Special Feature

ビックカメラのDX宣言 「顧客中心」の企業変革は何を目指すか

2022/09/12 09:00

週刊BCN 2022年09月12日vol.1938掲載

 家電量販大手のビックカメラが、デジタルによる企業変革を加速させている。6月にはその意思表示となる「DX宣言」を公表。米Salesforce(セールスフォース)や米Amazon Web Services(アマゾン ウェブ サービス/AWS)などのソリューションによる基幹システムのクラウドリフト、CRM基盤の構築などを進める方針を掲げた。さらにはIT子会社を設立し、システム開発を内製化する体制も整える考えも示す。業界2位の売上規模を有する同社だが、DXの陣頭指揮を執る野原昌崇・執行役員デジタル戦略部長は「私たちはマーケットで一番、変革圧力に晒されている」と危機感を隠さない。「顧客中心」を掲げ、企業像を抜本的に変える挑戦の先に何を目指すのか(文中の発言はすべて野原部長)。
(取材・文/藤岡 堯)
 

他社に「取り残された」

 同社が改革に乗り出した背景には他社に「取り残された」状況がある。2015年と20年の市場を比較すると、マーケット全体は横ばい傾向にある中で、ビックカメラは傘下のコジマを合わせて売上規模で業界2位の位置は変わらないものの、競合と比べ営業利益が伸び悩んでいる。売上高は確保している一方、成長にはつながっていない、ともいえる。
 
野原昌崇 執行役員

 この現状を打破するための試みがデジタルによる変革となる。そのキーワードに据えるのは「顧客中心」の考え方だ。

 家電小売は、単価の高い製品を取り扱う特性上、顧客マーケティングが効きにくい傾向にあるという。納得できる買い物をするために、顧客の大半は販売員による説明を経て購入に至る。その点で、出店などのマーケティング戦略にミスがあっても「『最後は俺が売ればいいんだろう』という発想になる」。

 目の前の顧客のニーズに適切に対応できていれば売り上げはつかめるものの、関係性は散発的なものにとどまる。しかし、マーケットは大幅な拡大が見込めず、顧客接点が多様化する中で、刹那的な関係だけで成長を続けていくのは困難である。さらに、買い替えまで5~10年はかかる耐久消費財の家電は、購買履歴からのレコメンデーションといったデジタルマーケティングの一般的な手法はあまり意味をなさず、それゆえにデジタルの導入が遅れている面は否めなかった。

 とはいえ、デジタルによるビジネスモデルの再構築が無意味なわけではない。むしろ、これまでデジタルが入り込みにくかったからこそ、効果を発揮する面は大いにある。「新しい顧客体験、長期的な関係を築きたい。それは、顧客を中心としたマーケティングであると考える」。顧客を中心に置いてビジネスのあり方を変革し、顧客体験を向上させる。そのためにデジタルの力を取り入れる。これがビックカメラにおけるDXの「一丁目一番地」だと強調する。
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