Special Issue
クラウド時代のオンプレミス環境は ハイパーコンバージドインフラと Microsoft Azure Stackが担う
2018/02/01 09:00
Windows Server 2008のEOSで新たな選択肢として急拡大
Windows Server 2008/2008 R2の延長サポート終了(EOS)が、2020年1月に迫っている。移行のターゲットはWindows Server 2016となるが、今回は単なるサーバーOSのアップグレードとは違う動きになりそうだ。背景にあるのは「ハイパーコンバージドインフラ(HCI)」と「Microsoft Azure Stack」。クラウドネイティブなシステムを望むも、パブリッククラウドの採用へと踏み切れないユーザーに新たな選択肢を与えた。
HCIの扱いやすさが
オンプレ環境を変える
パブリッククラウド市場は、勢いよく拡大している。ユーザー企業がパブリッククラウドを採用するメリットは大きく、クラウド化の流れは今後も続きそうだ。一方で、サーバーやストレージなどのハードウェアを自社で抱えるオンプレミス環境が、多くのユーザー企業で根強く残っているのも事実。パブリッククラウドのメリットを理解しつつも、商慣習や社内体制などを考慮すると、まだオンプレ環境に軍配が上がることになるためだ。
こうした状況のなかで、オンプレ環境でクラウドのメリットを実現するとして急激に伸びているのが、サーバー(コンピュート)やストレージ、ネットワークをコンパクトなきょう体に収めて、ソフトウェアの制御によって一元的に利用できるようにしたHCIである。
HCIの登場以前も、仮想化ソフトウェアによってサーバーやストレージの運用を最適化する取り組みは進められてきた。サーバー仮想化は、システムごとに運用していたサーバーの集約を実現し、運用管理の負荷軽減に貢献する。物理サーバーを調達するようなケースでも、仮想環境上で仮想サーバーを用意すればよい。これによって、サーバーの展開スピードが格段に向上した。
ところが、ストレージ環境は、サーバーの仮想化環境とは別々に運用する必要があったため、仮想化環境の柔軟性や展開スピードを生かしきれていなかった。また、ストレージの仮想化によって、サーバーの仮想化環境との親和性は高まったものの、別々で運用していることに変わりはなく、トラブル対応で問題の切り分けを難しくするなど、課題は残されたままだった。
HCIは、サーバーとストレージを仮想化ソフトウェアによって統合し、仮想化環境における課題を解消した。それだけでなく、パブリッククラウドのように、シンプルで柔軟性が高く運用しやすい環境を提供するとして、クラウドを支持しつつもオンプレミス環境を望むユーザー企業のニーズに応えている。
ストレージ専用機の機能を
ソフトウェアによって実装
HCIについて、もう少し詳しく説明しよう。HCIは、サーバーやストレージ、ネットワーク、ハイパーバイザーといった仮想化基盤に必要な要素をワンパッケージにした製品である。専用ストレージ装置を廃し、複数のx86サーバーにそれぞれ内蔵されたHDDやSSDのみを使い、専用機器と同様のストレージ機能を実現するのが特徴だ(図)。HCIでは仮想マシンに加えて、ソフトウェア定義型ストレージ(SDS)が動作しており、データは各きょう体の内蔵ストレージに保存すると同時に、他のHCI上のストレージにも分散して書き込むことによって冗長性を確保する。ラックに存在するのはHCIのきょう体のみ。構成は大幅にシンプルになる。ハイパーコンバージドインフラでは専用ストレージ装置を使わず、
各サーバーに内蔵された記憶デバイスと分散ストレージソフトウェアによってストレージ機能を実現する
HCIはコンパクトで扱いやすいのがメリットだが、それだけではない。まず、メーカーによって事前に動作検証済みの構成となるため、SIerやユーザー企業が各要素を検証する必要がない。メーカーが推奨する構成であることから、ハードウェアのパフォーマンスを最大限引き出すとともに、安定的な稼働も保証される。
拡張しやすいのも、HCIのメリット。より多くの計算性能や記憶容量が必要となった際に、HCI製品を追加することで拡張できるように設計されているのが一般的だ。多くの場合、ファームウェアやハイパーバイザーのアップデート時も、自動的に負荷を分担しながら順次更新を行うため、サービスにダウンタイムが発生しない。
自治体のVDI環境構築が
HCIが普及するきっかけ
国内のHCI市場は、仮想デスクトップ(VDI)環境とともに拡大した。きっかけは、総務省主導の「自治体情報システム強靭性向上モデル」により、地方自治体が庁内系やインターネット系などを切り離す「ネットワーク分離」に取り組んだこと。多くの自治体では、机上に複数の端末を置くスペースがないことや、複数台のPCを使い分けるのが面倒なため、VDI環境の採用が進んだ。そうしたなかで躍進したのが、HCIである。もともと複数の仮想環境を用意するために設計されているHCIは、運用しやすいVDI環境を実現するとして支持を集めた。
自治体が取り組んだネットワーク分離の実施期限は、17年7月。その前後でHCIが認知されるようになり、大企業を中心に民間での採用が進むことになる。都心だけでなく、地方においてもHCIに対する注目度が高いのは、こうした背景があるためだ。
Windows Server 2008の
EOSでHCIが注目の理由
Windows Server 2008/2008 R2のEOSが、20年1月に迫っている。サーバー環境の移行においては、これまでパブリッククラウドか、プライベートクラウドなどを含むオンプレミスかのどちらかを選択するのが一般的だった。拡張性にすぐれ、運用が容易なパブリッククラウドは、移行において有力な選択肢の一つ。一方で、Windows Serverは基幹系システムでの採用が多く、企業によっては重要なデータを社外に置かないという方針などから、オンプレミスへの支持は根強い。そうしたなかで、将来を見据えた移行環境として注目すべきが、Windows Server 2016の機能で実現するHCIと、マイクロソフトが提供するパブリッククラウド「Microsoft Azure」をオンプレミス上で利用可能にする「Microsoft Azure Stack」である。パブリッククラウドの運用性などをオンプレミス上で実現するとして、ユーザーの支持を広げているHCI。そこにAzure Stackが加わることにより、パブリッククラウドか、オンプレミスかに、将来的にパブリッククラウドを採用するという新たな選択肢が提供されることになる。
つまり、こういうことだ。まず、Azure Stack上にシステムを移行する。Azure Stackは、Microsoft Azureと互換性があるため、将来的にパブリッククラウドを採用することになっても、システムを修正することなく移行できる。パブリッククラウドにしたいが、社内の事情からオンプレミス環境を継続したいという場合に有効な選択肢となる。
オンプレミス環境に対するユーザー企業の支持は根強いが、パブリッククラウド市場は力強く拡大している。パブリッククラウドの採用が一般的になる可能性があることから、将来に備えた環境の整備は、賢い選択といえよう。
サーバーOSのEOS対策は
早い時期に動き始める
サーバーOSは影響範囲が広いことから、移行に向けた動きは早めに始まるとみられる。実際、Windows Server 2003のときは、ファイルサーバーを除き、ユーザー企業の対応は早く、大きな混乱はなかった。Windows Server 2008/2008 R2のEOSにおいても、同様の動きが予想されるため、18年がリプレースに向けた動きが活発になりそうだ。今回は、ここまで紹介したようにHCIへの注目度が高まっていることから、ユーザー企業がHCIを要求する可能性が大いにある。また、19年は、平成から新しい年号に変わる。消費税も、同年10月に10%へと税率変更が予定されている。これらもシステムのリプレースを検討するきっかけとなるだろう。
SIerはユーザーのリプレースニーズを先回りして、HCIの提案にとどまることなく、Azure Stackを含む総合的なソリューションを提供できるようにしておきたいところだ。
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