Special Issue
「弥生シリーズ」誕生から30周年 業務ソフトベンダーからサービスカンパニーへの道のり――弥生
2017/12/14 09:00
週刊BCN 2017年12月11日vol.1706掲載
業務ソフトメーカーの弥生が開発・販売する「弥生シリーズ」は、2017年10月でシリーズ発売から30周年を迎えた。弥生シリーズは、当時国内の個人事業主・中小企業が手作業で行っていた販・財・給に関連する業務の自動化に貢献してきた。今後は企業間の取引を自動化する「会計業務3.0」「商取引3.0」の領域にも歩を進める。岡本浩一郎社長は、「将来に渡って、小規模事業者に対して使いやすいソフトを提供するというスタンスは変えずに、テクノロジーを活かし、今後も業務の効率化に苦労する小規模事業者を下支えする役割を果たしていく」と語る。弥生が業務ソフトベンダーからサービスカンパニーへと進化した道のりや会社として辿ってきた激動の歴史、そのなかで進化を続けてきた「弥生シリーズ」を振り返る。
使いやすいソフト追求
業務ソフトの弥生シリーズは1987年10月、パッケージ版の会計ソフトがほとんど存在しない当時、前身の日本マイコンが個人事業主・中小企業向けにDOS版「青色申告会計 弥生」を開発・販売したことで誕生。企業の会計業務は、手書き伝票を帳簿に転記するといった手作業が一般的な時代。会計ソフトといえば高額な商品で簿記の知識が必要なため、小規模事業者には手の届かないものだった。弥生シリーズの誕生は、これら煩雑な作業を一変、パソコンでの会計処理を身近にした。弥生シリーズの発売から30年、弥生は親会社が複数変遷するなか、激動の歴史を辿った。しかし、「小規模事業者に向けて、『使いやすいソフトを提供する』というスタンスを貫いてきた」と、岡本社長は、小規模事業者向けでトップシェアを堅持する弥生シリーズが、スタンスを変えずに進化を遂げてユーザー事業者に評価され続けてきたという。
岡本浩一郎
代表取締役社長
業務ソフトの先駆となった弥生シリーズは、Windowsの進化に歩を合わせるように成長してきた。ユーザーインターフェース(UI)は、業務ソフトのデファクトスタンダード(事実上の業界標準)ともいわれ、その後に参入する競合他社が開発する会計系ソフトのベースになった。「Windowsの登場にいち早くWindows版(初期版はWindows 3.1)をリリースし、OSのバージョンアップにも迅速に対応してきたことで、一気に市場を拡大した。ユーザーにとって違和感なく使えるソフトを追求するうちに、UIは競合他社にベンチマークされるまでになった」と、岡本社長が自負するほど操作感は浸透した。
例えば、会計ソフト「弥生会計」で行う仕訳の記帳は、ある程度入力が速くなれば、テンキーだけで処理が可能。タブキーがどの処理項目を進んでいるのか、ソフト側で緻密に制御し、余分な作業項目をスキップするといった独自の操作性を備える。弥生シリーズは、30年間選ばれ続け、登録ユーザーが延べ160万人を突破するまでになった。
弥生は、弥生シリーズの強みを「かんたん」「あんしん」「たよれる」という三つのキーワードであらわす。「かんたん」は、UIと操作性がすぐれていることなど。「あんしん」は、販・財・給ソフトの開発会社としては当然であるが、消費税やマイナンバーなど税制・法令改正に対応。それだけでなく、業界最大規模のカスタマセンターを備え、専門スタッフが電話やメールで日々の運用を支えていることも、使う側の安心感を与えている。
カスタマセンターは、大阪と札幌にあり、両拠点合わせた席数は現在684に上り、業界最大だ。最近では、ユーザー向けだけでなく、弥生シリーズの利用を下支えする税理士・会計事務所からの問い合わせなどを受け付ける専門チームも設置している。
「たよれる」については、弥生と会計事務所とのパートナーシップに起因している。両者が連携し弥生の製品・サービスを活用して小規模事業者の発展に寄与することを目的とした「弥生PAP」というパートナープログラムに参加する会計事務所は、業界最大の現在約8000事務所におよぶ。この10年間で会員数は約3倍に増えた。「パートナーシップにより、小規模事業者の業務効率化と弥生シリーズの市場拡大に貢献していただいている」(岡本社長)と、今後も会計事務所とより強固な関係性を築くため、頻繁に開催するセミナーなどで情報交換を密に行っていく。
Misocaの買収で次の展開
岡本社長に弥生シリーズ30年間のターニングポイントをいくつか挙げてもらうと、会社としては、1997年に当時米国で70%以上のシェアをもつ会計ソフト会社である米インテュイットの傘下に入ったことと、2007年にライブドアから独立したことを挙げる。日本進出を検討していた米インテュイットは業務ソフト「大番頭」などを開発・販売するミルキーウェイと日本マイコンを相次ぎ買収して日本法人を設立。2003年には、MBOで同社から分離独立して現社名の「弥生」に変更し、翌年にライブドアグループ入りした。だが、2007年に同グループの混乱のなかで独立。岡本社長は、「日本マイコン、ミルキーウェイは、昔ながらのソフトハウスだったが、外資系のインテュイット傘下で先進的なUIの影響を受けた。一方、ライブドアから独立したことで、親会社の意向を受けず自らの戦略を進められるようになった」と、渦中に巻き込まれながら、ぶれない、いまの戦略や方向性を築くことができたのだ。
もう一つ付け加えるならば、クラウド請求管理サービスのベンチャー「Misoca(ミソカ)」を2016年に買収したことだろう。岡本社長は、「弥生シリーズは、財務処理の下流工程である見積・納品・請求などをITで効率化する役目を果たしている。Misocaのグループ入りが、上流工程である発注者と受注者をつなげる部分の効率化に貢献した」と話す。従来の会計の領域から、企業間の商取引、給与・労務の分野まで拡大する「会計業務3.0」「商取引3.0」を立ち上げるためのノウハウを獲得したからだ。
会計業務と商取引の「3.0」を推進
弥生は30年間、小規模事業者で日々発生する財務情報をITで自動化する「自計化」を推進してきた。「弥生シリーズが担ってきたのは、顧客の販・財・給に関連する業務を効率化すること。今後は、そのお手伝いの領域が広がる」(岡本社長)と、2016年に「会計業務3.0」を打ち出し、弥生シリーズにさらなる自動化機能を搭載することなどで、その実現を目指している。「会計業務3.0」について、岡本社長は次のように説明する。「取引発生から証憑整理、伝票起票、転記、集計、試算表作成までを手書きと電卓を使って行うことを『1.0』、弥生シリーズで自動転記や自動集計が実現し一部が自動化することを『2.0』、取引発生後から試算表が完成するまでを自動化できた状態を『3.0』と定義している」。弥生が現在提供している取引データを会計データに変換し、弥生シリーズに自動で取り込めるスマート取引取込は、「会計業務3.0」のあるべき次の姿として示してきた。
一方の「商取引3.0」は、「自社と取引先との取引業務が双方とも手作業の状況が『1.0』で、双方が電子化できたら『2.0』としている。『3.0』は、取引先との間で受注・発注、請求・支払いなどのすべてを自動化すること。現在、その入り口にきている」(岡本社長)と話す。人工知能(AI)などデジタルテクノロジーが一般化されるなか、弥生は、こうした技術を利用して、中堅・大手企業で導入されてきた電子データ交換「EDI」の世界を小規模事業者の財務の領域で実現することをねらう。
サービスカンパニーとして
小規模事業者に寄り添っていく
岡本社長は、「中堅・大企業に業務ソフトは行き渡っている。この領域は、リプレース市場であり、弥生の主戦場ではない。一方で、小規模事業者は、『自計化』できていない企業がまだ多い。国内の企業数は減少傾向にある。だが、小規模事業者市場は、元気のあるベンチャー企業が立ち上がり、新陳代謝も激しく、次々と新しい見込み顧客が生まれている」とし、「テクノロジーと人の力を活かしたサービスカンパニーとして、弥生のソフト・サービスが、小規模事業者の業務、事業そのものに結びつけられるように取り組み、今後も小規模事業者を下支えする役割を果たしていく」という姿勢は、今後もぶれることはないと断言する。
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