Special Issue
<バックアップソフトメーカー座談会>再認識されたバックアップの重要性 SMBの拡大はSIerの提案力がカギ
2012/03/29 19:56
週刊BCN 2012年03月26日vol.1425掲載
平居(クオリティソフト) 一昨年にバックアップ製品を出したばかりですが、当社のビジネスとしてはいいスタートが切れました。その半年後に東日本大震災が発生しました。当社の製品は、CDP(継続的データ保護)に特化し、主なターゲットはSMBなので、容易に直前のデータに戻ることができるようにしています。震災前、SMBはバックアップ対象のデータが多いにもかかわらずバックアップをほとんど行っていないケースが多く、また、バックアップを実施していてもリストア経験がないユーザーが非常に多かった。震災後は、これらの層がバックアップの手法を含め、真剣に検討し始めたと感じます。
浅野(シマンテック) 震災の前後でユーザーの意識は変わりましたが、実際は震災前からデータ量の増加、ストレージ価格の低下などもあって、バックアップへの関心はすでにある程度は高まっていました。震災の影響は、当社に限ればSMBより大企業のほうがより顕著で、大企業は震災をきっかけにバックアップを再認識したと感じます。SMBは震災前からビジネスは堅調で、震災の特需は感じていません。
平居(クオリティソフト) 補足させていただくと、大企業は震災で必ず何らかの被害にあっていて、対策の必要に迫られました。ですから需要があるのはあたりまえですが、SMBは何かあればそこで事業や会社が終わってしまうというのが現実です。
春木(日本HP) 当社の場合、バックアップは、ソフト単体ではなく、ハードウェアの機能と組み合わせたソリューションで提供することが主流です。大企業では、特定の部分の障害がビジネスの継続性にとって致命的になることが改めて明らかになり、例えば、DR(ディザスタリカバリ)サイトの場所の選定も、電力会社の管轄をまたいだ遠隔地や、さらには国外での構築を検討する企業も出てきました。一方、SMB市場では、ユーザー自身の方針より、SIerのバックアップに対するアプローチがより重要だと感じています。
吉田(アクロニス) 当社のビジネス全体としては順調でした。当社の製品はイメージバックアップで、個人向け製品からスタートして法人市場を開拓してきました。ユーザーはSMBや、大企業の部門での導入が主流です。大震災以降の変化としては、具体的にその製品を使えば何ができるのか、どうすればよりよい対策ができるのかという問い合わせが確実に増えています。また、震災直後は数ライセンスのユーザーが中心で、それなりの特需もありましたが、2011年の後半からは、数十ライセンスというより規模の大きな導入が目立っています。加えて、もっと真剣にバックアップのあり方を考えるようになったと感じます。例えば、仮想化、クラウドといった選択肢を検討するケースが多いですね。
アクロニス・ジャパン セールスエンジニアリング ディレクタ 吉田幸春 氏 |
いろいろな方々を巻き込み、バックアップ分野に新しい風を起こしていく。 |
浅野(シマンテック) 本来、バックアップはシステム導入時にセットで、というケースがほとんどで、すでに稼働しているシステムに対しての追加はほとんどありません。しかし、大震災が与えた影響はやはり大きく、これまでバックアップ対象ではなかったシステムにも追加するというケースが出ていることは大きな変化だと思います。
──実行した施策の中で、具体的な成功例などを紹介いただけますか。
春木(日本HP) 2011年4月に発表した「HP Data Protector」の新製品は、仮想化対応の強化などを行うとともに、ライセンス体系も見直しました。バックアップ対象のサーバーが何台でもライセンスの増額がなく、仮想サーバーを多数運用する仮想化環境やクラウドに大きなメリットがあります。バックアップはROI(費用対効果)の算出が難しいのですが、これなら確実にコスト削減が見込めます。実際、発表後は問い合わせが多く、他社製品からの乗り換えもあります。
吉田(アクロニス) 当社も昨年11月に「Acronis Backup & Recovery」の新製品を発表しました。クラウドや仮想化対応の強化とともに、データの引っ越しを容易にしています。当社の製品はクラウドもオンプレミスも一括してサポートできるので、データによって双方を使い分けたいというようなユーザーや、クラウドサービスの事業者さんから多くの引き合いをいただきました。また、昨年の後半からLinux対応の強化も図っています。とくに、レッドハット社との協業で機能を強化しています。こうした施策によって、従来はバックアップ対象もサーバー数台から数十台規模が中心でしたが、最近は、多いもので数百台規模という案件も出ています。
平居(クオリティソフト) 私は以前、企業のシステム部門にいた経験から、とくにSMBのバックアップ対策の必要性を、講演を通じて訴え続けてきました。なかでもポイントとなるのは、仮想化を徹底すること。イメージで取った時に、仮想化環境であればどんな機器にも戻すことができるからです。そして、日頃からリストアの訓練をすべきだと主張しています。ただ、そうした案件の引き合いは少数にとどまっています。その理由が今までわかりませんでしたが、今回のお話のなかでバックアップはシステム導入時にしか売れない、と聞いて理解できました。
クオリティソフト 取締役 ビジネス企画本部本部長 アドバンスドソリューション部部長 平居透 氏 |
震災はまだ収束したわけではない。CDP(継続的データ保護)の必要性を繰り返し訴えたい。 |
浅野(シマンテック) やはり注目は仮想化です。しかし、新技術なのでこれまでバックアップがあまり考慮されず、仮想化に特化したバックアップ製品が市場に占める割合は少ないと感じていました。逆にいえば、それだけ潜在的に大きなチャンスがあるということで、当社も積極的にプロモーションをかけ、結果として期待以上に伸びました。今後も、シマンテックは仮想化に強いことをアピールしていきます。また、仮想化の分野ではSMBの伸びが目立ちます。
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