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<x86サーバーメーカー座談会 2012>「クラウド時代でもサーバー市場は伸びる」 7社のメーカーが集結、各社が語る戦略と強み
2012/06/28 19:56
週刊BCN 2012年06月25日vol.1437掲載
仮想化提案は引き続き好感触 VDIは新たな需要喚起の材料に
──前年度以上の実績を残した点は、みなさん同じですね。どのような施策を打ってこられたのか、また昨年度のトピックスについてお話しください。芝本(富士通) 富士通のx86サーバー「PRIMERGY」は、全体の約70%強がパートナー様経由で販売されています。ですから、パートナー様のビジネスを支援することは、とても重要。パートナー様に対する支援体制の強化に取り組みました。
富士通の子会社である富士通マーケティング(FJM)が2010年に誕生した後、SMB市場にリーチしているパートナー様のビジネス支援は、FJMと共同で行っています。さらに、富士通にも、パートナー様の声を直接聞き、製品開発とマーケティングに生かす部隊が必要だと、私は考えていました。昨年度、その役割を果たすための専任組織を、私が責任者になって発足させました。まだまだ道半ばですが、パートナー様の要望や不満を、富士通が聞く体制はできたと思います。
製品でいえば、フラッグシップであるRX200が好調だったことに加え、「Cloud Ready Blocks」というハード・ソフト・サービスを一体化させたクラウド環境を構築するのに適している製品をリリースしたことがトピックスです。海外進出したユーザー様の利便性を考慮し、グローバルで統一の仕様に変更したことも、奏功したポイントでした。
高群(日立) われわれも、パートナー様に対する支援内容の充実に、一年を通じて取り組みました。さきほど、パートナー様経由のビジネスの伸長率をお話しましたが、売り上げだけでなく、パートナー様支援策でも、うれしい評価をいただいています。日経BP社が今年2月に発表した「パートナー様満足度調査」の8部門で、1位を獲得しました。サーバーでは、「エンタープライズサーバー部門」と「PCサーバー部門」で総合1位。支援内容の項目でみると、「営業支援」「技術支援」などでも1位を獲得することができました。パートナー様の声を聞き、それに一つひとつ応えてきた成果が出ました。
製品開発では、従来からこだわっている「簡単・高信頼・高性能」を追求しました。システムを容易に仮想化できるソリューションパッケージを用意したり、無停電電源装置(UPS)を内蔵した機種を販売したりといった、ユーザー様とパートナー様の手間を省くモデルをリリースしてきました。
橘(日本HP) 仮想化は、引き続きニーズの強いソリューションでしたから、拡販材料として積極的に使いました。また、すでに何度か話が出ていますが、VDIですね。VDIの提案は、みなさんに負けませんよ。数年前から注目していて、昨年度は大きく伸び、案件数は10年度に比べて9倍。以前から普及活動に力を入れていたことが、ようやく実を結んだことと、大震災の影響でリモートオフィスを構築しようとするユーザー様が増えたことが、爆発的に案件数が伸びた理由だと思います。
製品でいえば、昨年7月に発売した「HP Converged Systems」の認知度を高めることは大きな仕事でした。HPが提唱する次世代ITインフラストラクチャ「HP Converged Infrastructure」を実現するためのハードとソフト、サービスを一体化させた戦略商品で、その価値を伝えるための施策には、力を注ぎました。
小林(日本IBM) 従来から進めてきた施策を継続・強化し、パートナー様が提案しやすいソリューションづくりと、その理解を深めてもらうための活動を進めてきました。
たとえば、日本IBMは、特定のソリューションに必要なシステム構成のひな型を用意していて、「太鼓判構成」「折紙付構成」という名前で、パートナー様にご提供しています。「仮想化を提案する場合はこれ!」といったかたちで、システム構成案をわれわれが示しています。パートナー様が、一から構成を考えなくてもいいようにするのが目的です。「太鼓判」は、IBM製品だけで構成していますが、「折紙付」はパートナー様のソリューションも組み合わせており、パートナー様の製品・サービスを拡販するのにも、貢献させていただいてます。
そして、パートナー様向けのセミナーと勉強会を全国で開き、「IBM System x」のメリットをお伝えしてきました。パートナー様はお忙しいですから、パートナー様のオフィスに、われわれのスタッフがお邪魔して、比較的時間がとりやすい早朝や夕方にレクチャーさせていただく取り組みも、継続的に進めました。
布谷(デル) トピックスというか、強化点はトレーニングですね。ダイレクトセールススタッフ(直販営業担当者)向けに、従来は集合研修方式で四半期に一度、情報をまとめて提供していたのに対し、ここ一年はやり方を見直しました。私のようなマーケティングスタッフが各営業部門の会議に参加して、定期的にそれぞれの営業部門の特性に合わせたきめ細かいトレーニングを行うようにしました。
またパートナー様やパートナー様担当の営業にも直販営業以上の内容のトレーニングや勉強会を行っています。工場見学の場も頻繁に設けて、パートナー様にデルの品質管理手法などを、直接目で確認していただき、デルの強みを理解してもらう取り組みも行いました。
中村(シスコ) 仮想化・集約化はシスコの中心戦略で、ユーザー様が抱える仮想化の悩みにどう対応するかに重点を置いてアプローチしました。ユーザー様と話していると、集約率や電力問題への対応、システム稼働までの時間や運用の手間など、仮想化環境の運用・管理で悩みを抱えているユーザー様は、非常に多い。そうした課題を解決するシスコの製品をパートナー様とともに紹介することで、ユーザー様が本当に望む仮想化環境の構築に貢献できるよう、努めました。
浅賀(NEC) 仮想化とエコ、BCPの3点をキーワードに、マーケティングプランを推進しました。仮想化は、SMBの導入意欲が高まってきており、ユーザー層が広がったと思います。SMB市場は、パートナー様が非常に強いですから、販売支援のためのツール・サポートの提供を引き続き推進しました。二つ目のエコでは、一般的な動作環境温度の35℃を上回る40℃での動作保証を実現した機種を、順次投入しました。
また、パートナー様に販売・営業力を高めてもらうための技術認定制度を強化しています。「仮想化」「ストレージ」「ftサーバー」「ブレード」「シンクライアント」にクラスタシステムの「CLUSTERPRO」を加え、さらに4月には「運用管理」もメニューに追加。認定技術者数は3600人を超えており、パートナー様の技術力向上に、少しは貢献させていただいていると思います。
カギはクラウド&ビッグデータ 戦略的新機種の発売などで対応
──今年度の施策についてはどうお考えですか。カギを握る言葉を教えてください。浅賀(NEC) 昨年度のキーワードを変えるつもりはありません。仮想化&クラウド、BCP、エコ、そしてコスト削減です。
中村(シスコ) サーバーだけに限らず、当社のデータセンターソリューションに共通するキーワードですが、「ユニファイド」つまり「つなぐ・統合」です。
布谷(デル) やはり、クラウドとビッグデータは外すことはできませんね。それと、成長株のVDIです。
小林(日本IBM) 二つあります。一つ目は仮想化。もう一つが、今年4月に発表した戦略製品の「IBM PureSystems」です。
橘(日本HP) キーワードは、クラウドとビッグデータ。この二つがやはり軸になるでしょう。
高群(日立) 「簡単・高性能・高信頼」。以前から追求していることに今年度も注力しながら、ビッグデータを意識して戦略を練ります。
芝本(富士通) IDCや組込ビジネス等もありますが、強いて挙げるなら、仮想化とハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)です。
──キーワードに関連する、みなさんの強みや取り組みを教えてください。
浅賀(NEC) クラウドや仮想化されたシステムでは、他のシステム以上に信頼性が求められます。高信頼性・高可用性のIT基盤と、そのためのソリューションが必要となります。NECには「ftサーバ」と「CLUSTERPRO」という高可用性・高信頼性を実現するためのハードウェアとソフトウェアをもっています。一つのきょう体内で、ハードを二重化する「ftサーバ」、高可用性を実現するクラスタリングソフト「CLUSTERPRO」を組み合わせれば、競争力のあるソリューションをつくることができます。
「ftサーバ」は、今年10周年を迎えた実績のある製品ですし、最長10年間の保守サービスもメニュー化していますから、安心して活用していただけます。また、「CLUTERPRO」は日本を含むアジア・パシフィック地域でトップシェア(※3)を獲得しています。パートナー様のビジネスを支援できる製品という自信があります。
BCPでは、震災後にオフィスに依存しないワークスタイルをつくりたいというご要望が多く、従来から推進している仮想PC型シンクライアントシステムの「VirtualPCCenter」というソリューションを軸に提案していきます。エコでは、先ほどもお話した40℃対応製品を拡充していますし、手軽に仮想化を始めたいユーザー様向けには仮想化ソフト「VMware vSphere」とサーバーを30万円で提供する「仮想化お手軽導入セット」も用意しています。
中村(シスコ) シスコの強みは、やはりネットワーク技術とそれを実装した製品・サーバーをもつことですから、全体の製品を通じてネットワーク・仮想化環境の統合と管理が売りになります。また、VDIでは競争力のあるソリューションをもっています。「Virtualization Experience Infrastructure(VXI)」というソリューションを2010年11月に発表しています。これは、デスクトップの仮想化を含め、デスクワーカー環境のモビリティと高品質の音声・ビデオのコラボレーションを簡単に実現するもので、コンピュータとネットワーク技術を融合し、デスクトップ環境・コミュニケーション環境を統合した、新しい仮想ワークスペースを実現します。
布谷(デル) ビッグデータは、DC事業者とクラウドベンダーだけでなく、一般企業からの問い合わせがこの一年でかなり増えました。ユーザー様は、自社内にある、これまでは使っていないデータを有効活用して、新たなビジネスの芽を創出しようと考え始めています。ただ、ユーザー様は、まだどのようなシステム・ソリューションを導入すればいいか、明確な答えをおもちではない印象です。それは、SIerにもいえることで、十分なナレッジがまだ業界に蓄積されていないため、明確なソリューションの確立についてはまだこれからというのが実情です。
こうした状況を変えるために、デルは今年2月にオープンで標準化されたクラウド環境の普及促進を目指す「オープン・スタンダード・クラウド・アソシエーション(OSCA)」という団体を立ち上げました。コンピュータメーカーやSIer、オープンソースソフトウェア関連の団体が協力して、互いの情報を共有しながら共同で検証したり、技術開発したりするほか、マーケティング活動にも共同で取り組みます。
小林(日本IBM)「IBM PureSystems」は、サーバーとストレージ、ネットワーク、それに管理機能などをシームレスに統合した「IBM PureFlex System」と、それにミドルウェアも備えた「IBM PureApplication System」があります。これは、IBMが提唱する次世代のコンピュータシステム「エキスパート・インテグレーテッド・システム」を実現するための第一弾製品群。各パーツ・機能が最適に統合されていて、システム全体を一元管理でき、資源の配置や修正プログラムの適用、アップグレード処理もシステムが調整するので、導入と運用に関わる手間が大幅に軽減されます。PureSystemsですぐ利用できるISVアプリケーションを認定する仕組みも作りましたので、お客様は自社アプリケーションの利用のみならず、そのカタログから自由に選択して迅速に導入できる。まさに“いいとこ取り”です。
「IBMがわかりにくいコンセプトを出してきた」とか「囲い込み戦略を始めた」とか思われるかもしれませんが(笑)、まったくそんなことはありません。パートナー様にも従来以上にビジネスチャンスをもたらしますので、誤解を解く意味も込めて、パートナー様に積極的にわかりやすくご説明していきます。
橘(日本HP) “スケーラブルコンピューティング”と“仮想化”と一見、相反する二つが重要なキーワードになります。また、それを支えるプラットフォームとして、インテルの新プロセッサ搭載の「HP ProLiant サーバー Generation 8」を今年3月に発表しました。この第8世代目の「ProLiant」の特長は、ユーザー様とパートナー様が行う導入・運用管理業務から解放する複数の技術とサービスです。
例えば、第4世代の「iLO」というモジュールがサーバーに標準搭載されており、OSやファームウェア、ドライバのインストールを自動化します。また、ハードの稼働状況を常時監視し、CPUやメモリ、HDDのエラー情報などのログも自動収集。障害が発生した場合は、無償で提供する管理ポータルでお知らせし、ご要望に応じて、日本HPやパートナー様のスタッフが駆けつけてメンテナンスさせていただくことも可能です。こうした機能を総称し「自働サーバー」というキャッチフレーズをつけました。
高群(日立) 日立は、以前からビッグデータ時代が到来するのを見越して、多様・大量な情報を一元管理し、容易に有効活用することができる環境を提供するため、「One Platform for All Data」というコンセプトを打ち出しています。どんなデータでも、一つの情報基盤に格納して、それをユーザー様が自由に扱うことができる世界を目指しています。政府のプロジェクトで東京大学とともに、従来比約800倍の超高速データベースエンジンの開発を進めているのも、その一環です。
サーバーだけでなく、ストレージやネットワーク機器、そしてミドルウェア、サービスを組み合わせた統合プラットフォーム製品は今後もっと求められますから、具体的なお話はまだできませんが、今年度にいくつか発売する計画です。
芝本(富士通) インテルの新プロセッサの発表に合わせて3月から新機種を発売していますが、「PRIMERGY CX400」はとくに特長的な製品です。2Uの筐体に最大四つのサーバーノードを搭載可能でかなりの高密度。GPUカードを搭載できるので、HPCには最適な機種です。こうしたHPC向け機種は、今後も品揃えを増やしていくつもりです。また、クラウドやビッグデータも大きなキーワードと考えており、4月には、ビッグデータの活用を支援するソフトウェア製品を開発し、新たに体系化して発表しました。これらの製品には、富士通が自ら提供してきたクラウドサービスで磨き上げた技術と運用ノウハウを、オンプレミス型システムで使いやすいかたちにしたものが入っていますので、自信をもっています。一方、仮想化では、FJMと共同で仮想化環境の設定済みモデルの提供を開始しました。なかなか好調で、中堅企業のユーザー様に広く受け入れられ、手応えを感じています。
(※3) IDC White Paper sponsored by NEC,The Importance of High Availability Solutions Increases with the Changes in Next-Generation Platforms,Doc #202133_EN,September 2011
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