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NTTコミュニケーションズ “日本発”のクラウド・サービス確立へ パートナー企業とともに飛躍を遂げる

2010/03/18 19:55

週刊BCN 2010年03月15日vol.1325掲載

 NTTコミュニケーションズが通信事業者の強みを生かしたクラウド・サービス「BizCITY」を確立しようとしている。必要なとき必要なだけ、安全・安心に利用できるサービスを次々と増やしてきているのだ。最も注目すべきは、ISV(独立系ソフトウェアベンダー)やSIerとのパートナーシップを重んじていること。クラウド関連サービスとして海外ベンダーが勢いを増しているなか、“日本発”のクラウド・サービスを追求し、パートナー企業とともに飛躍を遂げる。

クラウドのニーズ高まる
通信事業者の強みを生かす

 クラウド時代が到来しつつあるなか、国内市場でSaaSに代表されるサービス型モデルを利用するユーザーニーズが高まってきている。欧米と比べて日本のほうがブロードバンドの整備が進んでいることなど、ネットワークインフラに恵まれているためだ。また、市場環境を含めて最近ではSaaSを中心にクラウド・サービスが充実しつつあることから、個人に限らず企業が本格利用するという流れが本格化している。

 こうした状況下、国内ベンダーのサービスを利用したいとするユーザー企業のニーズが高まりつつあるといわれている。「より身近なベンダーにサポートしてもらいたい」といった理由からだ。そのようななか、通信回線を中心にサービスを行う通信事業者が日本のユーザー企業に適したクラウド・サービスを提供できるということで注目を集めている。なかでも、NTTコミュニケーションズはクラウド・コンピューティング時代に最適なサービスを幅広く提供していることから、ユーザー企業からの期待が大きい事業者の代表格といってよいだろう。

ビジネスネットワークサービス事業部
販売推進部担当部長
中山幹公氏

photo by Kouichi Katsuyama
 「お客様が通信事業者に期待しておられるのは、クラウド・コンピューティングが三つの要素で構成されているからです」と説明するのは、ビジネスネットワークサービス事業部販売推進部担当部長の中山幹公氏。クラウド・コンピューティングは、データの処理などを実行する「サービス」部分、実行した処理のデータをやり取りする「ネットワーク」部分、データの入力や処理結果を表示する「端末」部分の3要素で構成されている。中山氏は、「多くのITベンダーがSaaSやPaaS、HaaSなどを提供している状況にあって、そのサービスをつなぐためのネットワークが不可欠となります。クラウド・サービスを一気通貫で提供できることが通信事業者の強みです」と断言する。これが、通信事業者がクラウド・サービスを確立できる可能性が高いといわれる所以だ。

 さらに、中山氏は「通信事業者は、もともと通信回線で『サービス型モデル』を提供してきました。当社はクラウドやSaaSの発展そのものを推進できるプレーヤーと自負しています」と付け加える。自社システムの運用や管理などをベンダーに任せる「アウトソーシングサービス」の観点でいえば、アウトソーシング化が進展しているなかで、いつの時代もネットワークの部分は「利用型」だった。他方、コンピュータメーカーのビジネスはユーザー企業の社内にサーバーなどのシステムを構築する「所有型」。そういった点でも、「多くのお客様から、さまざまな問い合わせや要望をいただいております」と中山氏は強調している。

注目のSaaS基盤
クラウド利用の課題を解決

 ユーザー企業から絶大な信頼を寄せられるNTTコミュニケーションズが、クラウド・サービスとして数多くのラインアップを揃えているなかで、ISVやSIerなどとのパートナーシップ深耕を目的に提供しているのがSaaS基盤「BizCITY for SaaS Provider」である。中山氏は、「この基盤は、『パブリック・クラウド』と『プライベート・クラウド』の両方を“いいとこどり”しているのです」と、ユーザー企業が同社のクラウド・サービスを利用するうえでメリットがあることをアピールする。

 幅広いユーザーを対象とした「パブリック・クラウド」は、料金が安いといわれているが、利用する際にトラフィックの影響によるスループット低下やセキュリティ面での不安などといった問題がある。自社だけでクラウド・サービスを利用する「プライベート・クラウド」では、データセンター(DC)に専用回線を設置することでセキュリティ面の課題は解消されるが、集中するトラフィックの影響を避けるためにセンター回線の帯域を太くしなければならないことや、運用管理面などでコスト高になる。これに対して「BizCITY for SaaS Provider」では、ユーザー企業がアプリケーションを同社のVPN(公衆回線を専用回線のように利用できるサービス)経由で利用可能なことからセキュリティ面の課題を解決している。

 さらにいえば、DC向け専用回線の必要がなく、多額なネットワークコストがかからない。シームレスで帯域フリーであることも特徴である。センター回線に相当する費用として1VPNあたり月額で7350円(税込・アプリケーション接続サービス)で済む。基盤内にラインアップしているアプリケーションをすべて利用可能なことも売りになっている。中山氏は、「基本的なアプリケーションを揃えていますので、盛んに利用されています」と自信をみせる。

 現在、「BizCITY for SaaS Provider」のアプリケーション数は20種類ほどが揃っている。同社が提供しているものもあるが、ほとんどがISVとの協業でサービス化したものだ。また、昨年には国内ソフトウェアメーカーで構成される団体の「MIJS(メイド・イン・ジャパン・ソフトウェア)コンソーシアム」との協業を果たしている。「アプリケーションの充実を図るため、さまざまなベンダー様とパートナーシップを組むことに対して重きを置いています。また、パートナー企業様とともに成長していきたいと考えています」と、中山氏は訴えている。

 アプリケーションサービスに加え、もう一つ特徴的なのは基盤連携ができる点だ。自社でDCを構築してPaaSやSaaSなどを提供するSIerがNTTコミュニケーションズとアライアンスを組めるということになる。すでに、大手ISV/SIerなどが所有するDCと連携。中山氏は、「基盤連携でも積極的に協業します」としている。


「Bizホスティング ベーシック」の提供開始へ
パートナーのビジネスチャンスに

 クラウド・サービスの提供で、ISVやSIerなどとの協調関係を築くことに力を注ぐ同社が、サービス拡充の位置づけで提供するのが「Bizホスティング ベーシック」だ。提供開始は2010年5月を予定している。中山氏は、「このサービスは、『プライベート・クラウド』を構築するお客様に提供することに加え、パートナー企業様にも利用していただきたいと考えています」という。加えて、「このサービスを切り口として、さらにパートナー企業様を増やしていきます」としている。

 「Bizホスティング ベーシック」は、国内に点在するNTT Comの通信局舎ビルを有効活用し、仮想化技術を採用したオンデマンドで柔軟なサーバーリソースを提供するクラウド型ホスティングサービスだ。VPNに直結したネットワーク一体型でセキュアな利用環境を実現しているほか、クラウドならではのメリットであるアプリケーションをダウンさせずに仮想マシンを別のサーバーに移動する技術「ライブマイグレーション」による可用性や信頼性の向上、サーバー容量の柔軟な増減が可能だ。さらにBCP(事業継続)への対応も予定している。「拡張性が高いという点で、他社との差異化を図っています」(中山氏)。価格は、仮想マシン1台あたり月額1万円台(予定)の利用料金とリーズナブルに設定している。

 ユーザー企業にとって、自社のサーバーをアウトソーシングすることや自社構築のDCと接続する広帯域なセンター回線が不要というメリットがある。ISVやSIerなどが活用する場合は、自社のアプリケーションを「Bizホスティング ベーシック」を利用してサーバー環境をアウトソーシングすることで手軽にSaaS化でき、強みのソリューションを提供できる。中山氏は、「中堅・中小企業(SMB)を顧客対象とするパートナー企業様にとってメリットになるのではないでしょうか」とみている。


絶え間ないサービスの拡充
将来的に海外市場も視野に

 同社では、先にクラウド型サービスとして「Bizストレージ」を提供開始した。同サービスは、ファイルサーバー機能をNTT ComのVPN上で提供される。センター回線不要でVPN直結により自社構築と同等のセキュリティを保ちながら、テラバイトを超える大容量データを保管できることが特徴となる。料金は1GB(ギガバイト)あたり月額210円(税込)と低価格に設定していることも魅力だ。

 このように次々とクラウド・サービスの拡充を図っているわけだが、「今後も、積極的にサービスのラインアップを広げていきます」と、中山氏は語る。具体的には、アプリケーションに接続するための認証や課金など周辺機能の拡充を図るほか、モバイルをはじめとして簡易クライアントやMtoM(マシン・トゥー・マシン)など複数の端末に対応することによるアプリケーション用途の拡大も追求していくという。

 こうしたサービス拡充は、「ISV様やSIer様などとのパートナーシップを深め、“日本発”のクラウド・サービスの確立を目指す」(中山氏)という目標があるからだ。クラウド時代でパートナー企業とともに確固たるポジションを築こうとしている。また、国内での地位を確立すると同時に、視野に入れているのが海外市場。「日本の技術が海外で通用するかどうかについては未知数といえますが、確実にいえることはアプリケーションがカギを握るということです。海外で通用するクラウド・サービスを確立するためにも、パートナー企業様を増やし、協調関係を深めていくことが重要なのです」と、中山氏は訴える。

 最近では、国内のITメーカーによるPaaSやプラットフォーム提供で法人向けクラウド市場が立ち上がりつつあるといわれている。ただ、個人市場で普及しつつあるからか、「パブリック・クラウド」を提供する海外メーカーに勢いがあるというのが実情だ。そのようななか、通信回線をもち、しかもISVやSIerをパートナーとして“日本発”を切り口にクラウド・サービスの提供に力を入れているNTTコミュニケーションズは、大きな可能性を秘めているといえそうだ。中山氏は、「2010年は“クラウド元年”です。まずは国内クラウド市場を一気に開花させます」と言い切る。
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