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必要性高まる農業のデジタル化 協業の枠組み拡大が成長のかぎに

2024/05/16 09:00

週刊BCN 2024年05月13日vol.2013掲載

 農業を取り巻く環境は厳しい。国内では、高齢化や後継者不足などの課題が山積しており、デジタル化の必要性は高まっている。農業機械メーカーやIT企業は、最新技術を駆使した支援を展開中で、自社の製品やサービスを強化している。他社との連携も重要視しており、協業の枠組み拡大は今後の成長に向けたかぎになりそうだ。変革に向けた最新動向と各社の取り組みを紹介する。
(取材・文/袖山俊夫  編集/齋藤秀平)
 

クボタ
オープンイノベーションに注力

 世界各地でビジネスを展開するクボタといえば、機械メーカーのイメージが強い。だが、カスタマーソリューション事業推進部スマート農業推進室の美馬京志・KSAS(ケーサス)開発推進課長は「ハードとソフトの両面からスマート農業を推進している」とし、「ハード面では、農機自動化による省力化。ソフト面ではKSASを用いたデータに基づくPDCA型農業の実現を目指している」と付け加える。
 
クボタ 美馬京志 KSAS開発推進 課長

 KSASは、農業経営の課題解決をサポートするために提供している営業・サービス支援システムで、「農業データを活用した新しい営農サイクルを構築できる」(美馬課長)のが特徴。PCやスマートフォンを利用して農地の管理や作業の記録などが可能で、農業経営の「見える化」を実現。KSAS対応機と連動することで、より効率的に肥料散布状況や作物情報を把握したり、機械の稼働データを収集したりすることができる。

 同社が2014年にKSASのサービスを始めた背景には、高齢化による農業人口の減少や、それに伴う農地の集約が加速していることがあるという。美馬課長は「勘や経験だけではなく、データに基づくスマート農業の必要性が高まっている」と指摘。同部の小林義史・スマート農業推進室長は「大規模化や法人化が進む農家を支援するために、KSASを新規プロジェクトとして立ち上げた」と振り返る。
 
クボタ 小林義史 スマート農業推進 室長

 その後、食味・収量マップや可変施肥マップなどの農機連携機能を順次リリースし、21年に使い勝手の改善やセキュリティーの強化を目的に「新KSAS」を提供。基盤には米Microsoft(マイクロソフト)の「Microsoft Azure」を採用した。KSASの会員(契約軒数)は順調に拡大しており、小林室長は「農業に必要不可欠なツールとして位置づけられていると言っていい」と胸を張る。

 24年には、KSASの利用者が追加機能の取得などができるWebサイト「KSAS Marketplace」をリニューアルし、新機能の追加や利便性の向上を図った。将来的に他社製営農関連サービスの拡大を目指しており、オープンイノベーションの取り組みに力を入れている。

 オープン化を進める意図について、美馬課長は「さまざまな背景がある。具体的には、求められるソリューションやニーズの多様化、農業を取り巻く環境の劇的な変化、テクノロジーの急速な進化、農業に関するデータ収集の難しさなどが挙げられる。これに迅速かつ的確に対応するには、もはや1社では困難で、オープンイノベーションが必要だ」と解説する。

 既に他社との取り組みが進んでおり、「『一緒に取り組んでいきたい』という機運が高く、病害虫診断AIをはじめとして何社かの企業とは、KSAS MarketplaceにAIと接続した連携機能を出そうという話が進んでいる」(美馬課長)との状況だ。

 ただ、連携するアプリケーションやサービスをやみくもに増やすつもりはないようだ。小林室長は「農業向けのアプリやサービスであることが大前提。しかも、データを連携することでお互いのサービス価値が上がるのかどうかを十分に検証しないといけない」との考えを示す。

 美馬課長は「当社は、長期ビジョンに『命を支えるプラットフォーマー』になることを掲げている。その実現に向けて、KSAS Marketplaceでは、社会や生産者、企業の課題を解決するプラットフォームになることを目指している」と力を込める。
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