Special Feature
大手PC2社が欧州事業撤退 親会社の思惑が大きく影響
2023/09/04 09:00
週刊BCN 2023年09月04日vol.1983掲載
(取材・文/大河原克行 編集/藤岡 堯)
Dynabook
シャープの大幅赤字が遠因か
Dynabookについては、8月4日のシャープの23年4~6月期決算説明会で、同社の沖津雅浩・副社長が明らかにした。撤退は4月末に完了していたが、5月11日の23年3月期決算発表時には触れられていなかった。沖津副社長は説明会で「PC事業の構造改革を進めるなかで、欧州から撤退することを決定した。構造改革が進んだPC事業の収益は大きく改善している」と、欧州撤退を23年4~6月期決算の増益要因の一つにあげた。Dynabookの欧州PC事業は、市場環境の悪化などを背景に、厳しい状況が続いていたのは確かだった。コロナ禍やウクライナ情勢の影響を受けて、PC市場の低迷は長期化。22年度には市場に多くの在庫が滞留し、Dynabookでは、欧州販売会社の組織体制の見直しなどに着手していた。
Dynabookは「(欧州の)PC市場に関しては、リモートワークの広がりにより、大幅に需要が急増したものの、21年末以降、劇的に低下し、欧州市場全体では前年割れの状況にあった」と指摘。「過剰なチャネル在庫のために競争が激化するとともに、顧客の需要は依然として弱く、とくに、ローエンドやボリュームゾーンセグメントでの値下げ圧力が引き続き強い状況だった」と説明する。その上で「欧州本社業務の合理化や収益性の低い販売地域の縮小などの暫定的な措置を講じてきたが、必要な安定性、収益性、成長力を確保できないことが明らかになった」とコメントしている。
販売ルートや顧客の絞り込みなどにより、Dynabookの欧州事業には回復の兆しが多少見えていたが、長期的な観点から撤退に踏み切ったようだ。この背景には、シャープの親会社である台湾・鴻海科技集団(フォックスコン)の思惑が強く反映されているとみられる。
シャープは23年3月期決算において、ディスプレイデバイス事業の減損などにより、2608億円という大幅な最終赤字を計上した。親会社出身の戴正呉氏が22年6月に会長を退任し、同じグループ出身の呉柏勲・社長兼CEOにバトンを完全に渡してから初めて迎えた決算で、6年ぶりの大きな赤字。その理由は戴氏が退任間際に子会社化した液晶パネル生産の堺ディスプレイプロダクト(SDP)の業績不振ではあるものの、現在のシャープ経営陣に対する親会社の不信感は高まっている状況にある。
実際、親会社の劉揚偉会長は、7月3~5日にかけて、シャープ本社を訪れ、経営幹部や事業責任者、中堅社員と、3日間に渡って徹底した議論を行った。本社訪問以外のスケジュールはなく、目的を絞り込んだ来日だったことは明らかであり、緊急事態であることをうかがわせる。
沖津副社長は「今後は、成長戦略をどう作るかといったことを鴻海側へ定期的に報告することになる。新規事業への取り組みを含めて、中期経営計画を見直しているところだ」と話している。大規模な赤字をきっかけに、鴻海の厳しい経営手法が改めて導入されることが宣言されたともいえ、Dynabookの欧州PC事業の撤退は、タイミング的にも、その最初の一手だったといえる。
実は、Dynabookの前身となる東芝のPC事業にとって、欧州市場は特別な意味を持っている。東芝は一時期、ノートPC市場において、世界トップシェアを誇っていた企業だ。その発端となった製品が、世界初のラップトップPC「T1100」である。1985年4月に発表したこの製品は、欧州で先行して発売され、その後、米国で展開。それに対して、日本での市場投入は次期モデルとなったJ-3100(海外ではT3100)まで待たなくてはならず、最も遅い市場参入となった。日本では、NECのPC-9800シリーズが全盛の時期であり、IBM PC互換のT1100には競争力がないと判断したのが、日本市場参入が後回しとなった理由だが、このエピソードからもわかるように、東芝のPC事業は欧州から始まったといっていい。
一時期は欧州には生産拠点を設けて事業展開を進めていたが、その後、台湾Acer(エイサー)などによる低価格攻勢によって市場構造が変化。東芝のシェアは落ちていった。シャープが東芝のPC事業を買収した時点では、欧州市場における存在感はすでに低かった。東芝で欧州PC事業に携わったある関係者は、Dynabookの決定について「欧州市場において、日本のPCブランドの価値を高めてきたという自負があった。個人的には、寂しい結果になった」と残念がる。
- FCCL 富士通の決断で帯びる現実味
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