Special Feature
IPA「DX白書」が示す国内の現状
2023/03/06 09:00
週刊BCN 2023年03月06日vol.1959掲載
情報処理推進機構(IPA)は2月9日、調査レポート「DX白書2023」を刊行した。日米の企業を対象に大規模な調査・分析を行い、DXの現状をまとめている。そこで明らかになったのは、IT導入そのものには弾みがついているものの、デジタル技術を活用したビジネス変革のハードルは依然として高いという現実だ。DXを推進するために、国内企業やITベンダーにはどういった取り組みが必要となるのか、レポートからそのヒントを探る。
(取材・文/大畑直悠)
社会基盤センター イノベーション推進部
古明地正俊 部長
「DXの取り組み状況」では、「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取り組んでいる」「部署ごとに個別でDXに取り組んでいる」のいずれかと回答した国内企業の割合は69.3%となり、前年度と比較してもDXに取り組む企業は、日本でも着実に増加していることが明らかになった。(図1参照)。しかし、取り組みに対して「成果が出ている」とする回答は、米国が89.0%に対して、日本は58.0%と大きな差が出る結果となった(図2参照)。
具体的な取り組みごとの成果状況を見ると、「アナログ・物理データのデジタル化」と「業務の効率化による生産性の向上」で成果が出たとする回答はそれぞれ76.1%、78.4%となり高い割合になった。一方で、「新規製品・サービスの創出」は24.8%、「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」は21.5%となり、取り組みによっては、成果につながっていない状況にあることが分かった。
国内企業がビジネス変革にまで至れない理由として、古明地部長は「国内企業は新規事業をつくるのに苦手意識があるのではないか。コスト削減については、投資に対するメリットを評価しやすいため、経営層も積極的になるが、投資に対するメリットが明確でない新規事業の創出には二の足を踏んでしまう現状がある」との見解を示した。加えて、「現状の収益に対して責任を負っている現場の部門長クラスが、新規ビジネスを創出する上での抵抗勢力になってしまいがちだ」とし、企業のDXを支援するITベンダーは、「IT部門だけではなく、現場の課題に対する理解がより必要になる」と述べた。
日本では、そもそも「成果を測定していない」とする割合が高く、適切な成果評価を設定し、適宜評価していくというデータ活用の基本が根付いていないといった課題が浮き彫りとなった。今後はデータ分析に関する上級管理職や、全社的な戦略に基づきデータ分析を推進する組織の設置に加え、全社共通の分析プラットフォームの構築が求められるとした。
AIについては、導入率が22.2%で、米国が40.4%であることから遅れが目立つ結果となった。要因としては「自社内でAIへの理解が不足している」「AI人材が不足している」などがある。
「AIの導入目的」に関しては、米国では「集客効果の向上」「新製品の創出」「新サービスの創出」が上位を占めたのに対し、日本では「生産性向上」「ヒューマンエラーの低減、撲滅」「品質向上」といった社内業務の効率化が上位となり、ビジネス変革という意味での活用が米国に比べ遅れていることが分かった。
このような状況下で、ITベンダーには高度にデータやAIを利活用するための技術支援が求められるという。一方で、「データ分析関連での自動化技術などの技術が発展し、企業の現場の人員がデータやAIの利活用を推進できる可能性が高まっている。欧米では市民データサイエンティストと呼ばれる人たちも増えてきている」ことから、中長期的には技術面での支援のニーズは下がる可能性があるとした。
調査の中で明らかになった国内企業の課題としては、採用する人材像が明確になっていないことが挙げられる。DX人材の人材像について、「設定し、社内に周知している」と答えた企業はわずか18.4%で、「設定していない」と回答した企業は40.0%にのぼった。「そもそもどういう人材が必要なのかという入り口が整備されていないことにより、適切な人材を確保できず、人材不足につながっている」ことから、早急に取り組む必要性があると指摘した。
DXを推進する人材に対する評価基準が整っていないことも課題となっており、日本では「評価基準がある」とした企業は12.0%にとどまった。その要因として、国内企業は、既存の人材を年功序列の枠組みで評価するケースが多く、DX人材のように中途採用の人材を評価する仕組みの整備に取りかかれていないことがある。新たな評価制度を作成するには、例えば、減点主義ではなく加点主義で評価をすることでアジャイルに変革を進めることなどを推奨している。
加えてDXを推進する上で障害となるレガシーシステムが、米国と比べて日本企業では依然として高い割合で残存している。「レガシーシステムの状況」の項目では、企業内に半分以上レガシーシステムが残っている割合が、米国が22.8%であるのに対し、日本は41.2%となった。レガシーシステムの刷新が進まない要因としては、「レガシーシステム刷新・移行に長けたプロジェクトリーダーがいない」が33.5%と最も高く、米国の2倍以上となっている。これに「ユーザーの既存業務フローやシステムの操作性へのこだわりが解消できない」「ブラックボックス化によりレガシーシステムの解析が困難」が続く結果になった。今後は、ITベンダーによる支援や人材の確保、システム刷新と合わせた業務の標準化・見直しが重要になるとした。
古明地部長は、「DXには、企業ごとに適した進め方がある。事業環境が異なる部分もあるため、単に米国を模倣すればよいということではない」としつつも、「欧米企業の過去の学びやベストプラクティスがあるのに、それらを学ばずに変革を進めるのは効率的ではない。アジャイルな変革など、白書の結果で明らかになった多くの米国企業が取り入れている考え方や実践している手法を正しく学んだ上で、自社にとって適切な方法を考える必要がある」とアドバイスした。
(取材・文/大畑直悠)

成果につながらない取り組み
調査は2022年6月から7月にかけて、国内企業543社と米国企業386社の経営層またはICT関連事業部門、DX関連事業部門の責任者もしくは担当者を対象に実施。「DXの取り組み状況」「企業DXの戦略」「デジタル時代の人材」「DX実現に向けたITシステム開発手法と技術」を主要なテーマとして調査・分析している。白書のとりまとめを主導したIPA社会基盤センター イノベーション推進部の古明地正俊・部長は、国内の状況について「デジタル化は進んでいる」と一定の評価を示しつつも、「DXにおける本質はトランスフォーメーションだ。現状は、変革まで至っていない」と総括する(以下、文中の発言は全て古明地部長)。
古明地正俊 部長
「DXの取り組み状況」では、「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取り組んでいる」「部署ごとに個別でDXに取り組んでいる」のいずれかと回答した国内企業の割合は69.3%となり、前年度と比較してもDXに取り組む企業は、日本でも着実に増加していることが明らかになった。(図1参照)。しかし、取り組みに対して「成果が出ている」とする回答は、米国が89.0%に対して、日本は58.0%と大きな差が出る結果となった(図2参照)。


具体的な取り組みごとの成果状況を見ると、「アナログ・物理データのデジタル化」と「業務の効率化による生産性の向上」で成果が出たとする回答はそれぞれ76.1%、78.4%となり高い割合になった。一方で、「新規製品・サービスの創出」は24.8%、「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」は21.5%となり、取り組みによっては、成果につながっていない状況にあることが分かった。
国内企業がビジネス変革にまで至れない理由として、古明地部長は「国内企業は新規事業をつくるのに苦手意識があるのではないか。コスト削減については、投資に対するメリットを評価しやすいため、経営層も積極的になるが、投資に対するメリットが明確でない新規事業の創出には二の足を踏んでしまう現状がある」との見解を示した。加えて、「現状の収益に対して責任を負っている現場の部門長クラスが、新規ビジネスを創出する上での抵抗勢力になってしまいがちだ」とし、企業のDXを支援するITベンダーは、「IT部門だけではなく、現場の課題に対する理解がより必要になる」と述べた。
データとAIの利活用で遅れ
デジタル技術の導入に関する調査では、データとAIの利活用の成果において、遅れが目立つ結果となった。データの利活用に関しては「全社で利用している」「事業部門・部署ごとに利活用している」と回答した企業は55.0%で、ほぼ米国と並ぶ結果となった。その一方で、「データ利活用による『売上増加』効果」では、米国に対して大きく遅れる結果が出た(図3参照)。
日本では、そもそも「成果を測定していない」とする割合が高く、適切な成果評価を設定し、適宜評価していくというデータ活用の基本が根付いていないといった課題が浮き彫りとなった。今後はデータ分析に関する上級管理職や、全社的な戦略に基づきデータ分析を推進する組織の設置に加え、全社共通の分析プラットフォームの構築が求められるとした。
AIについては、導入率が22.2%で、米国が40.4%であることから遅れが目立つ結果となった。要因としては「自社内でAIへの理解が不足している」「AI人材が不足している」などがある。
「AIの導入目的」に関しては、米国では「集客効果の向上」「新製品の創出」「新サービスの創出」が上位を占めたのに対し、日本では「生産性向上」「ヒューマンエラーの低減、撲滅」「品質向上」といった社内業務の効率化が上位となり、ビジネス変革という意味での活用が米国に比べ遅れていることが分かった。
このような状況下で、ITベンダーには高度にデータやAIを利活用するための技術支援が求められるという。一方で、「データ分析関連での自動化技術などの技術が発展し、企業の現場の人員がデータやAIの利活用を推進できる可能性が高まっている。欧米では市民データサイエンティストと呼ばれる人たちも増えてきている」ことから、中長期的には技術面での支援のニーズは下がる可能性があるとした。
求められる人材像の定義を
DXを推進する人材については、「量」の面では、米国が「やや過剰」「過不足ない」と回答した企業の割合が70%を超えたのに対して、日本では、「やや不足」「大幅に不足」と回答した企業の割合が80%を超えた。「質」の面でも「過不足ない」と回答した企業が、米国では50.8%であるのに対し、日本ではわずか6.1%で、大きな開きが出た。「個別の企業が人材獲得のプロセスを組み上げられていないという問題もあるが、日本の終身雇用制度の影響で、人材の流動性が低く、そのために外部の人材の確保が難しいという面もある。日本社会全体のありようとして見直していかなければならない問題でもある」との見解を示した。調査の中で明らかになった国内企業の課題としては、採用する人材像が明確になっていないことが挙げられる。DX人材の人材像について、「設定し、社内に周知している」と答えた企業はわずか18.4%で、「設定していない」と回答した企業は40.0%にのぼった。「そもそもどういう人材が必要なのかという入り口が整備されていないことにより、適切な人材を確保できず、人材不足につながっている」ことから、早急に取り組む必要性があると指摘した。
DXを推進する人材に対する評価基準が整っていないことも課題となっており、日本では「評価基準がある」とした企業は12.0%にとどまった。その要因として、国内企業は、既存の人材を年功序列の枠組みで評価するケースが多く、DX人材のように中途採用の人材を評価する仕組みの整備に取りかかれていないことがある。新たな評価制度を作成するには、例えば、減点主義ではなく加点主義で評価をすることでアジャイルに変革を進めることなどを推奨している。
残存するレガシーシステムの刷新を
DXを推進していく上で重要となる、ITシステムの開発・運用体制に関する調査結果では、市場環境の変化に対して俊敏かつ柔軟に対応できるスピードやアジリティ(敏捷性)を備えたシステム構築ができていないことが明らかになった。日米ともに、ビジネスニーズに対応するために、ITシステムに求められる機能として、「変化に応じ迅速かつ安全にITシステムを更新できる」「小さなサービスから始め、価値を確かめながら拡張していくことができる」といった項目の重要度が高いとする回答が多いのに対し、その達成度に関する回答では米国に大きく離される結果となった。加えてDXを推進する上で障害となるレガシーシステムが、米国と比べて日本企業では依然として高い割合で残存している。「レガシーシステムの状況」の項目では、企業内に半分以上レガシーシステムが残っている割合が、米国が22.8%であるのに対し、日本は41.2%となった。レガシーシステムの刷新が進まない要因としては、「レガシーシステム刷新・移行に長けたプロジェクトリーダーがいない」が33.5%と最も高く、米国の2倍以上となっている。これに「ユーザーの既存業務フローやシステムの操作性へのこだわりが解消できない」「ブラックボックス化によりレガシーシステムの解析が困難」が続く結果になった。今後は、ITベンダーによる支援や人材の確保、システム刷新と合わせた業務の標準化・見直しが重要になるとした。
古明地部長は、「DXには、企業ごとに適した進め方がある。事業環境が異なる部分もあるため、単に米国を模倣すればよいということではない」としつつも、「欧米企業の過去の学びやベストプラクティスがあるのに、それらを学ばずに変革を進めるのは効率的ではない。アジャイルな変革など、白書の結果で明らかになった多くの米国企業が取り入れている考え方や実践している手法を正しく学んだ上で、自社にとって適切な方法を考える必要がある」とアドバイスした。
情報処理推進機構(IPA)は2月9日、調査レポート「DX白書2023」を刊行した。日米の企業を対象に大規模な調査・分析を行い、DXの現状をまとめている。そこで明らかになったのは、IT導入そのものには弾みがついているものの、デジタル技術を活用したビジネス変革のハードルは依然として高いという現実だ。DXを推進するために、国内企業やITベンダーにはどういった取り組みが必要となるのか、レポートからそのヒントを探る。
(取材・文/大畑直悠)
社会基盤センター イノベーション推進部
古明地正俊 部長
「DXの取り組み状況」では、「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取り組んでいる」「部署ごとに個別でDXに取り組んでいる」のいずれかと回答した国内企業の割合は69.3%となり、前年度と比較してもDXに取り組む企業は、日本でも着実に増加していることが明らかになった。(図1参照)。しかし、取り組みに対して「成果が出ている」とする回答は、米国が89.0%に対して、日本は58.0%と大きな差が出る結果となった(図2参照)。
具体的な取り組みごとの成果状況を見ると、「アナログ・物理データのデジタル化」と「業務の効率化による生産性の向上」で成果が出たとする回答はそれぞれ76.1%、78.4%となり高い割合になった。一方で、「新規製品・サービスの創出」は24.8%、「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」は21.5%となり、取り組みによっては、成果につながっていない状況にあることが分かった。
国内企業がビジネス変革にまで至れない理由として、古明地部長は「国内企業は新規事業をつくるのに苦手意識があるのではないか。コスト削減については、投資に対するメリットを評価しやすいため、経営層も積極的になるが、投資に対するメリットが明確でない新規事業の創出には二の足を踏んでしまう現状がある」との見解を示した。加えて、「現状の収益に対して責任を負っている現場の部門長クラスが、新規ビジネスを創出する上での抵抗勢力になってしまいがちだ」とし、企業のDXを支援するITベンダーは、「IT部門だけではなく、現場の課題に対する理解がより必要になる」と述べた。
(取材・文/大畑直悠)

成果につながらない取り組み
調査は2022年6月から7月にかけて、国内企業543社と米国企業386社の経営層またはICT関連事業部門、DX関連事業部門の責任者もしくは担当者を対象に実施。「DXの取り組み状況」「企業DXの戦略」「デジタル時代の人材」「DX実現に向けたITシステム開発手法と技術」を主要なテーマとして調査・分析している。白書のとりまとめを主導したIPA社会基盤センター イノベーション推進部の古明地正俊・部長は、国内の状況について「デジタル化は進んでいる」と一定の評価を示しつつも、「DXにおける本質はトランスフォーメーションだ。現状は、変革まで至っていない」と総括する(以下、文中の発言は全て古明地部長)。
古明地正俊 部長
「DXの取り組み状況」では、「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取り組んでいる」「部署ごとに個別でDXに取り組んでいる」のいずれかと回答した国内企業の割合は69.3%となり、前年度と比較してもDXに取り組む企業は、日本でも着実に増加していることが明らかになった。(図1参照)。しかし、取り組みに対して「成果が出ている」とする回答は、米国が89.0%に対して、日本は58.0%と大きな差が出る結果となった(図2参照)。


具体的な取り組みごとの成果状況を見ると、「アナログ・物理データのデジタル化」と「業務の効率化による生産性の向上」で成果が出たとする回答はそれぞれ76.1%、78.4%となり高い割合になった。一方で、「新規製品・サービスの創出」は24.8%、「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」は21.5%となり、取り組みによっては、成果につながっていない状況にあることが分かった。
国内企業がビジネス変革にまで至れない理由として、古明地部長は「国内企業は新規事業をつくるのに苦手意識があるのではないか。コスト削減については、投資に対するメリットを評価しやすいため、経営層も積極的になるが、投資に対するメリットが明確でない新規事業の創出には二の足を踏んでしまう現状がある」との見解を示した。加えて、「現状の収益に対して責任を負っている現場の部門長クラスが、新規ビジネスを創出する上での抵抗勢力になってしまいがちだ」とし、企業のDXを支援するITベンダーは、「IT部門だけではなく、現場の課題に対する理解がより必要になる」と述べた。
この記事の続き >>
- データとAIの利活用で遅れ
- 求められる人材像の定義を
- 残存するレガシーシステムの刷新を
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