Special Feature

シャープの液晶パネル工場 AI戦略の加速に向けた重要な節目に

2024/08/01 09:00

週刊BCN 2024年07月29日vol.2024掲載

 シャープの液晶パネル工場である堺ディスプレイプロダクト(SDP、大阪府堺市)が、AIデータセンター(DC)として生まれ変わることになった。現在、KDDIとソフトバンクの両陣営との話し合いを進めており、その動きは液晶パネル生産が停止する8月下旬以降、一気に進展する可能性がある。シャープにとって新たな収益モデルに向けた大きな転換点であるとともに、両陣営にとってもAI戦略を加速するための重要な節目になりそうだ。
(取材・文/大河原克行  編集/齋藤秀平)
 

再建策の目玉で生産停止

 SDPは、大阪湾に面した埋め立て地にある。敷地面積は127万平方メートルで、新日本製鉄(現日本製鉄)が製鉄工場として使っていた土地をシャープが取得し、「グリーンフロント堺」と命名。その中核として2009年10月にSDPを稼働させた。当時の社名はシャープディスプレイプロダクト。世界最先端だった第10世代の液晶パネルを生産し、大画面テレビのコスト競争力の強化に直結することが期待された。

 だが、稼働を開始した時期は、リーマン・ショックの影響で世界的にテレビ需要が低迷した時期と重なり、市場では液晶パネルの過剰生産によって価格競争が激化。競合する韓国勢が、政府の支援措置やウォン安を追い風に国際競争力を高めたのに対し、円高に苦しむシャープの液晶パネルの輸出台数は計画を大幅に下回り、工場の稼働率が上がらない状態に陥った。

 シャープの業績がSDPの稼働率低迷によって急激に悪化する中、12年には、現在のシャープの親会社である台湾鴻海(ホンハイ)グループの郭台銘CEO(当時)の投資会社がSDPに出資し、社名を現在の堺ディスプレイプロダクトに変更。SDPの略称はそのまま使用した。さらに、凸版印刷と大日本印刷の子会社の液晶カラーフィルター事業もSDPに統合し、立て直しを図った。

 それでも低迷した稼働率は改善されず、19年までに別の海外投資会社が約8割の株式を取得。シャープの持ち株比率は約2割となっていた。

 シャープは、ホンハイ傘下で業績改善を進める中で、SDPの残り2割の株式売却を検討していたが、シャープ再建に尽力したホンハイ出身の戴正呉会長(当時)が、一転してSDPの完全子会社化を決定。戴氏が会長を退任する直前の22年6月にシャープがSDPを完全子会社化した。

 SDPの赤字は、バトンを受け取った呉柏勲・副会長(当時は社長兼CEO)が率いる新体制の足かせとなり、シャープは22、23の両年度に2年連続で最終赤字を計上。再建策としてデバイス事業のアセットライト化をこのほど決定し、その目玉として液晶パネルの生産停止を発表した。
 
液晶パネルの生産停止が決まったSDPの建屋

 呉副会長は「当初想定した再生計画の遂行が困難になり、SDPの生産停止を決定した」と語る。

 シャープは、5月14日に開催した23年度連結業績発表で、24年9月末までにSDPの生産を停止し、AIDCに転換することを発表。SDPの生産業務従事者に対する社外転身支援プログラムを開始している。

 最新の情報によると、SDPでは7月20日過ぎに最終の生産を開始し、約1カ月後にパネルを完成させて工場の操業を停止。8月下旬以降にAIDCへの移行が開始されることになる。現在、液晶パネルの生産設備の売却についても、外部企業に働きかけているという。
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  • 両陣営の思惑
  • 新たな収益モデルを構築

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