日本のコンセプトとして発信したもの。さまざまなものがデータを介してつながっていくことで、人間中心のデジタル社会の実現を目指すのが特徴だ。人材育成も重視しながら、あくまでも課題解決の方法論であることを重視している。スマートフォンなどによる位置情報や利用状況、ウェブやSNS上の情報検索をはじめ、個人情報系のデータ産業ではGAFAなどの海外プラットフォーマーに強みがあり、日本にとってはレッドオーシャンといえる。一方、自動走行やバイオ、スマートライフ、プラント・インフラ保全、ものづくり・ロボティクスといった産業情報系データの分野をブルーオーシャンとみて促進していく。いずれもデータが起点となるがサイバーセキュリティも重要なポイントだ」などと説明した。続いて国家商務部中国サービスアウトソーシング研究センターの邢厚媛・副主任が登壇。「中国は受託側から依頼側に移行しつつある」などとしながらサービスアウトソーシングの視点で講演した。このほか、中国における建築産業のデジタル化の現状や、中国での個人情報保護システム、日本におけるIoTを活用したスマート工場の事例なども紹介し、日中双方で情報を共有した。
最後のセッションは「オフショア中心の日中IT協業から『日本+中国+X』の新しい協業モデルへ」と題したパネルディスカッション。今回の懇談会開催に向けて日中両国の橋渡しに尽力したCSIAの常務理事・日本事務所長で済南ウィナーソフトの周密・董事長がモデレーターを務め、日中の新たな協業のかたちについて議論を展開した。パネラーとして中国サービスアウトソーシング研究センターの李愛民・研究員、BCNの奥田喜久男会長兼社長、NECのSI・サービス企画本部の木田橋龍エグゼクティブエキスパート、富士通(中国)情報システムの薛衛CEO、シーエーシーの未来企画本部の大須賀正之理事の5人が登壇。同懇談会が11年に開催された前回とは、日中のIT協業環境が様変わりしていることを受け、どうすれば双方の強みを生かし、Win-Winの関係を築けるかなどについて話し合った。
来年、第17回の開催は11月初旬に東京で
これまで日中交互で開催されてきた懇談会。次回、第17回日中情報サービス産業懇談会は東京で開く予定だ。今のところ11月初旬を第一候補として調整中。11年までの15回は日中のオフショア開発がメインテーマだった。新たな日中ソフトウェア協業のありかを模索するステージに突入した今回。まずはスタートラインに立った。次回は両国協業の方向性がより具体的なかたちで表れることになるだろう。
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