Special Issue
<医療市場特集>進化を求められる 医療IT市場 医療機関の連携が必須に
2011/04/21 19:56
週刊BCN 2011年04月18日vol.1379掲載
IT戦略本部は、電子自治体の構築やITによる住民サービスの向上など日本のIT戦略立案を担う中核組織で、2001年1月に発足している。2011年5月には「新たな情報通信技術戦略」と称するIT戦略を発表して、中期的な指針を示した。このなかで医療分野はとくに重要視されている。
この戦略では、基本方針を三つ定めている。その一つは「国民本位の電子行政の実現」、二つ目は「地域の絆の再生」、そして三つ目が「新市場の創出と国際展開」。医療は、この3指針のうちの「地域の絆の再生」を具現化するための4施策の一つに定められている。
医療分野の取り組みで、今後政府が推進する施策は大きく分けて四つある。その1は、「どこでもMY病院構想」。これは、個人がどの医療機関で受けた健康・医療情報でも、医療情報を閲覧・活用できるようにする構想である。計画では、2013年にその一部サービスを開始するとしており、構想を実現するうえでの運営主体や情報の取り扱いについて議論が進んでいる。
その2は、「シームレスな地域医療連携の実現」。各地域にある医療機関や介護福祉施設の間で、データを共用する仕組みを構築しようという試みで、医療情報システムの普及と標準化を推進する考えを示していた。そして、その3が「レセプト情報などの活用による医療の効率化」、その4が「医療情報データベースの活用による医薬品などの安全対策の推進」だ。
IT戦略本部は、2010年5月にこの基本戦略を発表した後、「医療情報化に関するタスクフォース」を設置して、およそ10回にわたって有識者を集めた会議を開いている。直近では3月14日に第10回目を開催しており、IT戦略本部のウェブサイトで報告書をアップしている。各施策で具体的な問題点や推進施策が議論されており、詳細が詰まってきている。
医療機関のIT化では、電子カルテやオンラインレセプト、医療事務などさまざまなシステムがある。IT化が遅れているとはいえ、ここ数年で医療機関にそこそこ浸透してきた。今後焦点になるのは、医療機関同士の連携だ。
現在、最も大きな問題になっているのは、各医療機関で運用するシステムの連携が取れていないことだ。医療機関ごとでは診療情報や治療情報、カルテが電子化されていても、それを共有する取り組みがされていないのだ。ある医療機関で受けた情報が、他の医療機関は利用できないので、また最初から診察を受けたりしなければならず、医療機関の業務効率が一向に改善されない。また、患者にとっても二度手間になってしまうのだ。
プライバシーの観点から、その実現にはさまざまなルールを作成する必要があるが、各医療機関同士のデータ連携がなされなければ、医療分野のIT化を進めてもその効果は小さい。
高齢者社会が進めば、医療機関や介護施設に通う人も増え、医療機関の業務効率化はますます必要になる。それを見据えた医療機関のIT化策は、従来以上に重要になってくるはずだ。