Special Feature

産業基盤の構築目指す「福島イノベーション・コースト構想」 浜通り地域に持続的な発展を

2024/09/02 09:00

週刊BCN 2024年09月02日vol.2028掲載

 2011年に起こった東日本大震災と原子力災害で、企業活動や雇用が大きなダメージを被った福島県の浜通り地域。この地に新たな産業基盤を構築し、地域経済を回復する目的で進められている国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想(福島イノベ構想)」が始動して10年が経過した。さまざまな進展が見られる福島イノベ構想の現在地を紹介する。
(取材・文/大向琴音)
 

福島イノベーション・コースト構想推進機構
イノベ地域から新たなビジネスの創出目指す

 福島イノベ構想は14年6月、当時の原子力災害現地対策本部長(経済産業副大臣)が座長を務め、産学官の有識者などで構成する「福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想研究会」によって取りまとめられた。浜通りを中心とする地域で一度失われた経済の復興のため、廃炉技術やロボットなどの研究・実証拠点を設置し、新技術や新産業の創出による産業基盤の再構築を目指す国家プロジェクトとして立ち上がった。

 17年5月には、福島復興再生特別措置法改正法が成立し、福島イノベ構想の推進が法的に位置づけられた。中核的な推進機関として活動しているのが、同年に設立された福島イノベーション・コースト構想推進機構(イノベ機構)で、福島県からの受託事業や補助事業を中心に展開している。
 
イノベ地域にある産業団地
(イノベ機構のYouTube動画より抜粋)

 福島イノベ構想は、浜通り地域など(いわき市、相馬市、田村市、南相馬市、川俣町、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、新地町、飯舘村の15市町村)を「イノベ地域」とし、重点6分野として設定した各領域で研究開発に取り組む企業の支援を実施している。重点6分野は▽廃炉▽ロボット・ドローン▽エネルギー・環境・リサイクル▽農林水産業▽医療関連▽航空宇宙―で、支援内容は産業集積を促進する取り組みや、交流の促進、情報発信など多岐にわたる。

 産業集積に関する取り組みの一つとして、企業誘致がある。福島県がイノベ地域へ拠点を設置する企業に補助金を交付しているほか、イノベ機構はこれらの支援策を知ってもらえるよう、セミナーや現地の見学ツアーを開催し、実際の立地につなげる支援をしている。24年3月末時点で、補助金に採択された企業の立地件数は418社で、雇用創出数は4796人に上るなどの成果が出ている。
 
福島イノベーション・コースト構想推進機構 蘆田和也 事務局長

 また、イノベ地域で重点6分野の実用化開発に取り組む企業を採択する「地域復興実用化開発等促進事業(イノベ実用化補助金)」に関しては、採択企業に対して事業化に向けた伴走支援も展開している。具体的には、公的団体や地元企業との関係構築に加え、実証場所の紹介や広報活動支援、知財戦略支援などを実施している。イノベ機構の蘆田和也・事務局長は「全国の人に、イノベ地域に拠点をつくってもらったり、地域の企業と連携して技術開発をしてもらったりすることで、いろいろな人が浜通り地域で活動するようになる」と説明する。

 福島イノベ構想に参画し、域外より新たにイノベ地域内へと進出した企業から、地元企業が製造委託を受けるなどの動きも見られており、経済効果をさらに広げていくために、地元企業と進出企業のビジネスマッチング支援を実施している。18年から23年までに46件の取引が成立している上、企業同士で取引先を紹介するなどの事例もあるという。

 20年までに帰還困難区域を除く全ての地域で避難指示は解除されており、その後帰還困難区域も一部解除が進んでいる。生活環境の整備などの部分で復興は着実に進んでいるものの、浜通り地域などにおいては、建設業を除く域内総生産や製造品出荷額、居住人口や就業者数などの指標は完全には回復していない。今後の目標は、30年ごろまでに全国水準並みの域内総生産を達成し、自立的、持続的な産業発展を実現することだ。

 蘆田事務局長は「現状は、イノベ地域などで全国の企業による開発が進んでいる段階。今後しっかりビジネスとして定着してほしい。その先に、福島イノベ構想を通じて企業同士が出会い、新しいビジネスが生まれることも期待したい」と今後を展望する。
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