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<エレコム特集 第1回(全5回)>グループシナジーでB2B市場を切り開く 差別化した技術・製品で世界に挑む 「ライフスタイル・イノベーション」のコンセプトをB2B市場にも

2018/04/26 09:00

週刊BCN 2018年04月23日vol.1724掲載

 エレコムは、PC周辺機器などのB2C(コンシューマ)向け製品で高いシェアをもつが、ここ数年でグループ化した各社とのシナジー効果を高め、新しい分野への進出を開始した。市場規模が縮小傾向にあるB2C偏重の経営体制を変更し、今年度(2019年3月期)からは、エンベデッドやカスタムPC、ネットワーク関連機器などを組み合せた独自のソリューションで、伸びしろのあるB2B(法人)市場を切り開こうとしている。連載の第1回では、グループを統括するエレコムの葉田順治取締役社長に経営戦略を聞いた。

グループシナジーでお困りごとを解決

 エレコムは1986年5月、家電量販店を販路とするOA家具メーカーとして創業。現在、家具関連は事業領域ではなくなったが、創業翌年から手がけ始めたPC周辺機器を主力に売り上げを拡大してきた。昨年は、マウスやキーボード、USBなどのPC周辺機器13部門で、販売シェアトップを表彰する「BCN AWARD」を獲得。最近では、新機軸のB2C向け製品として、女性の疲れを癒すヘルスケア製品「エクリアシリーズ」やAR/VR関連製品を発売するなど、B2C市場を主戦場にするプレイヤーとしてのイメージが強い。

 しかし、国内を中心としたB2C市場は、少子高齢化による人口減少などの影響で規模が縮小傾向にある。さらなる成長を目指してエレコムは、B2B市場の取り組みを強化し始めた。「技術力の強化は、創業以来の願望だった。技術で差別化して世界で戦いたい」と葉田社長が話すように、ここ数年は、技術や製品、販路に強みをもつ企業をグループ化することなどによって体制を強化してきた。必要な技術力と製品ラインアップの強化を着々と図ってきたわけだ。そして今年度、葉田社長の大号令のもと、B2Bへと舵を切り、グループシナジーを発揮するために各社間の連携を本格化させている。
 

エレコムのグループ会社がもつ製品・サービスと全体のポートフォリオ

 エレコムはこれまでに、ハードディスク(HDD)やDVDドライブなどを手がけるロジテック、産業機器向けストレージの製造・販売などを展開するハギワラソリューションズ、FA、OA用機器の開発などを行う日本データシステム(JDS)をグループに加えた。昨年は、電材・電設およびCATVといった放送関連の技術と製品をもつDXアンテナと、センサデバイス開発などのエンジニア集団であるディー・クルー・テクノロジーズ(DCT)を子会社化。一昨年には、加賀電子から産業用機器開発のワークビットの事業を譲り受け、エレコム内に開発拠点「大和技術開発センター」を開設している。
 

エレコム
葉田順治
取締役社長

 葉田社長は、「グループシナジーでエレコムグループが提供できるソリューションが広がった。エレコムが軸となってグループ各社の技術力を結集することで、ワンストップで高品質な製品・ソリューションが提供できる。当社が大事にしている『お客様のお困りごとにお応えする』領域が飛躍的に拡大した」と、安定して事業を展開するB2C事業に加え、B2B事業を成長領域に据えた。「縁あってのことなので」と前置きしつつ、「M&A(企業の合併・買収)は引き続き積極的に行い、シナジー効果を紡いでいく」(同)という。

トップラインを3倍以上の3000億円へ

 エレコムの年間連結売上高は、1000億円近くになる勢いで伸長しているが、葉田社長は、「利益にはこだわらず、トップライン(売上高)を伸ばすことにこだわる」という。既存コア事業であるB2C領域で量販店でのトップシェア維持と販売チャネルの拡大を進める一方、B2B事業の取り組み強化で、将来的に売上高3000億円を目指す。これを実現するには、グループ会社のシナジー効果を最大化する必要がある。

 葉田社長は、「『業際』の開拓力」の重要性を説く。「グループの強みを発揮できる領域を『横』へ拡大し、事業同士をクロスオーバーさせてシナジー効果を生み出す」(同)ことをいかに効率よく進めるかが課題だ。

 B2Cで活躍するメーカーのイメージが先行しているため、意外と知られていないが、すでにグループ会社の異なる専門分野をつなぎ、いくつかの特定分野で実績を上げている。例えば、DXアンテナが得意とする「放送」の提案と、エレコムの「通信」をプラスした「放送と通信の融合」に関連するソリューションが、マンションや病院、ホテルなどで案件が出始めている。「DXアンテナは、放送用のアンテナや同軸ケーブルの設計・施工ができる。こうした案件に際して、エレコムのWi-Fiルータなど、無線LAN環境の敷設をクロス提案できる。設計から施工、保守・サポートまでをワンストップで提供できることが、ユーザーに受け入れられている」(葉田社長)と話す。

 現在、ビルを中心とした大規模な建物では、ISDNやADSLの代替で同軸線の工事をするケースが増えている。潜在的な需要があるため、グループ会社の得意技を持ち寄り、クロス提案ができるというわけだ。これ以外でも、エレコムのNASをロジテックのカスタムPCに組み込むことができるだろう。DCTは、スーパーコンピュータのマイクロプロセッサを開発しているほか、IoTの構築で必要になるセンサデバイスを組み込んだ先端技術・製品の開発に実績がある。エレコムが注力しているヘルスケアやメディカル領域のデータ取得・解析で、葉田社長は、「DCTの開発力が強力な武器になる。アイデア次第で事業領域が大幅に拡大する可能性を秘めている」と、自信を深めている。

 今後はDCTの技術を利用して、人工知能(AI)や自動運転、IoTなどの領域に、グループの技術を横断的に活用して参入できると考えている。現在、先端技術を使える産業分野としては、ITインフラを支えるエンベデッド関連の事業を本格化させている。

ハード開発にこだわる

 グループシナジーで、新しいビジネスモデルが数多く生まれてきている。監視カメラに関連するソリューションがいい例だ。放送関連の設計・施工で実績のあるDXアンテナが主体となり、建物や工場に監視カメラを設置するだけでなく、データ蓄積用のHDDや状態監視用のデバイスをつなぐ回線工事をするなど、グループ内の製品やノウハウを生かしワンストップで提供できる。将来的には、監視カメラの認証技術を使い、事故を未然に防止するための予測が可能になる。「周辺機器やソフトウェア、保守も加えて、大手電機メーカーより安価に提供できるのが強みだ」(葉田社長)。最近では、東日本大震災を受け、意識が高まっている地域防災関連で、放送と通信を融合したソリューションの提案を行っている。

 動画や静止画、あるいはセンサデバイスから取得したデータを蓄積するまで、幅広いソリューションが揃ってきた。しかし、葉田社長は「データ・マネジメントの領域には踏み込まない」と断言する。PCやタブレット端末、周辺機器を含めた製品を出していた国内大手電機メーカーが相次ぎ市場から撤退している。そうしたなかで、「国産製品がなくなったことで多くのユーザーが困っている。当社はハードウェアにこだわっていきたい。現在、大量に出回る可能性を感じている製品として、省電力の『トリリオンノード・エンジン』の研究・開発を進めている。一般消費者向けのPCやタブレット端末、スマートフォンなどはすでにレッドオーシャンなので、産業用途の堅牢PCやカスタムPCなど、技術力を生かせるハードを出していく。日本人特有のきめ細やかさで、サポートも提供し続ける」と、強みの領域、勝機の高い領域に絞り製品化を進め、「グループシナジーでさまざまな分野に横展開していく」と、葉田社長は語気を強めた。

 エレコムには、創業以来の哲学がある。「使っていただいて、初めて製品になる」。葉田社長は、「当社は、決して逃げず、安心して使い続けてもらえるよう、とことんサポートする」と、顧客の「お困りごと」を拾い上げ、グループシナジーでトータルに提案できる体制を構築しようとしている。現在、B2Bのソリューションを提供している、または今後ターゲットとする領域は、医療、環境、防犯・防災、通信・放送、工作機械、教育などに広がっている。コンパクトな組織で俊敏に対応し、ソリューションに必要なハードウェアをグループ内で設計・開発でき、低コストで提供できることが、エレコムの強みだ。

 ターゲットとする領域を得意とするITベンダーとは、積極的にアライアンスを組む方針。「例えば、設計・施工はできなくても、特定産業のアプリケーションなどの開発に長けたITベンダーと共同で、トータルソリューションを提案できる」(葉田社長)と、新たなチャネル開拓にも積極的に取り組む考えだ。

 エレコムは最近、B2Cを含めた自社の事業を定義するコンセプトとして「ライフスタイル・イノベーション」を掲げている。「感度を研ぎ澄ませイノベーションに俊敏に反応する。そうすることで、当社製品・サービスでビジネスシーンを快適かつ効率的にすることに貢献する」(葉田社長)ことを目指し、チャレンジし続ける方針だ。
 

監視カメラニーズの高まりに対応

「撮る」「送る」「録る」「視る」をワンストップで提供

 葉田社長が述べてきた通り、グループ会社の製品・サービスを組み合せることで、B2B向けの新たなソリューションが生み出されている。例えば、需要が高まっている監視カメラを使った新しいビジネスモデルだ。

 エレコムグループとしてはまず、カメラで「撮る」、映像をWi-FiやLANケーブルなどで「送る」、画像や静止画をNASやレコーダーなどに「録る」、デジタルサイネージなどで映像を「視る」という一連の流れをワンストップで提供できることを売りに、賃貸物件や商業施設、工場などへの提案を強化していく。井端弘幸・商品開発部次長兼ネットワーク課課長は、「当社グループの製品を提供するだけでなく、設計・施工・保守まで含め、サイネージの設置や通信環境の整備などを一元的に担うことができる」と力を込める。

 施設・設備、車庫、工場などにおけるセキュリティを強化するための防犯用途の監視システムが主だが、新たに監視カメラを使ったプラスαのソリューションがエレコムにはある。「PEOPLECAM(ピープルカム)」という小売店舗向けソリューションで、監視カメラで吸い上げた顧客の来店・出店データを解析する仕組みだ。

 井端次長は、「特定の属性の顧客がどの陳列商品の前を通り、どのように商品を手に取ったかなどをモニタリングできる。PEOPLECAMを使って繁盛店づくりをサポートできる」と、グループシナジーで従来のエレコムにはないB2Bソリューションを説明する。

 また、生産工場では、「監視カメラなどを利用し、生産設備の稼働状況や故障予知などを目的としたモニタリングの分野に進出することができる。監視カメラの領域は、右肩上がりで伸びている」(井端次長)と、自社製品が幅広い領域で展開できるようになると期待している。

 「工場などでは、お客様のニーズに合わせてカスタムするロジテックのカスタムPCや堅牢タブレット端末を提供できるなど、横展開はアイデア次第で拡大する」と井端次長は話す。顧客対象も、システムを導入するエンドユーザーだけでなく、DXアンテナが取引のある放送関連や電材関連のパートナーを介した間接販売が可能で、販路の拡大も期待できる。さらに「お客様のお困りごとに応えるため、お客様の声を拾い、要望に応えられる技術力を備えていく必要がある。お困りごとを一緒に解決していくパートナーとともに市場を開拓していきたい」(同)と、システムインテグレータなどのチャネルとの関係強化を急ぐ。

 当連載では、グループ各社の代表者から取材し、第2回以降、各社の強みとグループシナジーをどう発揮しているかを考察する。
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外部リンク

エレコム=http://www.elecom.co.jp/