Special Feature
ITベンダーの地方拠点戦略 働き方の選択肢を増やし人材確保
2024/12/12 09:00
週刊BCN 2024年12月09日vol.2040掲載
ITベンダーによる地方拠点設立の動きが広がっている。働く場所の選択肢を広げることで採用の機会を増やしたり、在籍している社員の要望に応じて拠点を開設したりと、人材確保の意味合いが強い。地方に拠点を設けることで地域との関係が強まり、ビジネスチャンスにつながる例もある。特徴的な取り組みをする3社に地方拠点戦略を聞いた。
(取材・文/堀 茜)
テラスカイ
テラスカイは、2017年に新潟県上越市、24年に秋田市と松江市にサテライトオフィスを開設した。地方に拠点を増やしている理由について、常務執行役員の高井康洋・経営企画本部本部長は、展開するクラウドコンピューティング事業の市場が伸びている中、IT人材が枯渇していることを理由に挙げる。「東京一極集中ではエンジニアの取り合いになってしまい、大阪や福岡などの主要都市も同じ状況だ。地方に出て行くことで採用人数を増やしたい」と狙いを語る。
最初に開設した上越市は、佐藤秀哉社長の出身地。もともと地元自治体とつながりがあり、佐藤社長の地元を盛り上げたいとの思いも相まってオフィスを構えることになった。秋田市、松江市も同社役員の出身地であることが場所選定の最初のきっかけ。企業誘致に積極的だったり、IT系の学校があり人材を供給する環境が整っていたりと、同社が求める条件にマッチしていたのが決め手になった。地場にネットワークがあったことで、進出に際しても自治体から支援を受けるなど、スムーズに話が進んだという。
サテライトオフィスはいずれも開発拠点との位置付けで、東京で受注した仕事の開発にサテライトオフィス所属のエンジニアがあたっている。地方拠点での採用は、新卒・中途双方で実施し、各拠点に6~10人のエンジニアが勤務している。「1拠点あたりの採用数は少ないかもしれないが、複数あることによってある程度の人数を確保できている。採用戦略として地方拠点は重視している」(高井常務)。採用した時点で専門技術に不安がある場合は、一定期間、東京本社で研修を受け、スキルを身に付けてもらっているという。
テラスカイ
高井康洋 常務
地方拠点の展開は、採用機会が広がるということに加え、従業員にもメリットがあるとみる。現在は東京で働いている社員が、出身地にUターンしたいと希望した場合、その拠点に社員が異動することが可能になる。地方では住居費や通勤の負担が少なく、自然豊かな環境など生活する上で恵まれている点も多い。社員の働く場所の選択肢を広げるとの意味でも、地方拠点を増やしていきたい考えだ。
同社は、拠点を構えたエリアでの地域貢献も進めている。「採用を進める上で、学生への認知度を高め、地域に愛される会社になる要素は重要」(高井常務)との考えから、上越市内の小中学校で“IT出前授業”を18年から無償で開催している。早い段階からITに触れてもらい、エンジニアに魅力を感じてもらう機会として、サテライトオフィスの社員が学校に出向き、プログラミングの授業を実施。同社がどんなことをしている会社なのか説明した後、プログラミングとは何かを解説。「Scratch」を使ってプログラミングを体験してもらうという流れだ。
開催後のアンケートでは、児童生徒から「楽しかった」「ITに興味を持った」という声が多く寄せられるという。「学校の先生方から開催の要望が強い。講師役の社員にとっても、自分がやっている仕事が憧れの目で見られる経験をし、モチベーションが上がる。三方良しの取り組みになっている」(高井常務)。上越での開催実績を踏まえ、今後サテライトオフィスがある他地域での展開も考えている。
同社は、地方での知名度を上げ、会社全体が成長していく戦略としてサテライトオフィスを拡大したい意向で、一定の人口規模があり、IT系の学校があるなど人材確保の可能性が高いエリアで、今後も積極的に開設に向けた調査を行う方針だ。
クラスメソッド
「人が集まったら、そこにオフィスができる」。クラスメソッドの人事グループ人事労務室の西博之・室長は、拠点開設の方針をこう表現する。同社は、国内8カ所に拠点を持っており、社員の意向に合わせて地方拠点を開設している。拠点の活用にはさまざまなパターンがあるという。東京本社勤務の社員が出身地の拠点に異動したり、地方での生活が気に入ってオフィスがある地方に転居したりと、社員の働く場所の選択肢が広がっている。
クラスメソッドの植木和樹・最高情報責任者(左)と
西博之・人事労務室室長
新潟県上越市の上越オフィスの責任者である植木和樹・最高情報責任者は、13年にクラスメソッドに転職。東京本社での勤務を経て、出身地である上越市で働きたいと環境整備に動き、何人か人数が集まるタイミングで18年に上越オフィスを開設した。「車通勤で人混みがなく、朝8時に出勤して18時には仕事を終える。家族との時間を過ごせる」(植木責任者)と地元で働くメリットを強く感じているという。同社では、那覇市にも18年にオフィスを構え、地元出身者ら12人が勤務している。
上越オフィスには、エンジニアに加え、情報システム担当者が6人所属。「せっかくオフィスができたのだから仲間を増やしたい」と、採用活動においても地方拠点のメンバーが積極的に関わり、地域の採用を進めている。植木責任者は「地方の採用では、対面で顔を合わせる場があることを重視する傾向がある」と解説。物理的なオフィスがあることで、行政や地域コミュニティーともつながりが広がっている。同社は、上越地域においてITで産業や地域の活性化を目指すNPO法人に参加。これまでにIT人材の採用イベントや、「大人のプログラミングコンテスト」といったイベントも行ってきた。
上越市では、オフィスを設けたことがビジネスにもつながり始めている。上越市役所は、DX推進の一環として業務効率化のため生成AIの導入に取り組んでいるが、どう活用していったらいいか相談を受けた同社が支援を実施。24年3月には生成AI活用ワークショップを開催し、若手職員70人が座学やハンズオンで学んだ。ワークショップ後は、より具体的な業務での活用に向けて、伴走支援を継続している。
植木責任者は「地方では自治体との距離が近く、困ったことがあれば相談していただいて、じゃあやりましょうと具体化するのも早い」と語る。上越オフィスは情シスメンバーが多いため、運用など日常業務があり営業までは手が回っていないが、「地元とのつながりを生かし、バランスを見ながら営業も進めていきたい」。
西室長は、事業領域がクラウドコンピューティングで、全てがリモートで完結する業務である一方で「拠点を設け、オフラインで集まる意義はある」とする。リモートで働く環境はどこでも整備できるが、集まって対面で会話する場があることで、モチベーションが保てる社員もいるし、新しいアイデアも生まれるとみており、「戦略的に地方拠点を増やすのではなく、社員から盛り上がりがあれば、これからもいろいろな地域にオフィスを出す可能性はある」と展望する。Sansan
Sansanは、徳島県神山町、京都市、新潟県長岡市にサテライトオフィスを置いている。同社は、社員同士が集まって集中的に議論する「合宿」を定期的に開催しており、その開催場所として神山、京都の両拠点を活用している。合宿は、普段と異なる環境に同じチームのメンバーが宿泊し、数日間一緒に時間を過ごすことで、より良いアイデアを生む時間として機能しているという。
Sansan
オフィス戦略部 加賀谷洋輔氏
オフィス戦略部の加賀谷洋輔氏は、展開する名刺管理サービスという事業の基軸は人と人の出会いだとした上で、「リモートワークを併用しつつ、オフィスを基点とするオフィス・セントリックという働き方を採用しており、顔を合わせることの価値を大事にしている。オフィスの環境整備にも非常に力を入れている」と説明する。神山、京都のサテライトオフィスは、古民家を改装し、畳の広い部屋を用意するなど、非日常を演出。じっくり物事を考えられる空間を用意しているという。長岡市は、同社が採用したい優秀なエンジニアが居住していたことから「優秀な人材が成果を出せるのであれば後押しは惜しまない」との考えで、1人用のサテライトオフィスを設けている。
合宿を行う神山のサテライトオフィスは、最寄りの空港からも離れた山深い場所にある。移動も含めて、チームの一体感を育む時間と捉えているといい、経営陣もかなりの頻度で合宿をするほか、新卒社員の研修も神山で実施している。
地方拠点を置くメリットについて、加賀谷氏は、「顧客の近くに拠点を構えることで、スピード感をもってイベントなどが行える」と説明。採用候補者を拠点に招いて会社を知ってもらうカジュアルなイベントを開催したり、他社のエンジニアらと勉強会を行ったりと、東京に比べて企業や人との距離が近い点を生かして付き合いを深めている。
神山町では、同社の進出を皮切りに地方創生のモデルエリアとしてIT企業が集まっているが、企業が拠点を置くことを超えた、新しい展開も始まっている。同社の寺田親弘社長が発起人の1人となり、起業家の育成を目的とした私立の高等専門学校「神山まるごと高専」を23年4月に開校した。社会貢献の一つとして寺田社長が理事長を務め、社員数人が出向。環境に関わらずどんな人にも学ぶチャンスを提供するため、同高専は学費を無料とする理念を掲げている。その実現のため、スカラシップ関連で出資企業とのやり取りをする窓口を同社が担っている。同高専は、ビジネスの最前線で活躍する起業家らが講師として授業を行っており、入学希望者が全国から集まっているという。
高専開設について、同社の広報は「主役は学生だが、学校というステージをつくったことで、取り組みを通じてSansanを知らなった人にも興味を持ってもらえたり、スカラシップの取り組みの中でさまざまな企業との出会いがあったりした」と、プラス面を振り返る。徳島県とのつながりもより深くなり、東京本社がオフィスを移転した渋谷で、11月に阿波踊りのイベントを実施した。「神山での取り組みは、ほかにないものとして多く取り上げていただき、当社の認知度向上に大きく貢献している」といい、地方を盛り上げる独自の取り組みに注力することで企業価値向上を図っていく。
(取材・文/堀 茜)

テラスカイ
地方で採用を拡大 “出前授業”で地域貢献も
テラスカイは、2017年に新潟県上越市、24年に秋田市と松江市にサテライトオフィスを開設した。地方に拠点を増やしている理由について、常務執行役員の高井康洋・経営企画本部本部長は、展開するクラウドコンピューティング事業の市場が伸びている中、IT人材が枯渇していることを理由に挙げる。「東京一極集中ではエンジニアの取り合いになってしまい、大阪や福岡などの主要都市も同じ状況だ。地方に出て行くことで採用人数を増やしたい」と狙いを語る。最初に開設した上越市は、佐藤秀哉社長の出身地。もともと地元自治体とつながりがあり、佐藤社長の地元を盛り上げたいとの思いも相まってオフィスを構えることになった。秋田市、松江市も同社役員の出身地であることが場所選定の最初のきっかけ。企業誘致に積極的だったり、IT系の学校があり人材を供給する環境が整っていたりと、同社が求める条件にマッチしていたのが決め手になった。地場にネットワークがあったことで、進出に際しても自治体から支援を受けるなど、スムーズに話が進んだという。
サテライトオフィスはいずれも開発拠点との位置付けで、東京で受注した仕事の開発にサテライトオフィス所属のエンジニアがあたっている。地方拠点での採用は、新卒・中途双方で実施し、各拠点に6~10人のエンジニアが勤務している。「1拠点あたりの採用数は少ないかもしれないが、複数あることによってある程度の人数を確保できている。採用戦略として地方拠点は重視している」(高井常務)。採用した時点で専門技術に不安がある場合は、一定期間、東京本社で研修を受け、スキルを身に付けてもらっているという。
高井康洋 常務
地方拠点の展開は、採用機会が広がるということに加え、従業員にもメリットがあるとみる。現在は東京で働いている社員が、出身地にUターンしたいと希望した場合、その拠点に社員が異動することが可能になる。地方では住居費や通勤の負担が少なく、自然豊かな環境など生活する上で恵まれている点も多い。社員の働く場所の選択肢を広げるとの意味でも、地方拠点を増やしていきたい考えだ。
同社は、拠点を構えたエリアでの地域貢献も進めている。「採用を進める上で、学生への認知度を高め、地域に愛される会社になる要素は重要」(高井常務)との考えから、上越市内の小中学校で“IT出前授業”を18年から無償で開催している。早い段階からITに触れてもらい、エンジニアに魅力を感じてもらう機会として、サテライトオフィスの社員が学校に出向き、プログラミングの授業を実施。同社がどんなことをしている会社なのか説明した後、プログラミングとは何かを解説。「Scratch」を使ってプログラミングを体験してもらうという流れだ。
開催後のアンケートでは、児童生徒から「楽しかった」「ITに興味を持った」という声が多く寄せられるという。「学校の先生方から開催の要望が強い。講師役の社員にとっても、自分がやっている仕事が憧れの目で見られる経験をし、モチベーションが上がる。三方良しの取り組みになっている」(高井常務)。上越での開催実績を踏まえ、今後サテライトオフィスがある他地域での展開も考えている。
同社は、地方での知名度を上げ、会社全体が成長していく戦略としてサテライトオフィスを拡大したい意向で、一定の人口規模があり、IT系の学校があるなど人材確保の可能性が高いエリアで、今後も積極的に開設に向けた調査を行う方針だ。
クラスメソッド
社員が集まれば拠点開設 地元とのつながりがビジネスにも
「人が集まったら、そこにオフィスができる」。クラスメソッドの人事グループ人事労務室の西博之・室長は、拠点開設の方針をこう表現する。同社は、国内8カ所に拠点を持っており、社員の意向に合わせて地方拠点を開設している。拠点の活用にはさまざまなパターンがあるという。東京本社勤務の社員が出身地の拠点に異動したり、地方での生活が気に入ってオフィスがある地方に転居したりと、社員の働く場所の選択肢が広がっている。
西博之・人事労務室室長
新潟県上越市の上越オフィスの責任者である植木和樹・最高情報責任者は、13年にクラスメソッドに転職。東京本社での勤務を経て、出身地である上越市で働きたいと環境整備に動き、何人か人数が集まるタイミングで18年に上越オフィスを開設した。「車通勤で人混みがなく、朝8時に出勤して18時には仕事を終える。家族との時間を過ごせる」(植木責任者)と地元で働くメリットを強く感じているという。同社では、那覇市にも18年にオフィスを構え、地元出身者ら12人が勤務している。
上越オフィスには、エンジニアに加え、情報システム担当者が6人所属。「せっかくオフィスができたのだから仲間を増やしたい」と、採用活動においても地方拠点のメンバーが積極的に関わり、地域の採用を進めている。植木責任者は「地方の採用では、対面で顔を合わせる場があることを重視する傾向がある」と解説。物理的なオフィスがあることで、行政や地域コミュニティーともつながりが広がっている。同社は、上越地域においてITで産業や地域の活性化を目指すNPO法人に参加。これまでにIT人材の採用イベントや、「大人のプログラミングコンテスト」といったイベントも行ってきた。
上越市では、オフィスを設けたことがビジネスにもつながり始めている。上越市役所は、DX推進の一環として業務効率化のため生成AIの導入に取り組んでいるが、どう活用していったらいいか相談を受けた同社が支援を実施。24年3月には生成AI活用ワークショップを開催し、若手職員70人が座学やハンズオンで学んだ。ワークショップ後は、より具体的な業務での活用に向けて、伴走支援を継続している。
植木責任者は「地方では自治体との距離が近く、困ったことがあれば相談していただいて、じゃあやりましょうと具体化するのも早い」と語る。上越オフィスは情シスメンバーが多いため、運用など日常業務があり営業までは手が回っていないが、「地元とのつながりを生かし、バランスを見ながら営業も進めていきたい」。
西室長は、事業領域がクラウドコンピューティングで、全てがリモートで完結する業務である一方で「拠点を設け、オフラインで集まる意義はある」とする。リモートで働く環境はどこでも整備できるが、集まって対面で会話する場があることで、モチベーションが保てる社員もいるし、新しいアイデアも生まれるとみており、「戦略的に地方拠点を増やすのではなく、社員から盛り上がりがあれば、これからもいろいろな地域にオフィスを出す可能性はある」と展望する。
Sansan
徳島や京都に「合宿所」 起業家育成の高専も設立
Sansanは、徳島県神山町、京都市、新潟県長岡市にサテライトオフィスを置いている。同社は、社員同士が集まって集中的に議論する「合宿」を定期的に開催しており、その開催場所として神山、京都の両拠点を活用している。合宿は、普段と異なる環境に同じチームのメンバーが宿泊し、数日間一緒に時間を過ごすことで、より良いアイデアを生む時間として機能しているという。
オフィス戦略部 加賀谷洋輔氏
オフィス戦略部の加賀谷洋輔氏は、展開する名刺管理サービスという事業の基軸は人と人の出会いだとした上で、「リモートワークを併用しつつ、オフィスを基点とするオフィス・セントリックという働き方を採用しており、顔を合わせることの価値を大事にしている。オフィスの環境整備にも非常に力を入れている」と説明する。神山、京都のサテライトオフィスは、古民家を改装し、畳の広い部屋を用意するなど、非日常を演出。じっくり物事を考えられる空間を用意しているという。長岡市は、同社が採用したい優秀なエンジニアが居住していたことから「優秀な人材が成果を出せるのであれば後押しは惜しまない」との考えで、1人用のサテライトオフィスを設けている。
合宿を行う神山のサテライトオフィスは、最寄りの空港からも離れた山深い場所にある。移動も含めて、チームの一体感を育む時間と捉えているといい、経営陣もかなりの頻度で合宿をするほか、新卒社員の研修も神山で実施している。
地方拠点を置くメリットについて、加賀谷氏は、「顧客の近くに拠点を構えることで、スピード感をもってイベントなどが行える」と説明。採用候補者を拠点に招いて会社を知ってもらうカジュアルなイベントを開催したり、他社のエンジニアらと勉強会を行ったりと、東京に比べて企業や人との距離が近い点を生かして付き合いを深めている。
神山町では、同社の進出を皮切りに地方創生のモデルエリアとしてIT企業が集まっているが、企業が拠点を置くことを超えた、新しい展開も始まっている。同社の寺田親弘社長が発起人の1人となり、起業家の育成を目的とした私立の高等専門学校「神山まるごと高専」を23年4月に開校した。社会貢献の一つとして寺田社長が理事長を務め、社員数人が出向。環境に関わらずどんな人にも学ぶチャンスを提供するため、同高専は学費を無料とする理念を掲げている。その実現のため、スカラシップ関連で出資企業とのやり取りをする窓口を同社が担っている。同高専は、ビジネスの最前線で活躍する起業家らが講師として授業を行っており、入学希望者が全国から集まっているという。
高専開設について、同社の広報は「主役は学生だが、学校というステージをつくったことで、取り組みを通じてSansanを知らなった人にも興味を持ってもらえたり、スカラシップの取り組みの中でさまざまな企業との出会いがあったりした」と、プラス面を振り返る。徳島県とのつながりもより深くなり、東京本社がオフィスを移転した渋谷で、11月に阿波踊りのイベントを実施した。「神山での取り組みは、ほかにないものとして多く取り上げていただき、当社の認知度向上に大きく貢献している」といい、地方を盛り上げる独自の取り組みに注力することで企業価値向上を図っていく。
ITベンダーによる地方拠点設立の動きが広がっている。働く場所の選択肢を広げることで採用の機会を増やしたり、在籍している社員の要望に応じて拠点を開設したりと、人材確保の意味合いが強い。地方に拠点を設けることで地域との関係が強まり、ビジネスチャンスにつながる例もある。特徴的な取り組みをする3社に地方拠点戦略を聞いた。
(取材・文/堀 茜)
テラスカイ
テラスカイは、2017年に新潟県上越市、24年に秋田市と松江市にサテライトオフィスを開設した。地方に拠点を増やしている理由について、常務執行役員の高井康洋・経営企画本部本部長は、展開するクラウドコンピューティング事業の市場が伸びている中、IT人材が枯渇していることを理由に挙げる。「東京一極集中ではエンジニアの取り合いになってしまい、大阪や福岡などの主要都市も同じ状況だ。地方に出て行くことで採用人数を増やしたい」と狙いを語る。
最初に開設した上越市は、佐藤秀哉社長の出身地。もともと地元自治体とつながりがあり、佐藤社長の地元を盛り上げたいとの思いも相まってオフィスを構えることになった。秋田市、松江市も同社役員の出身地であることが場所選定の最初のきっかけ。企業誘致に積極的だったり、IT系の学校があり人材を供給する環境が整っていたりと、同社が求める条件にマッチしていたのが決め手になった。地場にネットワークがあったことで、進出に際しても自治体から支援を受けるなど、スムーズに話が進んだという。
サテライトオフィスはいずれも開発拠点との位置付けで、東京で受注した仕事の開発にサテライトオフィス所属のエンジニアがあたっている。地方拠点での採用は、新卒・中途双方で実施し、各拠点に6~10人のエンジニアが勤務している。「1拠点あたりの採用数は少ないかもしれないが、複数あることによってある程度の人数を確保できている。採用戦略として地方拠点は重視している」(高井常務)。採用した時点で専門技術に不安がある場合は、一定期間、東京本社で研修を受け、スキルを身に付けてもらっているという。
テラスカイ
高井康洋 常務
地方拠点の展開は、採用機会が広がるということに加え、従業員にもメリットがあるとみる。現在は東京で働いている社員が、出身地にUターンしたいと希望した場合、その拠点に社員が異動することが可能になる。地方では住居費や通勤の負担が少なく、自然豊かな環境など生活する上で恵まれている点も多い。社員の働く場所の選択肢を広げるとの意味でも、地方拠点を増やしていきたい考えだ。
同社は、拠点を構えたエリアでの地域貢献も進めている。「採用を進める上で、学生への認知度を高め、地域に愛される会社になる要素は重要」(高井常務)との考えから、上越市内の小中学校で“IT出前授業”を18年から無償で開催している。早い段階からITに触れてもらい、エンジニアに魅力を感じてもらう機会として、サテライトオフィスの社員が学校に出向き、プログラミングの授業を実施。同社がどんなことをしている会社なのか説明した後、プログラミングとは何かを解説。「Scratch」を使ってプログラミングを体験してもらうという流れだ。
開催後のアンケートでは、児童生徒から「楽しかった」「ITに興味を持った」という声が多く寄せられるという。「学校の先生方から開催の要望が強い。講師役の社員にとっても、自分がやっている仕事が憧れの目で見られる経験をし、モチベーションが上がる。三方良しの取り組みになっている」(高井常務)。上越での開催実績を踏まえ、今後サテライトオフィスがある他地域での展開も考えている。
同社は、地方での知名度を上げ、会社全体が成長していく戦略としてサテライトオフィスを拡大したい意向で、一定の人口規模があり、IT系の学校があるなど人材確保の可能性が高いエリアで、今後も積極的に開設に向けた調査を行う方針だ。
(取材・文/堀 茜)

テラスカイ
地方で採用を拡大 “出前授業”で地域貢献も
テラスカイは、2017年に新潟県上越市、24年に秋田市と松江市にサテライトオフィスを開設した。地方に拠点を増やしている理由について、常務執行役員の高井康洋・経営企画本部本部長は、展開するクラウドコンピューティング事業の市場が伸びている中、IT人材が枯渇していることを理由に挙げる。「東京一極集中ではエンジニアの取り合いになってしまい、大阪や福岡などの主要都市も同じ状況だ。地方に出て行くことで採用人数を増やしたい」と狙いを語る。最初に開設した上越市は、佐藤秀哉社長の出身地。もともと地元自治体とつながりがあり、佐藤社長の地元を盛り上げたいとの思いも相まってオフィスを構えることになった。秋田市、松江市も同社役員の出身地であることが場所選定の最初のきっかけ。企業誘致に積極的だったり、IT系の学校があり人材を供給する環境が整っていたりと、同社が求める条件にマッチしていたのが決め手になった。地場にネットワークがあったことで、進出に際しても自治体から支援を受けるなど、スムーズに話が進んだという。
サテライトオフィスはいずれも開発拠点との位置付けで、東京で受注した仕事の開発にサテライトオフィス所属のエンジニアがあたっている。地方拠点での採用は、新卒・中途双方で実施し、各拠点に6~10人のエンジニアが勤務している。「1拠点あたりの採用数は少ないかもしれないが、複数あることによってある程度の人数を確保できている。採用戦略として地方拠点は重視している」(高井常務)。採用した時点で専門技術に不安がある場合は、一定期間、東京本社で研修を受け、スキルを身に付けてもらっているという。
高井康洋 常務
地方拠点の展開は、採用機会が広がるということに加え、従業員にもメリットがあるとみる。現在は東京で働いている社員が、出身地にUターンしたいと希望した場合、その拠点に社員が異動することが可能になる。地方では住居費や通勤の負担が少なく、自然豊かな環境など生活する上で恵まれている点も多い。社員の働く場所の選択肢を広げるとの意味でも、地方拠点を増やしていきたい考えだ。
同社は、拠点を構えたエリアでの地域貢献も進めている。「採用を進める上で、学生への認知度を高め、地域に愛される会社になる要素は重要」(高井常務)との考えから、上越市内の小中学校で“IT出前授業”を18年から無償で開催している。早い段階からITに触れてもらい、エンジニアに魅力を感じてもらう機会として、サテライトオフィスの社員が学校に出向き、プログラミングの授業を実施。同社がどんなことをしている会社なのか説明した後、プログラミングとは何かを解説。「Scratch」を使ってプログラミングを体験してもらうという流れだ。
開催後のアンケートでは、児童生徒から「楽しかった」「ITに興味を持った」という声が多く寄せられるという。「学校の先生方から開催の要望が強い。講師役の社員にとっても、自分がやっている仕事が憧れの目で見られる経験をし、モチベーションが上がる。三方良しの取り組みになっている」(高井常務)。上越での開催実績を踏まえ、今後サテライトオフィスがある他地域での展開も考えている。
同社は、地方での知名度を上げ、会社全体が成長していく戦略としてサテライトオフィスを拡大したい意向で、一定の人口規模があり、IT系の学校があるなど人材確保の可能性が高いエリアで、今後も積極的に開設に向けた調査を行う方針だ。
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- クラスメソッド 社員が集まれば拠点開設 地元とのつながりがビジネスにも
- Sansan 徳島や京都に「合宿所」 起業家育成の高専も設立
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