Special Feature
拡大する米IT大手の対日投資 国内企業の利用変化が背景に
2024/05/30 09:00
週刊BCN 2024年05月27日vol.2015掲載
(取材・文/大河原克行 編集/藤岡 堯)
DCのインフラ拡充を中心に各社が巨額計画を展開
2024年1月、米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)は23~27年にかけ、日本市場に対して、149億6000万ドル(約2兆2600億円)を投じると表明した。東京、大阪両リージョンのデータセンター(DC)の増強などの内容で、新たなリージョンへのDC整備ではなく、リージョン内での新規DC建設、サーバー導入、DC間をつなぐネットワーク機器などの各種設備、長期的に発生するDCの運用などにかかる費用が含まれている。発表時に日本法人AWSジャパンの社長だった長崎忠雄氏(現在は米OpenAI=オープンエーアイ=の日本法人社長)は「ますます重要になるデータの利活用において、日本の顧客、パートナー、スタートアップ企業、産業界、地域経済、クラウドコミュニティー全体に対するAWSのコミットメントである」と強調。「日本の顧客は、国外にデータを持ち出すことなく、低遅延でクラウドサービスを利用できる。また、日本における雇用の確保、クラウドに関する教育、AIなどの先端技術の活用、地域コミュニティーの支援、再生可能エネルギーの開発や導入といった点でも貢献できる」と、いくつもの効果を並べた。
AWSは新規投資を通じて368億1000万ドル(約5兆5700億円)のGDP効果と、年間平均3万500人以上の雇用創出を見込んでいる。これまでを振り返ると、11~22年に日本のDCなどに対して100億ドル(約1兆5100億円)を投じ、GDPでは累計97億ドル(約1兆4600億円)を創出したという。また、DCのサプライチェーン上にある国内企業の雇用創出効果は、年間平均で7100人以上、累計で8万5200人に達したとの試算も示している。
日本で数十万社がAWSのクラウドサービスを利用し、主力となる「Amazon EC2」では、750種類以上のインスタンスを提供し、あらゆるワークロードやビジネスニーズに対応。23年10月には「Amazon Bedrock」の提供を日本でも開始し、生成AIの利用が急増している。こうした日本におけるAWSの利用増加にあわせて、日本への投資を急拡大したことになる。
米Microsoft(マイクロソフト)は24年4月、日本市場に向けたAIおよびクラウド基盤の強化に向けて、今後2年間で29億ドル(約4400億円)の投資を行うことを発表した。訪米した岸田文雄首相と、マイクロソフトのブラッド・スミス副会長兼プレジデントが、ワシントンで会談。同社の沼本健・エグゼクティブバイスプレジデント兼CMO(チーフマーケティングオフィサー)、日本マイクロソフトの津坂美樹社長らも同席する中での公表となった。
スミス副会長兼プレジデントは、「マイクロソフトが日本で事業を開始した1978年以来、最大の投資を行うことになる。デジタルインフラやAIスキル、サイバーセキュリティー、そしてAI研究を含む総合的な取り組みは、日本のデジタル競争力を高めることになる。AIがけん引する堅調な経済成長を実現する上で、重要な一歩になると確信している」とコメントし、単独では最大規模の投資になる点をアピールした。
対象となるのは、東日本、西日本両リージョンのDCであり、新規のDC建設は含まれない。AIに関する能力強化を目的に、主にGPUの増設を図る考えだ。同社は「基盤の処理能力を大幅に向上し、AIワークロードの高速化に不可欠な最先端のGPUを含んだ、より高度な計算資源を日本に提供する」と説明する。
マイクロソフトはこれまでにも継続的な投資を行っており、最近では、23年3月に西日本リージョンの拡大に向けた投資を発表している。だが、具体的な投資額を発表したことはなく、今回の金額公表は異例にも映る。AWSの投資戦略を意識したと受け取ることもできるが、23年10月には、オートスラリアで50億豪ドル(約5000億円)、24年2月には、ドイツで32億ユーロ(約5200億円)の投資をそれぞれ発表しており、一連の流れに沿った動きと捉えるべきだろう。
1年あたりの平均投資規模でみると、マイクロソフトはAWSの半分程度となる。しかし、AWSの金額にはDCの建設費用が含まれていることを考慮すれば、単純比較するのは正しくないと言える。
米Oracle(オラクル)は、24年4月に都内で開催した「Oracle CloudWorld Tour Tokyo」の基調講演にサフラ・キャッツCEOが登壇。それに合わせ、日本のDCに対して10年間で80億ドル(約1兆2000億円)以上を投資すると発表し、「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」の事業拡大を図る姿勢を鮮明にした。
国内のソブリンクラウドに対する要件をサポートするために、人員を大幅に拡大する計画である。具体的には東京と大阪のリージョンにおいて、国内カスタマーサポートチームと、「Oracle Alloy」「OCI Dedicated Region」の国内運用チームの体制を拡充する。キャッツCEOは、「世界中の政府が国内にデータがなくてはいけないと考えており、規制された業界でも、データを国内に置くことが求められている。オラクルはこれらのニーズに対応するために、世界各国にソブリンリージョンを有している。最も機密性が高いデータについては隔離したリージョンを用意しており、一つの妥協もないソブリンクラウドを導入できる」と述べた。
ソブリン関連では、富士通との新たなパートナーシップも発表。富士通が運用するDCにOracle Alloyを設置し、経済安全保障の観点からもデータの機密性やソブリン性の要件を実現できる環境を整えていく。富士通の古賀一司・執行役員SEVPシステムプラットフォームビジネスグループ長は「オラクルは富士通が必須とした100以上の要件に真摯に向き合い、それを解決した。経済安全保障関連法案を見据えるとともに、経済安全保障推進法で特定された14業種へのサービスも提供できる。AI活用においても、データ主権要件に対応できる強みを生かすことで、顧客の期待に応えられるクラウドサービスが実現できる」と自信を見せた。
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