Special Feature
さらに拡大するローコード開発市場 一方でベンダーの淘汰も始まる
2023/07/17 09:00
週刊BCN 2023年07月17日vol.1977掲載
(取材・文/谷川耕一 編集/日高 彰)
2桁成長続くローコード開発市場
ローコード開発には、紙ベースで行っている承認ワークフローをデジタル化するといったシンプルなものもあれば、スマートフォン向けのバンキングアプリケーションのように複雑でシビアなトランザクション処理を含むようなアプリケーションを、コードをあまり書かずに実現できるようにするツールもある。現状のローコード開発の主流は、複雑なものよりはシンプルなアプリケーションの構築において、生産性を向上するのに向いている。これは米Microsoft(マイクロソフト)のローコードプラットフォーム「Power Apps」に代表される領域だ。一方で、「開発のプロが使うような複雑な処理をセキュアに構築するようなものの実現は、まだ難しいところがある」と言うのは、ガートナーのアプリケーション・グループに所属するバイスプレジデントのエイドリアン・リオ・アナリストだ。
ローコード開発の技術を使うユーザーの想定属性は、「市民開発者」と「プロの開発者」の二つに大別でき、さらに市民開発者は一般的な「ビジネス」と、ある程度データやビジネスプロセスを構造的に理解した「テクニカル」に、プロの開発者はJavaやC#などで業務システム開発を担う「ゼネラリスト」と、モバイルアプリやAR/VRなど特定の領域に携わる「スペシャリスト」に分けられる。最もシンプルなものを開発するビジネス領域の市民開発者は、主にマウスの操作などの画面遷移だけで実現できるようなアプリケーションを作る。この場合は開発の知識やノウハウがほとんどなくても構築できる。ツールのユーザー層としては最もボリュームが大きいところだ。
一方、プロの開発者は、これまでローコード開発ツールを使わなかったが、ガートナーのリオアナリストは「彼らは、ローコード開発ツールは仕事では使えないと思っていたが、最近、その状況が変わってきた」と指摘する。プロの開発者も使うに値する機能が実装され、利用すれば一からコードを書くよりも効率的だと分かってきたのだ。
さらに、セキュリティのチェックや頻繁に更新する際のドキュメント管理など、人手ではもはや対応しきれないニーズにも、ローコード開発のツールで容易に対応できる。それもプロの開発者に利用が広がりつつある要因だろう。そのためツールベンダーも、最近はプロの開発者向けの製品や機能に力を入れ始めている。
ガートナーは、ローコードのアプリケーションプラットフォームのプレイヤーは200を超えているとみている。この場合のプラットフォームとは、データを格納するデータベースを基にしてアプリケーションを構築できるようにしたものや、ユーザーインターフェースなどのユーザーエクスペリエンス(UX)をデザインし構築するもの、ビジネスのルールやロジックを機能として実現するもの、さらにはワークフローを簡単に構築できるものなど、多くの機能を網羅した統合環境を指す。
このローコードのアプリケションプラットフォームに加え、UXデザインだけ、ワークフロー機能だけなどシンプルな機能を提供するツールもあり、それらを加えればプレイヤー数は400を超える。ちなみに、このように多くのローコード開発ツールのベンダーがある中、有力ベンダーの市場ポジションをガートナーがまとめているレポート「マジック・クアドラント」において、22年版のローコードアプリケーションプラットフォームカテゴリーで取りあげているのは17社しかない。 中でもリーダーに位置づけているのは、ポルトガルOutSystems(アウトシステムズ)、マイクロソフト、オランダMendix(メンディックス)、米Salesforce(セールスフォース)、米ServiceNow(サービスナウ)の5社だけだ。
ガートナーが26年に445億ドルになると予測するローコードテクノロジーの市場には、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)やBPA(ビジネスプロセスオートメーション)、MXDP(マルチエクスペリエンス開発プラットフォーム)、CADP(シチズンオートメーションと開発プラットフォーム)なども含まれる。これらの中で、ローコードアプリケーションプラットフォームの割合が最も大きく、「全体よりも高い23.6%の年平均成長率となっている」ともリオアナリストは言う。
- アプリ数やコストの増大が課題
- 期待される生成AIの活用はまだこれから
- 小規模ベンダーが飲み込まれる動きも
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