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<HAクラスタ座談会>拡大続くHAクラスタ市場 Linuxの成長が市場拡大に貢献

2012/08/02 19:56

週刊BCN 2012年07月30日vol.1442掲載

コストバランスや影響度を考慮して導入を検討すべき

──根源的な質問ですが、HAクラスタを導入するうえで重要なことは何だとお考えですか。

永田(サイオス)
 HAクラスタを導入するうえで何を考慮しなければならないのかといえば、サービスの重要度と投資コストのバランスです。サービスの重要度やシステムダウン時の社会的な信用問題、そしてシステムが停止した場合のビジネスインパクトなどを定量的に分析し、そのシステムにHAの要件が必要なのかどうかを考えるべきでしょう。可用性を向上するソリューションとして、HAクラスタを導入するべきか否か、販売パートナー様の適切なアセスメントが必要になってきます。

船田(NEC) HAを必要とするシステムでも大きく三つの段階があり、それぞれお客様の要件に合わせ、コストパフォーマンスを意識した提案が重要です。その一つは、ハードの二重化で、これはフォルトトレラント(FT)で対応できます。二つめは、ソフトも含めて二重化するHAクラスタ。そして三つめは、FTシステムのHA化という最高レベルのものです。

星野(シマンテック) 属人性の排除もテーマの一つです。以前ならば、社内にいるシステムに精通した人が、何かトラブルが発生した時に短時間で復旧させることができた。しかし、ITへの依存度が高くなるにつれ、人手だけで短時間に修復するのは、ほとんど不可能に近くなっています。

──では、HAを必要とする業態やシステム要件と、それに対してどのようなアプローチが必要と考えますか。

船田(NEC)
 データベース(DB)を活用する業務については適応度が高いと思います。こうした業務は、データバックアップだけでは十分ではない。業種についていえば、最近、通信業での採用が目立ちます。このほかにも、映像配信のようなコンテンツ分野、また、オークションサイトなど、やはりシステムが落ちるとサービスが停止してしまうような業態ですね。また、ハードウェアのパフォーマンス向上に伴って急速に導入が進む仮想化システムのHA化もいち早くサポートしています。

永田(サイオス) 当社でもいくつもの事例を公表していますが、例えば複数の企業にまたがるバリューチェーンを形成している受発注が絡んだシステムです。どこかでシステムが止まると、全体が機能しなくなる。サービスの停止が業務の停止になってしまいます。

星野(シマンテック) 今は、使い勝手のいいDBが増えていますし、フリーのLinuxと組み合わせて簡単にeコマースをスタートすることができます。そのシステムが年に1億円を稼ぐ場合、システムが長時間停止した場合に約3割のユーザーが離れるといわれていますので、損失は3000万円です。そう考えると、システム停止時間を最小限に抑えるために、HAクラスタが数百万円のコストをかけても決して高くないということを訴えていく必要があります。

永田(サイオス) 確かに費用対効果(ROI)を訴えることにこそ価値があるのだと思います。おっしゃるように、低コストで構築したシステムであっても、多くの利益を稼ぎ出していることをお客様にご理解をいただくこと。そのための提案シナリオを創り出していくことが重要です。

船田(NEC) システム環境は、OSをはじめ、DBやアプリケーションの構成など、それぞれ千差万別ですし、今は物理と仮想化のシステムがさまざまなかたちで存在するなか、どこまでシステムの可用性を担保できるかを明確にしてアセスメントしていくことが重要だと思います。例えば、○×表をつくって、「ここまではできる」「これ以上はオプションを使用しなければできない」といったことを提示する必要があります。

永田(サイオス) 仮想化ソフトにバンドルされたHA機能とHAクラスタでは監視できる範囲が異なることを理解いただきたいと思います。ある調査会社の発表では、計画外システム停止の原因の約80%がアプリケーション異常やシステム操作上の人為的ミスに起因する、というデータもあります。このようなトラブルは仮想化ソフトにバンドルされたHA機能では救うことができません。これらを理解したうえで、お客様にとって最適なソリューションを選定すること、またトラブルが起きた際の運用設計をきちんとすることが重要です。そのような面において、販売パートナー様が担う役割は大きいと考えます。

サイオステクノロジー
永田雅也 氏


[profile]
「LifeKeeper」のほか、データ・レプリケーションソフトウェア「DataKeeper」や「vAppKeeper」などのHAソリューション(事業継続ソリューション)の事業担当。また、ハード、ソフトベンダーとのアライアンスも担当しており、今年4月に発表したストレージベンダーのFusion-io社とのアライアンスも推進した。
 運用負荷の軽減は多くの企業にとって共通の課題ですから、HAクラスタについてもわかりやすさや使いやすさ、導入・運用の容易さが重要です。

永田氏(サイオステクノロジー)


販売パートナーが売りやすいソリューションを提供

──HAクラスタを広めるために、販売パートナーが売りやすい環境を整備するなど、取り組んでいることはありますか。

船田(NEC)
 販売パートナー様にとってこれが絶対に正解だという販売方法はないと思います。したがって、一つの手法としてお客様にトライアル版を使ってもらう環境を整えています。販売パートナー様を対象とした無償のハンズオンセミナーを地方でも頻繁に開催しています。HAクラスタをより詳しく知っていただき、扱いに慣れてもらうことが大切です。さまざまなお客様の要望にお応えするために、販売パートナー様の技術力向上に力を注いでいます。

星野(シマンテック) 当社でも、技術力、提案力の向上のため、NECさんと同様の取り組みを行っており、加えてシステム提案のなかにHAクラスタを含めたかたちで提供するように販売パートナー様へ提案しています。一点、気をつけなければならないのは、ハード、OS、アプリのそれぞれについて、初めに高い安定性や可用性を強く訴求した後で、ガラッと話を変えて、「それでも万が一のためにHAクラスタも必要ですよ」と説明するのでは、むしろ逆効果になりかねません。そこで、最初からHAクラスタの効用、必要性を含めた全体のストーリーを構成して提案を考えなければならないと感じています。

永田(サイオス) 私も、お二人に同感で、付け加えるとすれば、製品をできるだけ複雑にしないことです。複雑でわかりにくいものだと、導入や運用のフェーズで問題が発生しやすく、リスクが高まります。本来リスク低減を目的としたツールですから、それでは本末転倒です。また、運用負荷の軽減は多くの企業にとって共通の課題ですから、HAクラスタについてもわかりやすさや使いやすさ、導入・運用の容易さ、が大切な要素になります。また、ほかのシステム管理・監視ツールとの連携や融合なども必要です。

船田(NEC) これまではOSとの親和性やサポートを中心に考えていればよかったのですが、仮想化環境が増加してきた現状では、ハイパーバイザーへの対応に重心が移り、運用操作性も各仮想化環境に合った追従をクラスタソフト側で行うことが求められてきています。複雑化している環境に対する柔軟な対応を行っています。

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外部リンク

NEC=http://jpn.nec.com/

サイオステクノロジー=http://www.sios.com/

シマンテック=http://www.symantec.com/ja/jp/