人々の暮らしや働き方を大きく変えた新型コロナ禍を経て、社会のデジタル化は必須であるという考え方が広がってきた。ITの役割がこれまで以上に重要になる一方、業界では企業や事業の大きな再編が話題となった。編集部が注目した今年のニュースの一部を振り返る。
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NTTとNTTデータ グループの海外事業を統合
NTTとNTTデータは5月9日、NTTグループの海外事業を統合すると発表した。今年10月にグループのグローバル事業を統括する持株会社NTTインクを母体に、NTTデータが55%、NTTが45%を出資する海外事業会社を設立し、戦略・実務面での連携を進めて海外でのさらなる成長を狙う。
NTTの澤田純社長(左、当時)とNTTデータの本間洋社長
NTTグループの海外事業は、NTTインクの傘下で、NTTデータと、データセンターやネットワークなどを提供するNTTリミテッドが展開している。今回の事業統合では、海外事業会社とNTTリミテッドをNTTデータ傘下に移管し、海外事業を集約する。NTTデータが得意とするコンサルティングやアプリケーション開発などに、NTTリミテッドが強みとする高付加価値サービスを融合させ、データ活用ビジネスの高度化を図るほか、5G/IoT、スマート関連ビジネスの創出・拡大を進める。
新しい海外事業会社は、売上高が3兆5000億円、従業員数が18万人の規模となり、海外売上高比率は約60%になる見通し。海外事業会社を設立した後、NTTデータは新たに国内事業会社を設立する。23年7月以降は持株会社化したNTTデータの傘下に海外と国内の両事業会社を配置する予定。
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5月16日・1922号掲載)
Pickup 2
60時間を超える大規模通信障害発生
KDDIの携帯電話ネットワークで7月2日、大規模な通信障害が発生した。障害は2日午前1時35分から4日午後3時までの61時間25分にわたって発生し、電話やデータ通信がつながりにくくなった。影響を受けた契約者は音声通話で2316万人以上、データ通信で775万人以上に上った。
KDDIの高橋誠社長
全国中継網ルータのメンテナンス時に、本来は使用されない古いバージョンの手順書に基づいて作業したことで、ルータの通信経路に誤設定が生じ、一部の通信が遮断。これにより、音声通話に必要な端末の位置登録要求が大量に再送されたため、VoLTE交換機と加入者データベースの輻輳などが連鎖的に発生し、通信しにくい状況が続いたという。
警察などへの緊急通報が遅れるケースや、運送業者での荷物の配達や積み下ろしの遅延、一部ATMの使用不可、新型コロナ感染で自宅療養する人との連絡途絶など、社会に大きな影響を与えた。一方で、経営トップの高橋誠社長が障害の原因を正確に把握し、記者会見に出て自ら技術面を含めて詳細な説明を行ったことを評価する声もあった。同社では作業ルールの見直しのほか、仮想化基盤導入の前倒しやAIによる障害検知の活用など、500億円規模の追加投資で対策を強化していく。
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8月8・15日・1934号掲載)
Pickup 3
撤退/継続で分かれるメインフレーム事業
富士通は今年、2030年度でメインフレームの販売を終了することを発表した。35年度に保守サービスを終了し、同事業から撤退する。最終製品は24年度に発売予定の次期「GS」シリーズとなる。IBMが「System/360」を発売したのと同時期の1964年、富士通が発売した「FACOM 230」シリーズが同社メインフレームの起源。60年以上の歴史に幕を下ろし、今後は基幹システムのクラウドシフトを推進していくとしている。
NECの新製品「i-PX AKATSUKI/A100」シリーズ
一方でNECは6月、メインフレームの新製品「i-PX AKATSUKI/A100」シリーズを発売した。独自CPUの「NOAH-7」を搭載し、従来製品から性能を2倍以上に向上させた。三井住友銀行が次期勘定系システムへの採用を決定しており、同製品によって、金融サービスのデジタル化で増大するデータ処理量に対応する。
メインフレームに関しては、17年に日立製作所が独自製品の開発終了を発表している。富士通の撤退により、独自CPUを搭載する製品を提供するのは世界でもIBMとNECだけになる。NECは、新製品の販売目標を向こう5年間で200台としており、これはメインフレームの事業を健全に継続可能な規模とすることを想定した数字だという。
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7月18日・1931号掲載)
Pickup 4
インボイス制度開始まで1年を切る
消費税の仕入税額控除の要件として、税務署の登録を受けた事業者が発行する「適格請求書(インボイス)」の保存を義務づける、インボイス制度が2023年10月1日から導入される。新制度をにらんだ製品やサービスが各社から相次いで発表されている。
EIPAの代表幹事法人を務める弥生の
岡本浩一郎社長
ITベンダーなどで構成されるデジタルインボイス推進協議会(EIPA)は、国際標準規格「Peppol(ペポル)」をベースとしたデジタルインボイスの国内標準仕様(JP PINT)が正式に公開された10月28日に記者発表会を開催。EIPAの代表幹事法人を務める弥生の岡本浩一郎社長は、紙でやりとりしていた請求書がデジタルデータになることで「例えば、受け取ったデータをもとに、支払処理や入金消込といった後続の業務を効率化・自動化できる」と説明。既存の業務をデジタルを前提とした方向に変えることで、新たな付加価値が生まれる可能性があるとの認識も示した。
さらに「働き手が減って行く中、従来と同等かそれ以上のアウトプットが求められる」と述べ、人員に余裕のない企業ほどデジタル化を通じた業務の効率化が必要と指摘。インボイス制度は「日本のデジタル化にとって最大のチャンスだ」と強調した。
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11月7日・1945号掲載)