Special Feature

各地で取り組む観光DX ITベンダーと共同で地域の活性化目指す

2024/10/14 09:00

週刊BCN 2024年10月14日vol.2033掲載

 日本各地で観光業界におけるDXの取り組みが進んでいる。観光庁が旗振り役となり、ITベンダーによる支援の動きも見られる。日立システムズは神奈川県箱根町や地元団体と協力して観光地の混雑状況の改善を図り、セールスフォース・ジャパンはJTBや九州観光機構と連携し、旅行者の顧客管理を通じて九州全体の収益向上を目指す。観光DXにおける現状と各社の取り組みについて紹介する。
(取材・文/大向琴音)

観光庁
地方創生の切り札

 人口減少が進む中、観光庁では、国内外との交流を創出できる観光を「地方創生のための切り札」と位置づけている。同庁では、観光の質に加え、観光産業の収益や生産性を向上させることで、地域活性化や持続可能な経済社会の実現を目指している。

 持続可能な観光地域づくりを進めていくにあたり、着目したのがDXだ。旅行者の消費拡大や旅行者の再訪の促進などで観光産業の収益性を高めていくのに加え、宿泊事業者など地域の事業者同士や地域同士で得られたデータを連携することで、個々の事業者にとどまらず地域全体が稼ぐことができる状態を目指していきたいとしている。

 同庁が宿泊事業者を対象に実施したアンケート調査によると、大規模な宿泊施設ではデジタル化に関連する機器やツールを導入している事業者が多い一方で、50人以下の中小規模では導入率が低く、デジタル化に取り組むことのできる事業者は一部にとどまっていた。調査は宿泊業者だけの例だが、飲食業なども含めた観光産業全体としてデジタル化の遅れは指摘されており、その結果として、生産性や賃金が低迷し、慢性的な人手不足への対応が難しくなっている。
 
観光庁 栗田理沙氏

 オンラインで宿泊施設の予約を受け付けるOTA(Online Travel Agent)サービスや、顧客管理システム(CRM)、ホテル管理システム(PMS)など、既存の業務をデジタル化するツールに関しては少しずつ導入が進んでいるが、同庁の参事官(産業競争力強化)付の栗田理沙氏は、価格を適切に設定するレベニューマネジメントツールなど「プラスアルファで収益を出していくためのデジタル活用はなかなかできていない」と指摘する。一方、観光地域づくりを推進する上で、中心となる組織の観光地域づくり法人(DMO)に対する同庁の調査では、半数以上のDMOが観光DX戦略/方針を「策定済み」や「策定検討中」としており、地域のデジタル化やDXに対する意識自体は高まっていることがうかがえる。

 同庁では2021年から、観光DXを推進する取り組みの一つとして、採択した地域に対して1年間の支援を実施するモデル実証事業を展開している。23年度は七つの実証事業を実施した。また、実証事業の進捗状況や成果を報告する場としてフォローアップ会議も設けている。秋本純一・参事官(産業競争力強化)・専門官は、「皆さんに実証で得たノウハウをお伝えして、一つでも多くの地域で(観光DXを)実装していただくというところがポイントになる」とし、それぞれの地域での取り組みの支援に加えて、情報の発信にも取り組む姿勢を見せる。
 
観光庁 秋本純一 参事官・専門官

 栗田氏は、「最終的にはその観光地がきちんと収益を上げ、経済が潤い、持続可能な観光を実現できることが一番重要と考えている。そのため、観光DXが目的になるのではなく、あくまで手段としてDXに取り組んでほしい」と語る。


※DMO:DestinationManagement/Marketing Organizationの略で、地域の民間事業者、行政、住民などと連携しながら観光資源の価値向上、交通やインバウンド受け入れの課題解決などに取り組む法人。国内では2015年に観光庁によるDMOの登録制度が開始され、24年9月現在全国の312団体が登録されている。

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