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<ストレージソリューション特集> 「止められないシステム」と「失えない情報」を守る 利便性と信頼性との両立が、システム構築の必須要件に

2008/04/05 19:56

週刊BCN 2008年03月31日vol.1229掲載

 企業のITシステムは、これまで業務効率や生産性の向上を実現するソリューションとして注目されていた。サーバーやクライアントPCのほか、業務システムなどへのIT投資も進み、企業の成長を支えてきた。それらのITシステムは、現在では企業の基幹業務までも担うようになり、ビジネスに欠かせない業務基盤として認知されている。「ビジネスそのもの」とも言える情報を保管するストレージの現状を追った。

これまで盲点だった電源トラブル

 これまで、ミッションクリティカルな一部の大規模システムは「止められない」システムとして認知されていたが、最近では一般企業のITシステムにおいても同様の状態となりつつある。

 何らかの障害により企業システムの停止が余儀なくされれば、企業活動も停止してしまうことにもなりかねない。自社の信用失墜だけではとどまらず、顧客企業への損害や社会的な問題に発展することもあるだろう。たとえ一部のITシステムのダウンだけでも、社内全体に及ぼす影響は計り知れない。ダウンタイムが長くなればなるほど、ビジネスへの影響が大きくなってしまう。それだけに、高い信頼性も求められるようになっている。

 信頼性を向上させるためにITシステムを冗長化させ、可用性を向上させる必要がある。コスト増になるが、システムを「止めない」ことのほうが重要と考える企業が増えている証だといっていいだろう。しかし、いくらITシステムを冗長化しても、対応できないケースがある。「停電」である。日本は電力供給が安定しており停電などの電源トラブルの可能性は低い。しかし、災害など、何らかのトラブルが発生し電力供給の停止が余儀なくされるケースも想定される。建物によっては、自動的に自家発電に切り替えるシステムを持っているケースもあるが、自家発電に切り替わる瞬間に電力が不安定になる可能性もある。こういった環境は、ITシステムが停止する危険をはらんでいる。稼働しているITシステムが突然ダウンすると、そこを流通している情報を保護することが難しいことに加え、電源ユニットなどに障害が発生する可能性も無視できない。

 停電になっても、ある一定時間ITシステムに電源供給を行う無停電電源装置(Uninterruptible Power Supply:UPS)が注目されている。UPSは、これまでも、データセンターなどで、ミッションクリティカルなシステムには導入されてきた。それが、一般企業などでもニーズが高まり、導入が進んでいるのだ。また、小型のモデルも提供され始め、多くの機器に組み込まれるようになっている。

 昨今、IT機器はサーバーやクライアントPCだけではなく、多くの機器がネットワークと接続されている。例えば、駅の自動改札や自動販売機、販売店のPOSシステムなどもネットワークに接続されている。こういった機器やシステムも、UPSを活用することで飛躍的に信頼性を向上させることができる。

システムのダウンタイムを最小化することがより重要に

photo ITの重要性が増していることに加え、ネットワークを流れる情報量も爆発的に増加している。この傾向は、今後さらに増し、情報爆発と呼ばれる状況に陥りつつある。経済産業省によるインターネット内の情報流通量の推計を見ると、2006年で637Gbps(ギガビット/秒)となっている情報流通量が、25年には121Tbps(テラビット/秒)になると試算している。これは、190倍の情報流通量である。

 情報流通量が増加するなか、より重要性を増しているのが情報の保管庫であるストレージだ。ストレージには、企業のビジネス活動そのものが記録されるようになっている。

 危険も考えられる。事業継続管理(BCM:Business Continuity Management)や、事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)といった観点からも、ストレージに関心が高まりつつある。

 政府機関も、「事業継続計画策定ガイドライン」(経済産業省)、「事業継続ガイドライン第一版 ―わが国企業の減災と災害対応の向上のために―」(内閣府中央防災会議)などのガイドラインを相次いで発表している。情報をいかに保護し、万が一の事態に備えるかという課題は、自社だけの問題として捉えるのではなく、社会全体として取り組まなければならない課題になりつつある。

 もはや、企業規模を問わず、バックアップやデータレプリケーションといったソリューションの導入は、不可避だ。これまでもバックアップ用途としてテープを使ったソリューションが数多く導入されてきた。テープは、可搬性が高く、長期保存もできることからバックアップの基本として活用されている。しかし、バックアップ・リストアが低速という課題があり、万が一の障害発生時に、いち早くシステムを復旧できないケースが出てきた。そこで、テープにバックアップする手前で、より高速なディスクにバックアップを作成し、速度面を克服しようとするソリューションが登場し始めている。

 最近では、NAS(Network Attached Storage)を活用したソリューションも増加し、コストを抑えながら信頼性の高い企業システムを構築できるようになっている。これらのシステムは、小さい規模でも活用でき、中堅・中小企業での導入も進んでいる。中堅・中小企業では、専任の管理者を配置できない場合も多いが、管理・運用性を向上させることで、市場のすそ野を広げている。ストレージ市場が今後広がっていくことは間違いない。
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ユタカ電機製作所
UPSの用途を広げる画期的な新製品  Super Smartシリーズを市場に投入

信頼性を高める無停電電源装置

 ユタカ電機製作所は、1983年からUPSの製造・販売を行っている。「常時インバータ給電方式の小型UPSを日本で初めて投入し、それ以来システムの信頼性を高めたい企業のお客様を中心に拡販してきました。現在では、自社ブランドのほか、OEM(相手先ブランドによる生産)、海外展開などを行い、多くのお客様に採用していただいています」と電源本部・設計部・第三設計グループの菅野充マネージャーは語る。

 UPSは、停電や電圧変動、サージなどのリスクから、システムやデータを守るために活用されており、決して止めることができないミッションクリティカルな用途で導入されてきた。それだけに、何より信頼性が求められている。

小型という高付加価値

 ユタカ電機製作所のUPSは、事業展開を始めた当時から小型をうたい、市場でも確固たる地位を確立してきた。また、実証主義的な回路設計を行っており、品質はもちろん信頼性も高いため、一般企業はもとより官公庁のほか、海外の軍事向けとして採用されている実績がある。

 このような、UPSについて技術力が高い同社が、満を持して市場に投入したのが、常時インバーターUPSとしては世界最小クラスの「Super Smart」シリーズだ。「Super Smart」シリーズは、1kVA品で250×69×380mmというサイズで、同社既存品と比べて半分以下の体積となっている。

 「従来ハードウェアで行っていたスイッチングを、マイコンのデジタル制御方式に変更し、ハードウェアの部品点数を大幅に削減しました。小型化と同時に装置としての信頼性も向上しました」と、電源本部・設計部・第三設計グループの樋口久氏は語る。

 「Super Smart」シリーズは、運転効率が90%以上という高効率のため、運用コストを抑えることができる。また、周波数変動にも対応できる回路を新たに開発。工場や病院などの発電機での電源供給に切り替わることのある電源環境に恵まれないケースにおいても、十分利用できるUPSとなっている。

 「小型でスマートな筐体なので、組み込み用途などにも適しています。また、入力電圧範囲が広い製品なので、小売店舗のPOSシステムなど、設置環境がシビアな場合でも十分活用できるUPSとなっています」(菅野マネージャー)とのことだ。

ニーズに応える製品群でパートナーのメリットも大きい

 「Super Smart」シリーズを投入したことで、これまで以上に市場が広がっている。ニーズはあるものの、設置場所などが課題となってUPSを導入してこなかった市場に対しても応えることができるためだ。

 これまでのUPSは、差別化されておらず、価格競争が激化する一方だった。そのような市場において「Super Smart」シリーズは、小型という付加価値で新たな顧客の獲得にも寄与する。

 ユタカ電機製作所は、これまでも高付加価値のUPSを提供し、市場でも受け入れられている。

 例えば、自律型ネットワークUPSを実現する「SNMP WEB BOARD」などは、その好例といえるだろう。「SNMP WEB BOARD」を耐高低温、長寿命タイプUPS「Hyper F」シリーズなどに装着することで、管理ソフト不要でサーバーの管理が可能になる。導入企業にとっては、シャットダウンソフトウェアのインストールが必要ないばかりか、検証などの作業が不要となる。ユタカ電機製作所のような提案は、システムインテグレーターやパートナー企業にとって付加価値として利用しやすいため、取り扱うメリットは大きいといえるだろう。システムの信頼性が求められるなか、UPSの重要性はますます増加している。幅広いラインアップを持ち、ユーザーが必要とするソリューションを提供できるユタカ電機製作所は、UPS市場において、さらに注目されていくことだろう。

ユタカ電機製作所=http://www.yutakadenki.jp/
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アイ・オー・データ機器
ディスク to ディスクのバックアップニーズが高い 業務システムを止めないホットスワップに対応

信頼性を重視した「HDL-GTR」

 ストレージはファイルやデータを保存するものから、ビジネス活動全体を保存するものに変貌を果たしている。企業の中では、さまざまな業務アプリケーションが使われ、それらのデータは最終的にストレージに保存される。また、事業継続という観点から、より高速なバックアップ先として、NAS(Network Attached Storage)を採用しているケースも増えている。ニーズが高まっているストレージ市場において、信頼性・管理性が高く、導入・運用コストが安いアイ・オー・データ機器に注目が集まっている。

 「HDL-GTR」シリーズは、RAID 5構成で信頼性を向上させていることに加えて、eSATAポートに同容量のSATAハードディスクを増設することで、増設ハードディスクに丸ごとミラーリングを実行できる「eSATAミラー」機能を有している。これにより万が一内蔵ハードディスクに大きな障害が発生した場合でも、増設SATAハードディスクがデータの損失を防いでくれるので安心だ。

管理・運用性が高くSMB市場から注目

 さらに管理・運用性が高いのも「HDL-GTR」シリーズの特徴といえるだろう。同シリーズは、ブラウザからすべて設定できるので専門知識も不要だ。専任の管理者を配置できないSMB市場にとって、うってつけのソリューションといえよう。また、「HDL-GTR」シリーズは、ユーザー/グループのディスク使用容量制限機能に対応し、一部ユーザーによるストレージの使いすぎを未然に防ぐため、複数ユーザーで情報共有する場合にも適している。さらに「HDL-GTR」シリーズは、電源を入れたままドライブ交換できるホットスワップに対応している。ホットスワップに対応していなければ、ハードディスクに障害が発生した場合、NASの電源を切り、交換作業をしなければならない。その間、NASを利用することができず、ビジネスの停滞も余儀なくされる。ビジネスで活用するNASでは、ホットスワップ対応は必須といえるだろう。

 「PR用のビデオで、専門知識のないアナウンサーが実際に交換作業をしていましたが、40秒程度しかかかりませんでした。カートリッジを差し替えるだけですし、その後の作業もすべて自動的に行われます。メンテナンス性が非常に高いNASといえるでしょう」(開発本部・ネットワーク&ストレージ開発部・ハードディスク開発課・企画担当・新明征和主任)とのことだ。

 「HDL-GTR」シリーズはホットスワップ対応で、ハードディスクの抜き差しが容易なため、盗難によるデータ漏えいが心配されるかもしれない。しかし、同シリーズはハードウェア暗号化エンジンを搭載しており、RAIDボリュームを暗号化ボリュームとして利用できる。ハードディスクには暗号化されたデータが書き込まれるため、盗難などによる情報漏えいリスクは低い。さらに、USBロックキーを挿入しなければ共有サービスを開始しない機能も有している。これらの機能を活用することで「HDL-GTR」本体が盗難にあったとしても、情報自体が漏えいしないように工夫されているのである。

 「先日、ラックマウントタイプのHDL-GTR2Uを市場投入しました。システムインテグレーター様を中心に引き合いが多く、非常に伸びています」(新明主任)。

 「HDL-GTR」シリーズは、ユーザーニーズに応え、進化し続けている。単なるストレージではなく、多くの企業と協業し、新しいソリューションを作りつつある。サーバーや企業システムのバックアップ用途以外にも、複合機との組み合わせでの提案なども可能となっている。また、導入後のサポートにも注力しており、オンサイト保守サービスやデリバリ保守サービスなど多彩なサポートメニューをそろえている。ストレージは、価格競争になりやすい商材だが、アイ・オー・データ機器のような提案は付加価値を高め、ユーザーや販売パートナーのメリットにもなっている。

アイ・オー・データ機器=http://www.iodata.jp/


ハードディスクの故障は当たり前
ストレージの信頼性を向上させるテクノロジーに注目


汎用の部材を使う以上 安全性には限界

 メーカーやシステムインテグレーターに、サーバーやクライアントPCなどで故障しやすい部材をたずねると、必ず「ファン」や「ハードディスクドライブ」という答えが返ってくる。モーターの駆動部を持つ機器は、故障率が高いというのは、すでに業界の常識となっている。汎用品の部材を使っている以上、安全性には限界がある。

 IT機器の信頼性をあげるため、故障率の高いハードディスク、ファンや電源といったパーツ点数の徹底的な削減を行ったり、コンパクトフラッシュなどのメモリを活用したディスクレス構成やファンレス構成などの工夫を行い、信頼性の向上を図るベンダーも少なくない。

 サーバーやクライアントPCのほか、HDDレコーダーなどの情報の保存場所として活用されているハードディスクについても寿命がある。一般にハードディスクの寿命は数年程度と言われているが、これは利用環境などで大きく変化する。これはつまり、いつ故障するかわからないハードディスクに重要なデータを保存しているということにほかならない。

故障に備えてデータを保護する機器も

 万が一、ハードディスクに保存しているデータが損失すれば、企業にとって大きな打撃となることは想像に難くない。データの損失は、業務の停止に直接結びつくことも多い。こんな状況では、利用者や管理者の心は休まることはない。しかし、諦める必要はない。

 ハードディスクには、S.M.A.R.T.(Self-Monitoring Analysis and Reporting Technology)が搭載されており、ハードディスクの健康状態をチェックできるようになっている。このS.M.A.R.T.を活用すれば、ハードディスクの「読み込みエラーの発生率」「ディスク回転の再試行回数」「温度」などの情報を取得できる。ソフトウェアベンダーの中には、これらの情報を活用してハードディスク診断を行い、障害予知を行うソリューションも提供されている。ハードディスクの状態に応じてデータのバックアップをほかのハードディスクに作成するものもある。バックアップは企業システムだけではなく、クライアントPCやサーバーなどすべてのIT機器で適切に行うことが望ましい。

 ハードディスクが故障することを前提に作られている製品もある。ハードディスクが故障しても、データを保護する仕組みを導入している製品なども登場し、ユーザーに安心感を与えている。NASではエントリーモデルでもRAID5構成を実現し、ハードディスク自体が故障してもデータの損失を防止している。さらに、壊れたハードディスクドライブをシステムを止めずに交換できるように、ホットスワップに対応させるなど工夫しているベンダーもある。信頼性と利便性を兼ね備えたこのような工夫は、ユーザーからも受け入れられているようだ。

ライフサイクルを考慮し、適切に運用することの重要性

 ハードディスクが故障すると、その中に保存されている情報を取り出すことが困難となるばかりか、廃棄時にも問題となる。ハードディスクには機密情報が保存されており、廃棄PCから情報漏えいが起きたとする事件も少なくない。ビジネスの情報だけでなく、個人的な情報や写真も漏えいし、問題となるケースもある。香港芸能界の有名タレントのわいせつ写真が流出した事件は、まだ記憶に新しい。修理に出したパソコンから流出したようだが、その被害は香港芸能界全体に及んだ。

 こうした事故を教訓に、情報を保存したまま廃棄することは避けたい。しかし、故障によりディスクアクセスに障害が起きると、データ抹消ソフトウェアなどが正常に稼働しないケースもある。こうなると、物理的にハードディスクを破壊するほかない。出張破壊サービスなどもあるが、こういったサービスを利用しない限り、ハードディスクを廃棄することもままならなくなる。ハードディスクは故障するものとして、ソフトウェアによる消去や物理的な破壊を含めて、ライフサイクルに応じて、適切な対策を施す必要があるだろう。(週刊BCN 2008年3月31日号掲載)
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