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<SMB向けストレージ市場特集>ストレージ拡大のカギ IPSAN

2008/11/27 19:56

週刊BCN 2008年11月24日vol.1261掲載

 これまでストレージ需要が少ないとされてきた市場だったが、日を追うごとに増え続けるデータを管理する重要性を認識してきているためだ。そのためITベンダーにとっては、ストレージ関連事業がSMBを開拓する柱のひとつに浮上しているといえる。ただし、このビジネスに“旨味”をつけるにはストレージを中心にさまざまな製品・サービスを提供することがカギとなる。キーワードのひとつに挙げられるのが、IPベースでSAN(ストレージ・エリア・ネットワーク)を実現する「IP-SAN」だ。「IP-SAN」を中心に、SMBの導入を促す秘訣を探ってみよう。

SMBの導入を促進する秘訣は!?
SMB(中堅・中小企業)市場でストレージ機器の需要が増えている。

市場は平均4.8%増で成長 データ管理の重要性を認識

 IDC Japanによれば、国内SMB向け外付型ディスクストレージシステムの売上規模は2007年に前年比14.3%増の152億円。大企業を含めると市場全体の伸び率は前年比1.1%増だったとしており、SMB需要の増加が市場拡大のけん引役であることを示している。また、同社はSMB市場の伸び率として12年まで年平均4.8%増で推移すると予測。ITベンダーにとっては、SMB向けストレージ機器の販売が事業拡大につながるといえよう。

 そもそも、ここにきてSMBのストレージ導入が増えているのはなぜか。それは、SMBがデータ管理に関する必然性を意識し始めているためだ。彼らはこれまで、データ蓄積については「サーバーだけで十分」と考えていた。しかし、企業内のデータは増え続けている。システム管理者にデータ管理負担が重くのしかかってきた。また、重要なデータをバックアップしておく必要性も認識されつつある。最近ではJ-SOX法の適用で上場企業がデータ管理を徹底的に行っているなか、取引先にも同程度のデータ管理を強いているという事象もある。そういったさまざまな事情から、SMBはストレージ機器導入に踏み切っているというわけだ。

 IDC Japanによれば、国内ストレージ市場でSMBが占める割合は、現段階で10%にも達していないという。裏を返せば、ベンダーにとっては新規開拓できる広大な市場があるということだ。ビジネス的にはこれまでサーバーとのセット販売が主流といわれていたストレージビジネスだが、それだけでなくストレージを中心とした製品・サービスの提案で案件を獲得できる可能性も現れつつある。

IP-SAN対応製品が続々とソリューション創造が重要に

 ストレージを中心とした製品・サービスのひとつとして、ネットワークインフラを含めた提案、特にIP-SANが挙げられる。IP-SANは代表的なSANであるFC-SAN(ファイバ・チャネル接続するSAN)と比べ、安価なイーサネットスイッチで構築することが可能である。そのためFC-SANユーザーから注目を集めてきた。FC-SANユーザーは全国に多くの拠点を持つ大企業が中心となっている。コスト削減の観点から、大企業の間ではIP-SANにリプレースするケースが多かったといえるだろう。

 低コストでSANを構築できるということから、「IP-SANがSMBにも普及するのでは」という見方が出てきている。そこで、ストレージメーカー各社は、ここにきてIP-SANのインタフェースとなる「iSCSI」を採用した機器を続々と市場に投入。しかも、100万円以下などに機器の価格を抑えてSMBでも購入できる環境を作り上げようとしている。

 ただ、「実際にSMBでIP-SANのニーズは高まっているのか」という疑問も出てくる。というのも、SANを構築するユーザー企業の多くは、各拠点に点在するデータを管理することが目的だからだ。1オフィスしかないSMBにとっては、もともと1か所にデータが集中していることから、SANを構築するメリットを認識していない可能性が高い。となれば、iSCSIを提案していくうえでメーカーや販売代理店などによるソリューションの創造が重要になってくる。内蔵ディスクや外付けディスクの代わりに、iSCSIストレージ機器で安く、簡単に、信頼性の高いことを訴え、導入後、FC-SANのようにIP-SANを利用して統合環境にしていくことを促すことが必要というわけだ。

“IP-SAN Ready”の環境を作る 仮想化や業務アプリなどで提案

 ストレージ関連事業を手がけるベンダーにとって、iSCSI対応のストレージ機器でSMBを掘り起こすことが難しい状況ではあるものの、IP-SANの提案によるビジネスには大きな魅力がある。IP-SANの案件を獲得できれば、ストレージ機器の販売に加えてネットワークインフラのリプレースなどにつながる可能性があるためだ。1顧客あたりの売上単価を高めるには、IP-SANは最適の商材と考えられるのだ。

 では、SMBのニーズが少ない現状のなかで、iSCSI対応のストレージ機器を販売するにはどうすればいいのか。SMBを中心としたユーザー企業動向の調査会社であるノークリサーチの岩上由高シニアアナリストは、「ストレージ機器の単品売りで、IP-SAN環境の基盤を作っていくことが当面のビジネスではないか」と分析する。価格が100万円を切ったということは、SMBにとっては購入しやすい状況になったということ。まず低価格をアピールすることで導入させ、ニーズが高まってきたら迅速に対応するという“IP-SAN Ready”の状態を広げていくというわけだ。SMBによるストレージ導入率が低いだけに、需要を掘り起こして顧客として確保、次のチャンスとしてIP-SANを視野に入れることがビジネス拡大に結びつくのではないか。

 また、「ストレージ仮想化をアピールしていくのはどうか」(同)という提言もある。サーバー仮想化で、“仮想化”に対する関心や認識が高まっていることも事実だ。これを利用してストレージ仮想化環境でIP-SANが効果的であることを訴えるのも導入を促す策のひとつといえる。さらに、「業務アプリケーションの統合という観点で、IP-SANを提案する」という手もある。

 SMB向けIP-SAN市場が立ち上がっていない今、それをプラスに捉えて、「市場を創造する」という意識でいち早く提案していくのも重要なこと。こうした意識が、新たなビジネス機会を生むきっかけとなる。売り手にとっては、他社に先行することが市場で主導権を握る要となりそうだ。メーカーは、IP-SANを切り口に新しい販売代理店を開拓していくことが求められるだろう。

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