Special Issue
<SMB市場攻略 特集>変貌する中堅・中小企業のIT投資
2011/07/28 19:56
週刊BCN 2011年07月25日vol.1392掲載
BCPや節電に役立つクラウドの評価が高まる
クラウドが震災後に影響力増す中堅・中小企業のIT投資は、東日本大震災の影響を受けて楽観視できない状況にあるといわざるを得ない。しかし、すべてのIT投資が鈍化しているわけではなく、とりわけ事業継続計画(BCP)や災害復旧(DR)、節電・省エネに役立つシステムであれば受け入れる余地は大きい。IT調査会社のノークリサーチによれば、年商500億円未満の中堅・中小企業の2011~2015年までのIT投資の成長率推計は、震災前が2.4%であったのに対して、震災後は2.1%へと減った。伸び率がやや鈍化しているが、一方でBCP・DR、電力事情の悪化に対処するために、省エネやクラウド方式へ移行する投資には積極的な一面がみられる。
客先設置(オンプレミス)型のクライアント/サーバー方式では、電力事情の影響を直接的に受けてしまうし、データが消失したときのバックアップもままならない。全国的に電力需給が逼迫するなか、会社でしか使えないクライアント/サーバー方式の限界がみえてきた格好だ。この点、クラウドを支えるデータセンター(DC)設備は、少なくとも中堅・中小企業の電算室よりは遥かに堅牢にできており、電源やデータのバックアップ体制も充実している。通信回線は、有線や無線など複数種類を活用でき、構造的にはどの端末からでも自由にアクセスできる。
実際、東日本大震災直後の混乱期や計画停電時には、クラウド系が粘り強くサービスを提供し続けたのに対し、オンプレミス型は弱かった。会社に出勤できなかったり、計画停電の対象地域に事業所があったケースでは、事業が中断してしまった。クラウド系サービスへの評価は、震災をきっかけに高まったといえるだろう。
事業拡大に節電とBCPは不可欠
中堅・中小企業は、2008年のリーマン・ショック以降の経済の冷え込みで、IT投資を絞る傾向がみられる。ここ数年、実用的になってきたクラウド型サービスに対しても、同様に慎重な姿勢を崩しておらず、これが今回の震災で脆さを露呈したオンプレミス型クライアント/サーバー方式の比率が高止まりしてきたことの背景にある。ただ、電子メールなどの定型的なシステムは、すでにITベンダーにアウトソーシングしたり、ITベンダーが用意しているメールサービスを利用しているケースが多い。このため、事業所に設置してある業務システムは震災後の停電で停止したが、電子メールは止まることなく活用できたという話をよく聞く。
クラウドなどDC活用型のサービスは、BCPやDRに役立ち、さらに事業所内にサーバーなどを設置しないので、自社の節電にも役立つ。先のノークリサーチの震災後の調査によれば、今後のIT投資を増やすと回答した中堅・中小企業のうち、その理由を複数選択で問うたところ、最も多かったのが「震災とは関係なく、自社の業務改善/コスト削減のため」という回答で、その次に節電、クラウド移行といった順番となった(下図参照)。自社のビジネスや収益力を高めるための投資が一義的には多いものの、その次に節電やクラウドが続き、震災の与える影響の大きさがうかがえる。
ITベンダーも、この点をよく理解しており、すでに中堅・中小企業向けのクラウド型サービスを拡充しはじめたSIerも出てきた。有力SIerの日立情報システムズと日立電子サービスは、SaaS/クラウドサービスのeマーケットプレース「MINONARUKI(みのなるき)」を本格的に立ち上げ、中堅・中小企業向けのクラウドサービスの拡充に力を入れる。次ページでは、日立情報システムズの取り組みについてレポートする。
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