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加速する創薬領域でのデジタル活用 後れ取る日本で高まる変革への機運

2024/09/16 09:00

週刊BCN 2024年09月16日vol.2030掲載

 創薬領域におけるデジタル活用が加速している。8月には相次いで新事業が発表された。それぞれ治験計画、臨床データの収集、実開発の段階とITが利用される分野はさまざまで、クラウド基盤、生成AI、量子と幅広い先端技術が利用されている。日本は新薬の研究開発で海外に後れを取っているとも言われており、デジタルによる変革への機運は高まっている。
(取材・文/藤岡 堯)
 

富士通と米パラダイムヘルス
治験計画業務を効率化

 富士通は8月26日、治験に特化したプラットフォームを提供する米国のスタートアップParadigm Health(パラダイムヘルス)との協業を発表した。富士通の医療データ利活用基盤「Healthy Living Platform」を通じて、医療機関から診療データやゲノムなどを収集した上で、AIサービス「Fujitsu Kozuchi」のLLM(大規模言語モデル)で加工し、パラダイムヘルスに提供する。パラダイムヘルスは提供されたデータをさらに分析し、基盤を利用する製薬会社が、治験を実施する医療機関や患者の分布を把握できるようにする。デジタル化によって、治験計画業務の効率化や期間短縮につなげる考えだ。

 今回の協業は「ドラッグ・ロス」の解消を図る狙いがある。ドラッグ・ロスとは、海外ではすでに一般的に使われている治療薬にもかかわらず、日本では開発が行われていないために国内で使うことができない状態を指す。背景には日本独自の規制による薬価の低さに加え、治験対象の患者が複数の病院に分散しているため、治験計画に必要な症例の収集に時間やコストがかかり、新薬開発で企画される国際共同治験の対象地域から日本が外されるケースが増えていることがある。

 厚生労働省の資料によると、2023年3月時点において、欧米では承認されているが、日本で未承認の医薬品は143品目に上り、このうち86品目は開発未着手となっている。医薬産業政策研究所の調査では、国際共同治験の実施数は近年増加傾向にあるものの、2000~21年の累計は2110件で、米国の1万1708件や、ドイツの7516件などと比べて少ない。富士通は協業による新サービスを通じて、患者がより素早く臨床試験に参加できるようにし、開発期間や費用の大幅な削減を図り、国際共同治験の増加につなげたい考えだ。新サービスは製薬会社だけでなく、医療機関側にとっても、患者が参加できる治験の情報を早期に入手できるなどのメリットがある。
 
米パラダイムヘルス ケント・トールケ CEO

 パラダイムヘルスのケント・トールケCEOは同日の報道向け説明会で「日本の患者の健康と福祉を向上させる新たなソリューションを共同開発することを非常に嬉しく思う。世界で最も効率的な臨床試験のモデルの一つをつくり上げ、日本の患者が革新的な医薬品治療にアクセスできるようになることを望んでいる」と話した。

 富士通はパラダイムヘルスとの協業のほか、製薬会社が作成する治験関連のドキュメントをLLMによって自動作成するサービスも投入する。富士通が有する治験領域での実績と法規制に関する知見をベースに、製薬会社の既存ドキュメントを法規制に準拠したデータ構造へと自動変換。治験特化型のLLMを使い、従来は熟練者の手でなされていた情報検索や要約、法規制に沿った表記や翻訳などの高度な作業を自動化する。製薬会社との実証実験では、ドキュメントの80%をLLMで自動作成できたとし、富士通の試算では、ドキュメント作成に要する期間を従来の50%まで削減できると見通す。
 
富士通 荒木達樹 Healthy Living Head

 富士通は今回のソリューションで、30年度に200億円の売り上げを目指す。富士通ソーシャルソリューション事業本部の荒木達樹・Healthy Living Headは「創薬の研究と開発の間でのデータのやり取りを実現する第一歩と感じている。従来なかった新しい治療法が生まれることを期待したい」と意欲を見せた。
この記事の続き >>
  • 日本IBMなど3団体 対話型生成AIの運用開始
  • 東芝デジタルソリューションズとRevorf 量子技術でたんぱく質分析

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