Special Issue
<ユーザーに安心・安全を届ける フィルタリング大特集>#2 主要4社がフィルタリング市場の今後を語る ビジネスチャンスはまだ眠っている
2012/05/10 19:56
週刊BCN 2012年05月07日vol.1430掲載
#2 フィルタリングソフトメーカー座談会
本紙はフィルタリングに焦点をあて、数回にわたって特集を組む。この座談会はシリーズの一環で開催した。(写真右下から時計回りに)
アルプス システム インテグレーション
松下綾子 氏
キヤノンITソリューションズ
雪永 健 氏
トレンドマイクロ
吉田 睦 氏
デジタルアーツ
瀬川明宏 氏
<司会・進行>
週刊BCN 編集長 谷畑良胤
フィルタリングの大切さを語ろう
インターネットが急速に普及した1990年代後半から、ウイルスの脅威を防御する「アンチウイルスソフトウェア」が一気に国内市場に浸透した。2000年以降は、企業・団体の内部統制やコンプライアンス(法令遵守)に関して、個人情報保護法や「日本版SOX法」と呼ばれる法律の整備が進み、インターネットを利用する場合のさまざまな脅威への対策を講じる必要性が出てきた。そうした防御ツールのなかの重要なカテゴリーとして、企業・団体の機密情報の漏えいや不正サイトへのアクセスなどの防止をするために普及してきたのが、「URLフィルタリング」(ウェブフィルタリングは同義語)や「メールフィルタリング」に代表される「フィルタリングソフト」である。URLフィルタリングソフトは、インターネット上で「閲覧にふさわしくない」と判断したサイトをURLのブラックリストに基づいてアクセス制限する機能をもつ。一方、メールフィルタリングソフトは、送受信される電子メールを監視し、企業のセキュリティポリシーに合致する情報かどうかを判断し、不適切なメールの通過や遮断を自動的に実行するソフトだ。
欧米など先進諸国では、フィルタリングソフトを使うなどして情報セキュリティ環境を整備していない企業については、商取引が制限されるケースが多い。このような事情から、グローバルで展開し、欧米有力企業との取引やコンプライアンスなどを厳しく問われる国内の大企業においては、フィルタリングソフトが急速に普及した。また、学校や家庭では、子どもに不適切なサイトを見せない目的で、フィルタリングソフトが行き渡りつつある。
大企業や文教市場にフィルタリングソフトが普及する一方、中堅・中小企業(SMB)では、「有用性は理解しているが使い方がわからない」とか、コストメリットが認められないといったことを理由に、導入に消極的な企業が少なくない。というのも、大半のSMBは、情報セキュリティはアンチウイルスで事足りると認識しているからにほかならないからだ。
最近、フィルタリングソフトを開発・販売するメーカーでは、アンチウイルスやフィルタリングなどの機能を一体型にして導入の手間を省き、コストを安価にしたアプライアンス製品を出したり、従量課金型で利用できるクラウドベースの製品・サービスを投入している。システムの専任者が不在のSMBなどに配慮した製品・サービスである。
今回の「フィルタリング座談会」は、SMBを中心とした企業・団体に対して、フィルタリングソフトの有用性をエンドユーザーや販売パートナーにどう訴求し、どう普及すべきかを、各メーカーの立場を越えて活発に議論してもらった。セキュリティ製品全般にいえることだが、企業が目先のコストを渋って導入を先送りし、万が一情報漏えいなどの事故を起こせば、その金額は導入コストの数百倍になって跳ね返ってくる危険性をはらんでいる。ここ数年、スマートフォンやタブレット端末の利用が増え、その危険性がさらに高まっている。それだけに、フィルタリングソフトを販売するパートナーにとっては、その有用性を説明して販売すれば、自社の売り上げに貢献するだけでなく、ユーザー企業の安全な経営にも貢献できることになる。
今回の座談会に参加したメーカー担当者の議論を、フィルタリングソフトの販売に役立てていただきたい。
「売りにくい」といわれる市場をどのように攻略するか
──まずは、皆さんの経歴と所属する部門のミッションを紹介してください。松下(ALSI) 当社がフィルタリング事業を開始したのは1996年です。その頃からフィルタリングソフトのマーケティングや営業などを担当し、現在の「InterSafe」製品群に繋がる情報漏洩対策製品全般の販売企画などに携わってきました。現在では、フィルタリングソフトの認知度も高まり、当時と比べて市場環境が大きく変化していることを実感しています。
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フィルタリング事業の初期立ち上げを経て、セキュリティ製品全般の販売企画に携わり、数多くの案件を手がけてきた。現在は、ビジネス開拓など新規プロジェクトのマネジメントを担当している。 | ||
蛇口をひねると水が出るように、 ITセキュリティをあたりまえの存在にしたい |
雪永(キヤノンITS) 私は入社以来、UTMアプライアンスの「SonicWALL」、セキュリティソフトの「ESETシリーズ」などのソリューション事業に携わっています。現在は、GUARDIANセキュリティ部に所属し、フィルタリング製品の市場開拓に力を入れています。
瀬川(デジタルアーツ) エンタープライズ・マーケティング部に所属しています。現在、Webフィルタリングソフト「i-FILTER」、セキュア・プロキシ・アプライアンス「D-SPA」などの製品に関するマーケティング活動に携わっています。
吉田(トレンドマイクロ) 法人向けのプロダクトマーケティングを担当しています。アンチウイルスやアンチマルウェアのイメージが強い当社ですが、フィルタリングに関しても、ゲートウェイ型「InterScan WebManager」やSaaS型「InterScan WebManager SCC」のURLフィルタリング製品などを提供し、セキュリティビジネスの拡大を狙っています。
──ITセキュリティやフィルタリングについて、中堅・中小企業(SMB)の利用環境の状況を教えてください。
松下(ALSI) 当社は、数年前からSMBのお客様に向けて、フィルタリングの有用性をアピールしてきました。フィルタリングに対する意識は、年々向上していると感じていますが、実際の導入に至るまでには、越えなければならないハードルが数多く残っている。その理由の一つとして、予算を投入する優先順位のなかで、セキュリティの位置が低いことが挙げられます。セキュリティを施す以前に、業績拡大や事業継続のソリューションなどを優先的に導入するケースが多いようです。
雪永(キヤノンITS) SMBの経営層の方々から「フィルタリングの有用性については理解しているが、どのように活用すればいいのかわからない」「どのようなソリューションがあるのかわからない」という声を数多くいただきます。多くの企業がアンチウイルスソフトを導入するようになった一方、次のステップであるフィルタリングソフトの導入になかなか結びつかないというのが実情です。
瀬川(デジタルアーツ) 国内と海外の市場を比較すると、海外では企業がセキュリティ環境を整備していない場合、取引に悪い影響を及ぼすこともあると聞いたことがあり、経営の重要なファクターのひとつになっているように思います。しかし、日本ではセキュリティを「コスト」と捉える意識が非常に強い。セキュリティよりも先に、利益に直結するソリューションに投資する傾向があります。
吉田(トレンドマイクロ) 当社がもっているデータを見ると、ほとんどのSMBにアンチウイルスソフトが導入されている一方、その状況に安心してフィルタリングソフトまで目を向けていないことがわかります。セキュリティには、今回のようなフィルタリングなどコンプライアンスを含めた「広義のセキュリティ」と、アンチウイルスなどの「狭義のセキュリティ」の2種類があると私は考えます。ここ十数年、日本のセキュリティ市場は、この「狭義のセキュリティ」へのメッセージに偏っていた結果、フィルタリングに目が向かなかったのではないでしょうか。
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外部リンク
アルプス システム インテグレーション=http://www.alsi.co.jp/