Special Feature
次世代無線LAN規格Wi-Fi7 正式リリース前から商機が始まる
2023/08/24 09:00
週刊BCN 2023年08月21日vol.1981掲載
(取材・文/日高 彰、安藤章司)
最新規格の“指名買い”でなくとも ユーザーは長く使える製品を求める
無線LAN機器の相互運用性認証を行っている業界団体の米Wi-Fi Alliance(ワイファイアライアンス)は、19年から最新規格のIEEE802.11axをWi-Fi 6の名称で呼び、消費者や企業に向けて高速無線LANの普及促進活動を行ってきた。ワイファイアライアンスが次世代の無線LAN技術として位置づけているのが、24年に標準化作業の完了が予定されている規格のIEEE802.11beで、アライアンスではこれをWi-Fi 7と呼ぶ方針を示している。コンシューマー向けの無線LAN製品の市場では、規格の標準化作業が終盤を迎えると、次世代規格を先取りしたアクセスポイントが発売されることは通例で、前世代のIEEE802.11ac(Wi-Fi 5)、その前のIEEE802.11n(Wi-Fi 4)では、「ドラフト版対応」と称する製品が早くから店頭にあふれていた。標準化作業が最終段階に入れば、ハードウェアの設計変更が必要になるような大きな規格変更が行われる可能性はほとんどなく、メーカーとしては“見切り発車”で次世代製品に切り替えてもリスクは小さいからだ。
IEEE802.11beもWi-Fi 7も、現時点では正式な技術規格や名称として成立しているものではない。しかしNECは今年6月、無線LANアクセスポイントの新製品「UNIVERGE QX-W1240」を、早くも「Wi-Fi 7対応」を銘打つ機種として発表した。受注開始は9月、出荷開始は10月を予定しており、正式規格のリリース前に製品が市場に投入される形となる。
法人向けの市場では、新しい規格に対応した端末がまだ限られる段階で最新技術を取り入れるよりも、通信が安定的に行えて、管理ソリューションなども含め確実に運用できることのほうが重視されるため、次世代製品の発売まではより慎重に時間をかけるメーカーが多かった。無線LANの高速化に関して、モチベーションの高いユーザー企業もそれほど多くはなかった。
ただ、この傾向にも現在のWi-Fi 6の導入前後から変化が見られた。IEEE802.11ax規格の最終版がとりまとめられたのは20年後半で、正式な標準化完了は21年2月だったが、実際には19年半ばから、国内でも各メーカーは法人向けのWi-Fi 6対応アクセスポイントを相次いで発売していた。背景には、「業務を行う場所には無線LAN環境を用意し、継続的に運用・管理していかなければならない」という認識がユーザーの間で広がったことがある。業務用端末としてデスクトップPCよりもノートPCやモバイル端末を用い、クラウド上のアプリケーションに接続するのが主流となり、IoTセンサーなど、無線LANの存在を前提にしたソリューションも普及しているからだ。
無線LAN製品を扱う販売代理店のある営業担当者は、「技術動向に明るいユーザー企業ばかりではないので、現在でも、必ずしもユーザーからはWi-Fi 6対応製品を指定されるわけではない」と話す。Wi-Fi 6というキーワードはここ数年で普及したように思えるが、Wi-Fi 6を“指名買い”する企業が多いわけではないとする見方だ。しかし、一度導入すれば、場合によっては5年以上といった長期間にわたって使い続けるインフラになる。技術に詳しくないユーザーからも「長く使い続けられる製品を提案してほしい」という要求はほぼ確実に寄せられるため、そこで今後予想されるトラフィックの増加と、無線LAN規格の変遷を説明することで、結果としてWi-Fi 6製品が選択されるというケースが増えていると、前出の担当者は説明する。
Wi-Fi 7においても、対応する端末がほとんどゼロに近い現状では、提案の要件としてそれを求めるユーザーはほぼ存在しないと考えられる。しかし、あるタイミングで無線LAN環境のリプレースを行うとなった場合に、現状では十分といえ数年前の規格であるWi-Fi 6と、今後の通信量や端末数の増加に対応できると見込まれるWi-Fi 7を比較検討の対象とするユーザーは早晩確実に増える。メーカーが法人市場でも次世代規格を先取りした製品の投入を急ぐのには、このような理由がある。
- 速度だけでなく信頼性も向上
- 中堅・中小企業でのWi-Fi 7の本格普及は「次のさらに次」
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