Special Feature
「AIOps」で変わるIT運用の未来 人材不足の日本企業が目指すべき姿とは
2024/07/22 09:00
週刊BCN 2024年07月22日vol.2023掲載
IT運用の領域においては以前から、業務を効率化するとともに属人化を解消し、自動化によって対応の迅速化や人的ミスの削減を実現すべきと言われている。最近になって、そのための有効な手段として注目を集めているのが「AIOps(AI for IT Operations)」だ。ITの運用・管理におけるさまざまな課題に対し、AIOpsはどのような解決策を提供できるのだろうか。
(取材・文/谷川耕一 編集/日高 彰)
複数の監視ツールをつなぎ合わせることで可観測性を維持することはできず、
一貫した情報ソースを提供する「単一のプラットフォーム」が必要と考えるCIOの割合
クラウドネイティブの利用増加に伴い、それを常時稼働させるための
「手作業やコストも増する」と考えるCIOの割合
出典:ダイナトレースの調査「2020 Global CIO Report」
日本よりIT運用の効率化が進む欧米でも、19年の調査時点でこれらが問題視されており、国内外で課題認識そのものに大きな違いはない。ダイナトレース日本法人の日野義久・執行役員は「システムの障害対応ほど生産性の低い仕事はないと、あらゆる企業が認識している」と話す。
そのため、欧米ではIT運用の自動化に積極的に取り組む例が多い。一方、日本を見ると、この課題の解決のため、運用自動化ソリューションを導入するCIOはまだまだ少ない。課題感は同じでも、取り組みには差がある。「日本の状況は、欧米の先進的な企業から、最低でも5年は遅れていると思う」と日野執行役員は指摘する。
ダイナトレース日本法人の徳永信二社長(左)と日野義久・執行役員
これを裏付けるのが、欧米の先進的な企業で普及しているアプリケーションパフォーマンス管理(APM)ツールの導入が、日本ではまだ進んでいないという現状だ。これは、多くのユーザー企業が開発や運用を外部のSIerに委託する日本特有の体制も影響している。
日本企業では、アプリケーションの性能に対する責任の所在があいまいなケースが多い。問題が発生すれば、委託先に調査や解決を丸投げしがちだ。結果的にユーザー企業は、APMの必要性に気づかない。対して欧米では役割分担が明確化されており、システム構築を外部に委託していても、性能問題の責任はビジネスオーナーにあり、彼らが状況を把握するためにAPMが必要となる。
IT市場でAPMが注目され始めたのは、20年ほど前だろう。10年代にはDevOpsの概念も普及し、APMの必要性はさらに増した。APMの次に欧米で活用されたのが、システムやネットワーク機器などから得られる大量のログを分析するログ管理ツールだ。これらも、グローバルな先進企業では導入が進んでいる。しかし、ここまでは集めた情報を個別に分析し、例えばある機器の故障を予兆するなど、IT運用の一部を限定的に効率化する取り組みにとどまっていた。
続いて注目されたのが、オブザーバビリティーだ。これも、まだ日本では十分に普及していない。オブザーバビリティーは、集めた情報をそれぞれ関連付け、IT環境全体の見える化を推進する。クラウドなどが登場し、複雑化したIT環境を可視化したいという要求から、注目を集めている。オブザーバビリティーソリューションの導入により、エンドユーザーの顧客体験をより良いものにするためのアドバイスを得たり、いち早く障害などの予兆を検知し、事故の前に対処したりする動きにつながることが期待できる。
そして、欧米市場でオブザーバビリティーの先にあるソリューションとして視線が注がれているのが、「AIOps」である。人材不足などの課題が急速に顕在化した日本では、それを解消するために、一足飛びでAIOpsにたどり着かなければならない。「技術がどう変遷してきたかを理解できれば、一気に最新の状態にするのは、決して難しくはない」と日野執行役員は言う。
ただ、AIを一部に適用する動きはあったが、IT運用全体の自動化へと発展させる動きにはなかなかならなかった。NTTデータ先端技術のマネージド&ファシリティサービス事業本部マネージドサービス事業部の大上貴充・サービスマネジメント担当部長は、全体の運用へのAI活用が進まなかった理由を「学習には大量のデータが必要で、それらを集め運用する人材やツールも必要になる」からだと説明する。学習に必要なコストが高く、手間をかけてAIを導入しても、期待した効果が得られるとは限らないという問題があった。
近年は生成AIが大きく進化していることから、IT運用の高度化にもそれが活用できるのではないか、という考えもあるかもしれない。しかし、解決方法として必ずしも最適とは限らないといい、大上担当部長は「IT運用では従来型のルールベースのAIが(最適なツールとして)当てはまるシーンも多い」と指摘する。
NTTデータ先端技術では、NTTデータグループが開発するオープンソースの統合運用管理ソフトウェア「Hinemos」を展開しており、それがAIOps実現のプラットフォームとなる。その際のアプローチはAIドリブン運用で、これまで人手でやってきたことを自動化し、その先で自律化を目指すものとなる。
例えば、「故障対応の判断が属人化している」「複数システムの運用設計の際に、毎回人が同じような作業をしている」などの課題がある。これらに対し、さまざまなデータを分析した結果と、蓄積してきたノウハウを合わせて自動で対処する。
NTTデータ先端技術では、Hinemosで収集されるさまざまな情報を生成AIに渡すことで、運用の品質を向上させるためのアドバイスが得られると考えている。生成AIがなくてもIT運用の自動化や標準化は進められるが、「生成AIを加えることで、よりIT運用を高度化できるはず」と大上担当部長は説明する。
Hinemosでシステム監視をすれば、大量のメッセージが得られる。Hinemosには、それらをフィルタリングするメッセージフィルター機能がある。これを使い、優先度が高く対応が必要なものを見つけ、ルールに従い自動で対処する。このとき、なぜそのような判断を行ったかの説明が求められるが、ルールベースであれば判断基準が明確で説明しやすい。意図しない挙動も、ルール変更で対応できる。一方、ディープラーニングや生成AIで自動対応すると、説明は困難だ。予期しない結果につながった際に、再発を防ぐためにチューニングするのも容易ではない。
しかし、ルールベースは安心して運用できるが、ルールのメンテナンスに手間がかかる。そこで同社では、生成AIを使い、自然言語で対応したい内容を指示すると、ルールを自動生成する仕組みの開発を進めている。生成AIがつくったルールが正しいとは限らないので、シミュレーション機能でルールを検証し、意図したルールかを確認する。従来のルールベースのAIに生成AIを加え、運用者の業務をより効率化することを目指している。
ほかにも、インシデント管理ツールに蓄積される情報を生成AIで分類し、類似する過去のインシデントを担当者に提示するものもある。これには、RAG(検索拡張生成)の仕組みが活用されている。従来のAIの仕組みに生成AIを加える取り組みはPoCで顧客とともに検証している。「われわれのナレッジを使ってもらえば、生成AIで簡単にルールがつくれるようにしていく」と、同事業部の澤井健・サービスマネジメント担当部長は話す。
市場では、個々のタスクをAIで自動化することをAIOpsと呼んでいることもあるが、ダイナトレース日本法人の徳永信二社長は、AIOpsをうたうからには「オペレーション全体をAIで自動化できる必要がある」と強調する。
Dynatraceには、AIOps実現のために三つのAIが用意されている。システムの異常を検出する予測AI、検知された異常の原因を特定する分析AI、そして24年4月から生成AIがこれらに加わった。前者二つのAIは、「フォルト・ツリー・アナリシス(Fault Tree Analysis)」という、製造物の故障の可能性を分析する、実績あるモデルをベースにしている。これにより、集まった情報により分析しきれないことはあっても、誤検出をしないものとなっている。
生成AIにはハルシネーションなどもあるので、自動化には用いておらず、主にユーザーインターフェースの効率化で利用している。「Dynatraceが目指すのは、正確に障害を検出し、原因を特定すること。そこへの生成AIの適用は時期尚早で、使っていない。とはいえ、将来的には使える範囲も増えてくるだろう」と日野執行役員は言う。
DynatraceのようにIT運用全体のプロセスの自動化を目指すツールが広がることで、今後より多くのIT運用プロセスが自動化されることは間違いない。その際に、人はIT運用にどのように関わるのか。「AIなど最新の技術をどのように活用してIT運用を高度化するかは、引き続き人が担当する」と日野執行役員は展望する。一方で、コンソールを24時間監視するような業務は確実になくなる。
Dynatraceの普及・販売に関しては、ツール導入のためのエンジニアを提供することよりも、上位のビジネス価値をどう創出するかをコンサルティングするパートナーの存在が大きくなっているという。彼らはAIを理解し、それを駆使してオブザーバビリティーやAIOpsを実現した上で、AIOpsのビジネスへの貢献を支援する。
ユーザー企業側には、コンサルティング的な提案を受け止め、それを実践する人材が必要だ。AIOpsが実現される頃には、現在のIT運用エンジニアはそのような人材にリスキリングされている必要がある。当然、監視オペレーターを派遣するような技術サービスを提供している企業は、ビジネスモデルの転換が早急に求められる。
一部のタスクだけでなく、IT運用全体をいかに効率化、高度化できるかがAIOpsのかぎだ。その上でAIOpsの目的は、自動化が進むITが、ビジネスの成長にいかに貢献するかにある。自動化のためのAI技術の理解も大事だが、これからのIT運用者は、AIOpsの実現でITに俊敏性や柔軟性をもたらすことで、ビジネスにどう貢献するかを考え、実践するスキルが求められるだろう。
(取材・文/谷川耕一 編集/日高 彰)

生産性の低さは世界共通の課題
オブザーバビリティー(可観測性)のソリューションを提供する米Dynatrace(ダイナトレース)が、2020年に発表した調査結果がある。調査対象は米国、欧州を中心とするグローバル企業・組織の700人のCIOで、IT運用の上位課題には「システム全体の可視化」「工数やコストの増加」「属人化する運用現場」が挙げられている。例えば、クラウドネイティブ技術の利用拡大で手作業やコストが増加すると回答したCIOは、全体の74%に上った(下グラフ)
一貫した情報ソースを提供する「単一のプラットフォーム」が必要と考えるCIOの割合
「手作業やコストも増する」と考えるCIOの割合
出典:ダイナトレースの調査「2020 Global CIO Report」
日本よりIT運用の効率化が進む欧米でも、19年の調査時点でこれらが問題視されており、国内外で課題認識そのものに大きな違いはない。ダイナトレース日本法人の日野義久・執行役員は「システムの障害対応ほど生産性の低い仕事はないと、あらゆる企業が認識している」と話す。
そのため、欧米ではIT運用の自動化に積極的に取り組む例が多い。一方、日本を見ると、この課題の解決のため、運用自動化ソリューションを導入するCIOはまだまだ少ない。課題感は同じでも、取り組みには差がある。「日本の状況は、欧米の先進的な企業から、最低でも5年は遅れていると思う」と日野執行役員は指摘する。
これを裏付けるのが、欧米の先進的な企業で普及しているアプリケーションパフォーマンス管理(APM)ツールの導入が、日本ではまだ進んでいないという現状だ。これは、多くのユーザー企業が開発や運用を外部のSIerに委託する日本特有の体制も影響している。
日本企業では、アプリケーションの性能に対する責任の所在があいまいなケースが多い。問題が発生すれば、委託先に調査や解決を丸投げしがちだ。結果的にユーザー企業は、APMの必要性に気づかない。対して欧米では役割分担が明確化されており、システム構築を外部に委託していても、性能問題の責任はビジネスオーナーにあり、彼らが状況を把握するためにAPMが必要となる。
IT市場でAPMが注目され始めたのは、20年ほど前だろう。10年代にはDevOpsの概念も普及し、APMの必要性はさらに増した。APMの次に欧米で活用されたのが、システムやネットワーク機器などから得られる大量のログを分析するログ管理ツールだ。これらも、グローバルな先進企業では導入が進んでいる。しかし、ここまでは集めた情報を個別に分析し、例えばある機器の故障を予兆するなど、IT運用の一部を限定的に効率化する取り組みにとどまっていた。
続いて注目されたのが、オブザーバビリティーだ。これも、まだ日本では十分に普及していない。オブザーバビリティーは、集めた情報をそれぞれ関連付け、IT環境全体の見える化を推進する。クラウドなどが登場し、複雑化したIT環境を可視化したいという要求から、注目を集めている。オブザーバビリティーソリューションの導入により、エンドユーザーの顧客体験をより良いものにするためのアドバイスを得たり、いち早く障害などの予兆を検知し、事故の前に対処したりする動きにつながることが期待できる。
そして、欧米市場でオブザーバビリティーの先にあるソリューションとして視線が注がれているのが、「AIOps」である。人材不足などの課題が急速に顕在化した日本では、それを解消するために、一足飛びでAIOpsにたどり着かなければならない。「技術がどう変遷してきたかを理解できれば、一気に最新の状態にするのは、決して難しくはない」と日野執行役員は言う。
組み合わせで業務を効率化へ
IT運用におけるAI活用は、何も新しい話ではない。あらかじめ設定した条件に基づき、特定のイベント発生時に自動対応するルールベース型AIは以前からあった。また、過去のデータに基づき、システムの負荷状況や障害発生率などを機械学習で分析、予測するものも珍しくない。ただ、AIを一部に適用する動きはあったが、IT運用全体の自動化へと発展させる動きにはなかなかならなかった。NTTデータ先端技術のマネージド&ファシリティサービス事業本部マネージドサービス事業部の大上貴充・サービスマネジメント担当部長は、全体の運用へのAI活用が進まなかった理由を「学習には大量のデータが必要で、それらを集め運用する人材やツールも必要になる」からだと説明する。学習に必要なコストが高く、手間をかけてAIを導入しても、期待した効果が得られるとは限らないという問題があった。
近年は生成AIが大きく進化していることから、IT運用の高度化にもそれが活用できるのではないか、という考えもあるかもしれない。しかし、解決方法として必ずしも最適とは限らないといい、大上担当部長は「IT運用では従来型のルールベースのAIが(最適なツールとして)当てはまるシーンも多い」と指摘する。
NTTデータ先端技術では、NTTデータグループが開発するオープンソースの統合運用管理ソフトウェア「Hinemos」を展開しており、それがAIOps実現のプラットフォームとなる。その際のアプローチはAIドリブン運用で、これまで人手でやってきたことを自動化し、その先で自律化を目指すものとなる。
例えば、「故障対応の判断が属人化している」「複数システムの運用設計の際に、毎回人が同じような作業をしている」などの課題がある。これらに対し、さまざまなデータを分析した結果と、蓄積してきたノウハウを合わせて自動で対処する。
NTTデータ先端技術では、Hinemosで収集されるさまざまな情報を生成AIに渡すことで、運用の品質を向上させるためのアドバイスが得られると考えている。生成AIがなくてもIT運用の自動化や標準化は進められるが、「生成AIを加えることで、よりIT運用を高度化できるはず」と大上担当部長は説明する。
Hinemosでシステム監視をすれば、大量のメッセージが得られる。Hinemosには、それらをフィルタリングするメッセージフィルター機能がある。これを使い、優先度が高く対応が必要なものを見つけ、ルールに従い自動で対処する。このとき、なぜそのような判断を行ったかの説明が求められるが、ルールベースであれば判断基準が明確で説明しやすい。意図しない挙動も、ルール変更で対応できる。一方、ディープラーニングや生成AIで自動対応すると、説明は困難だ。予期しない結果につながった際に、再発を防ぐためにチューニングするのも容易ではない。
しかし、ルールベースは安心して運用できるが、ルールのメンテナンスに手間がかかる。そこで同社では、生成AIを使い、自然言語で対応したい内容を指示すると、ルールを自動生成する仕組みの開発を進めている。生成AIがつくったルールが正しいとは限らないので、シミュレーション機能でルールを検証し、意図したルールかを確認する。従来のルールベースのAIに生成AIを加え、運用者の業務をより効率化することを目指している。
ほかにも、インシデント管理ツールに蓄積される情報を生成AIで分類し、類似する過去のインシデントを担当者に提示するものもある。これには、RAG(検索拡張生成)の仕組みが活用されている。従来のAIの仕組みに生成AIを加える取り組みはPoCで顧客とともに検証している。「われわれのナレッジを使ってもらえば、生成AIで簡単にルールがつくれるようにしていく」と、同事業部の澤井健・サービスマネジメント担当部長は話す。
技術者やベンダーの役割が変わる
ダイナトレースが提供するオブザーバビリティー製品「Dynatrace」には、開発当初からAIエンジンの「Davis」が搭載されており、問題の検知、根本原因の分析、影響範囲の特定などを自動で行う。これにより運用担当者は手作業による調査時間を削減し、迅速な問題解決に集中できる。さらに、米Red Hat(レッドハット)の自動化ソリューション「Ansible Automation Platform」と連携し、Ansible Playbookの修復スクリプトを自動実行するなどの仕組みで、手動による対応よりも迅速な問題解決が可能となる。市場では、個々のタスクをAIで自動化することをAIOpsと呼んでいることもあるが、ダイナトレース日本法人の徳永信二社長は、AIOpsをうたうからには「オペレーション全体をAIで自動化できる必要がある」と強調する。
Dynatraceには、AIOps実現のために三つのAIが用意されている。システムの異常を検出する予測AI、検知された異常の原因を特定する分析AI、そして24年4月から生成AIがこれらに加わった。前者二つのAIは、「フォルト・ツリー・アナリシス(Fault Tree Analysis)」という、製造物の故障の可能性を分析する、実績あるモデルをベースにしている。これにより、集まった情報により分析しきれないことはあっても、誤検出をしないものとなっている。
生成AIにはハルシネーションなどもあるので、自動化には用いておらず、主にユーザーインターフェースの効率化で利用している。「Dynatraceが目指すのは、正確に障害を検出し、原因を特定すること。そこへの生成AIの適用は時期尚早で、使っていない。とはいえ、将来的には使える範囲も増えてくるだろう」と日野執行役員は言う。
DynatraceのようにIT運用全体のプロセスの自動化を目指すツールが広がることで、今後より多くのIT運用プロセスが自動化されることは間違いない。その際に、人はIT運用にどのように関わるのか。「AIなど最新の技術をどのように活用してIT運用を高度化するかは、引き続き人が担当する」と日野執行役員は展望する。一方で、コンソールを24時間監視するような業務は確実になくなる。
Dynatraceの普及・販売に関しては、ツール導入のためのエンジニアを提供することよりも、上位のビジネス価値をどう創出するかをコンサルティングするパートナーの存在が大きくなっているという。彼らはAIを理解し、それを駆使してオブザーバビリティーやAIOpsを実現した上で、AIOpsのビジネスへの貢献を支援する。
ユーザー企業側には、コンサルティング的な提案を受け止め、それを実践する人材が必要だ。AIOpsが実現される頃には、現在のIT運用エンジニアはそのような人材にリスキリングされている必要がある。当然、監視オペレーターを派遣するような技術サービスを提供している企業は、ビジネスモデルの転換が早急に求められる。
一部のタスクだけでなく、IT運用全体をいかに効率化、高度化できるかがAIOpsのかぎだ。その上でAIOpsの目的は、自動化が進むITが、ビジネスの成長にいかに貢献するかにある。自動化のためのAI技術の理解も大事だが、これからのIT運用者は、AIOpsの実現でITに俊敏性や柔軟性をもたらすことで、ビジネスにどう貢献するかを考え、実践するスキルが求められるだろう。
IT運用の領域においては以前から、業務を効率化するとともに属人化を解消し、自動化によって対応の迅速化や人的ミスの削減を実現すべきと言われている。最近になって、そのための有効な手段として注目を集めているのが「AIOps(AI for IT Operations)」だ。ITの運用・管理におけるさまざまな課題に対し、AIOpsはどのような解決策を提供できるのだろうか。
(取材・文/谷川耕一 編集/日高 彰)
複数の監視ツールをつなぎ合わせることで可観測性を維持することはできず、
一貫した情報ソースを提供する「単一のプラットフォーム」が必要と考えるCIOの割合
クラウドネイティブの利用増加に伴い、それを常時稼働させるための
「手作業やコストも増する」と考えるCIOの割合
出典:ダイナトレースの調査「2020 Global CIO Report」
日本よりIT運用の効率化が進む欧米でも、19年の調査時点でこれらが問題視されており、国内外で課題認識そのものに大きな違いはない。ダイナトレース日本法人の日野義久・執行役員は「システムの障害対応ほど生産性の低い仕事はないと、あらゆる企業が認識している」と話す。
そのため、欧米ではIT運用の自動化に積極的に取り組む例が多い。一方、日本を見ると、この課題の解決のため、運用自動化ソリューションを導入するCIOはまだまだ少ない。課題感は同じでも、取り組みには差がある。「日本の状況は、欧米の先進的な企業から、最低でも5年は遅れていると思う」と日野執行役員は指摘する。
ダイナトレース日本法人の徳永信二社長(左)と日野義久・執行役員
これを裏付けるのが、欧米の先進的な企業で普及しているアプリケーションパフォーマンス管理(APM)ツールの導入が、日本ではまだ進んでいないという現状だ。これは、多くのユーザー企業が開発や運用を外部のSIerに委託する日本特有の体制も影響している。
日本企業では、アプリケーションの性能に対する責任の所在があいまいなケースが多い。問題が発生すれば、委託先に調査や解決を丸投げしがちだ。結果的にユーザー企業は、APMの必要性に気づかない。対して欧米では役割分担が明確化されており、システム構築を外部に委託していても、性能問題の責任はビジネスオーナーにあり、彼らが状況を把握するためにAPMが必要となる。
IT市場でAPMが注目され始めたのは、20年ほど前だろう。10年代にはDevOpsの概念も普及し、APMの必要性はさらに増した。APMの次に欧米で活用されたのが、システムやネットワーク機器などから得られる大量のログを分析するログ管理ツールだ。これらも、グローバルな先進企業では導入が進んでいる。しかし、ここまでは集めた情報を個別に分析し、例えばある機器の故障を予兆するなど、IT運用の一部を限定的に効率化する取り組みにとどまっていた。
続いて注目されたのが、オブザーバビリティーだ。これも、まだ日本では十分に普及していない。オブザーバビリティーは、集めた情報をそれぞれ関連付け、IT環境全体の見える化を推進する。クラウドなどが登場し、複雑化したIT環境を可視化したいという要求から、注目を集めている。オブザーバビリティーソリューションの導入により、エンドユーザーの顧客体験をより良いものにするためのアドバイスを得たり、いち早く障害などの予兆を検知し、事故の前に対処したりする動きにつながることが期待できる。
そして、欧米市場でオブザーバビリティーの先にあるソリューションとして視線が注がれているのが、「AIOps」である。人材不足などの課題が急速に顕在化した日本では、それを解消するために、一足飛びでAIOpsにたどり着かなければならない。「技術がどう変遷してきたかを理解できれば、一気に最新の状態にするのは、決して難しくはない」と日野執行役員は言う。
(取材・文/谷川耕一 編集/日高 彰)

生産性の低さは世界共通の課題
オブザーバビリティー(可観測性)のソリューションを提供する米Dynatrace(ダイナトレース)が、2020年に発表した調査結果がある。調査対象は米国、欧州を中心とするグローバル企業・組織の700人のCIOで、IT運用の上位課題には「システム全体の可視化」「工数やコストの増加」「属人化する運用現場」が挙げられている。例えば、クラウドネイティブ技術の利用拡大で手作業やコストが増加すると回答したCIOは、全体の74%に上った(下グラフ)
一貫した情報ソースを提供する「単一のプラットフォーム」が必要と考えるCIOの割合
「手作業やコストも増する」と考えるCIOの割合
出典:ダイナトレースの調査「2020 Global CIO Report」
日本よりIT運用の効率化が進む欧米でも、19年の調査時点でこれらが問題視されており、国内外で課題認識そのものに大きな違いはない。ダイナトレース日本法人の日野義久・執行役員は「システムの障害対応ほど生産性の低い仕事はないと、あらゆる企業が認識している」と話す。
そのため、欧米ではIT運用の自動化に積極的に取り組む例が多い。一方、日本を見ると、この課題の解決のため、運用自動化ソリューションを導入するCIOはまだまだ少ない。課題感は同じでも、取り組みには差がある。「日本の状況は、欧米の先進的な企業から、最低でも5年は遅れていると思う」と日野執行役員は指摘する。
これを裏付けるのが、欧米の先進的な企業で普及しているアプリケーションパフォーマンス管理(APM)ツールの導入が、日本ではまだ進んでいないという現状だ。これは、多くのユーザー企業が開発や運用を外部のSIerに委託する日本特有の体制も影響している。
日本企業では、アプリケーションの性能に対する責任の所在があいまいなケースが多い。問題が発生すれば、委託先に調査や解決を丸投げしがちだ。結果的にユーザー企業は、APMの必要性に気づかない。対して欧米では役割分担が明確化されており、システム構築を外部に委託していても、性能問題の責任はビジネスオーナーにあり、彼らが状況を把握するためにAPMが必要となる。
IT市場でAPMが注目され始めたのは、20年ほど前だろう。10年代にはDevOpsの概念も普及し、APMの必要性はさらに増した。APMの次に欧米で活用されたのが、システムやネットワーク機器などから得られる大量のログを分析するログ管理ツールだ。これらも、グローバルな先進企業では導入が進んでいる。しかし、ここまでは集めた情報を個別に分析し、例えばある機器の故障を予兆するなど、IT運用の一部を限定的に効率化する取り組みにとどまっていた。
続いて注目されたのが、オブザーバビリティーだ。これも、まだ日本では十分に普及していない。オブザーバビリティーは、集めた情報をそれぞれ関連付け、IT環境全体の見える化を推進する。クラウドなどが登場し、複雑化したIT環境を可視化したいという要求から、注目を集めている。オブザーバビリティーソリューションの導入により、エンドユーザーの顧客体験をより良いものにするためのアドバイスを得たり、いち早く障害などの予兆を検知し、事故の前に対処したりする動きにつながることが期待できる。
そして、欧米市場でオブザーバビリティーの先にあるソリューションとして視線が注がれているのが、「AIOps」である。人材不足などの課題が急速に顕在化した日本では、それを解消するために、一足飛びでAIOpsにたどり着かなければならない。「技術がどう変遷してきたかを理解できれば、一気に最新の状態にするのは、決して難しくはない」と日野執行役員は言う。
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- 技術者やベンダーの役割が変わる
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