Special Feature

ITベンダーの地方拠点戦略 働き方の選択肢を増やし人材確保

2024/12/12 09:00

週刊BCN 2024年12月09日vol.2040掲載

 ITベンダーによる地方拠点設立の動きが広がっている。働く場所の選択肢を広げることで採用の機会を増やしたり、在籍している社員の要望に応じて拠点を開設したりと、人材確保の意味合いが強い。地方に拠点を設けることで地域との関係が強まり、ビジネスチャンスにつながる例もある。特徴的な取り組みをする3社に地方拠点戦略を聞いた。
(取材・文/堀 茜)
 

テラスカイ
地方で採用を拡大 “出前授業”で地域貢献も

 テラスカイは、2017年に新潟県上越市、24年に秋田市と松江市にサテライトオフィスを開設した。地方に拠点を増やしている理由について、常務執行役員の高井康洋・経営企画本部本部長は、展開するクラウドコンピューティング事業の市場が伸びている中、IT人材が枯渇していることを理由に挙げる。「東京一極集中ではエンジニアの取り合いになってしまい、大阪や福岡などの主要都市も同じ状況だ。地方に出て行くことで採用人数を増やしたい」と狙いを語る。

 最初に開設した上越市は、佐藤秀哉社長の出身地。もともと地元自治体とつながりがあり、佐藤社長の地元を盛り上げたいとの思いも相まってオフィスを構えることになった。秋田市、松江市も同社役員の出身地であることが場所選定の最初のきっかけ。企業誘致に積極的だったり、IT系の学校があり人材を供給する環境が整っていたりと、同社が求める条件にマッチしていたのが決め手になった。地場にネットワークがあったことで、進出に際しても自治体から支援を受けるなど、スムーズに話が進んだという。

 サテライトオフィスはいずれも開発拠点との位置付けで、東京で受注した仕事の開発にサテライトオフィス所属のエンジニアがあたっている。地方拠点での採用は、新卒・中途双方で実施し、各拠点に6~10人のエンジニアが勤務している。「1拠点あたりの採用数は少ないかもしれないが、複数あることによってある程度の人数を確保できている。採用戦略として地方拠点は重視している」(高井常務)。採用した時点で専門技術に不安がある場合は、一定期間、東京本社で研修を受け、スキルを身に付けてもらっているという。
 
テラスカイ
高井康洋 常務

 地方拠点の展開は、採用機会が広がるということに加え、従業員にもメリットがあるとみる。現在は東京で働いている社員が、出身地にUターンしたいと希望した場合、その拠点に社員が異動することが可能になる。地方では住居費や通勤の負担が少なく、自然豊かな環境など生活する上で恵まれている点も多い。社員の働く場所の選択肢を広げるとの意味でも、地方拠点を増やしていきたい考えだ。

 同社は、拠点を構えたエリアでの地域貢献も進めている。「採用を進める上で、学生への認知度を高め、地域に愛される会社になる要素は重要」(高井常務)との考えから、上越市内の小中学校で“IT出前授業”を18年から無償で開催している。早い段階からITに触れてもらい、エンジニアに魅力を感じてもらう機会として、サテライトオフィスの社員が学校に出向き、プログラミングの授業を実施。同社がどんなことをしている会社なのか説明した後、プログラミングとは何かを解説。「Scratch」を使ってプログラミングを体験してもらうという流れだ。

 開催後のアンケートでは、児童生徒から「楽しかった」「ITに興味を持った」という声が多く寄せられるという。「学校の先生方から開催の要望が強い。講師役の社員にとっても、自分がやっている仕事が憧れの目で見られる経験をし、モチベーションが上がる。三方良しの取り組みになっている」(高井常務)。上越での開催実績を踏まえ、今後サテライトオフィスがある他地域での展開も考えている。

 同社は、地方での知名度を上げ、会社全体が成長していく戦略としてサテライトオフィスを拡大したい意向で、一定の人口規模があり、IT系の学校があるなど人材確保の可能性が高いエリアで、今後も積極的に開設に向けた調査を行う方針だ。
この記事の続き >>
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