Special Feature

躍動するクラウドのエコシステム 全方位かつ面的な市場拡大へ

2021/10/19 09:00

週刊BCN 2021年10月18日vol.1895掲載


 いよいよ本格的なクラウドシフトが始まる――。近年、こうした指摘は繰り返されてきたが、新型コロナ禍はクラウドをようやく「本当の当たり前」にした感がある。一方で、地域や企業規模などによりITリテラシー、ITケイパビリティの格差が拡大しつつある傾向も見て取れる。こうした課題を乗り越えるカギは、いかにクラウドのエコシステムを拡大し、活性化できるかだ。
(取材・文/本多和幸)

週刊BCNは今年10月、創刊40周年を迎えます。本紙が長年取材してきたITビジネスの現在を分析し、未来を占う記念特集を連載形式でお届けします。

ハイパースケーラーの競合関係に変化?

 新型コロナ禍がクラウド市場の拡大を後押しする結果となったのは、もはや疑いようがない。

 調査会社のIDCジャパンは今年3月、2020年の国内パブリッククラウドサービス市場規模が前年比19.5%増の1兆654億円になったと発表。合わせて、20年から25年の同市場の年間平均成長率が19.4%で推移し、25年の市場規模は20年比2.4倍の2兆5866億円になるという予測結果も明らかにした。

 背景については、「COVID-19の感染拡大は企業の経営戦略およびIT投資に対する意識を変え、クラウドの利用を促すものとなっている」と分析。市場予測でも、新型コロナ禍の影響が色濃く残ると見られる21年、22年を前年比成長率のピークと見ている。
 

 クラウド市場に従来以上の追い風が吹いているという実感は、市場のリーダーたるハイパースケーラー、つまりグローバル大手のクラウドサービスベンダーも同様だ。アマゾンウェブサービス(AWS)ジャパンの渡邉宗行・執行役員パートナーアライアンス統括本部統括本部長は「半導体不足でサーバー調達に物理的なハードルがあったという事情もあるが、クラウドの俊敏性、伸縮性という本質的なメリットにユーザーの目が向く機会が増え、コロナ禍のような大きな事業環境の変化に対応するために不可欠なビジネスインフラであるという認識が広がったことが大きい」と話す。

ISV向けパートナープログラムを変更したAWS

 市場全体のパイが拡大し続ける中で、ハイパースケーラーはそれぞれの成長戦略の要にパートナー戦略を据え、ビジネスエコシステムの活性化に注力している。

 AWSはいち早くパートナーのケイパビリティを可視化したパートナープログラム「APN(AWS Partner Network)」を整え、パートナー数も拡大してきたが、今年、APNの仕組みに大きな変更があった。

 従来、APNパートナーはSIerやコンサルファーム、VARなどが対象の「コンサルティングパートナー」と、ISVが主な対象となる「テクノロジーパートナー」に分かれており、両カテゴリーともパートナーの技術力やAWSビジネスの規模、AWSビジネスへの投資状況などに応じてレベル分けされていた。コンサルティングパートナーは「プレミア」「アドバンスド」「セレクト」の三つ、テクノロジーパートナーは「アドバンスド」「セレクト」の二つのクラスがあった。

 新制度ではテクノロジーパートナーという枠組みを廃し、企業単位ではなく製品・サービス単位で“AWSレディ”であることを認定する「ISVパートナーパス」というプログラムを新たに立ち上げた。AWSの認定サービスとしてふさわしいアーキテクチャーになっているのか、厳格なチェック(ファンデーショナルテクニカルレビュー、FTR)を行うという。

 渡邉執行役員は「テクノロジーパートナー制度については、近年、お客様やパートナーからも疑問の声が上がっていたのは事実。製品・サービス単位でAWSレディなものが可視化されるのは、あらゆる関係者にメリットがある」と強調する。ユーザー企業にとっては自分たちの課題にフィットした認定製品・サービスを選びやすくなる。また、日本ではコンサルティングパートナーとして登録されているSIerなども独自のソフトウェアソリューションを持っていることが多く、ISVパートナーパスにより、そうした製品の価値を従来制度よりも分かりやすくユーザーに説明できるようになった。「具体的な数は言えない」としたものの、既に相当数の製品・サービスが認定を取得しており、“FTR待ち”のものはさらに多いという。
 
AWSジャパン 渡邉宗行 執行役員

 このほか、AWSジャパンは近年、日本市場の独自施策も相次いで開始している。渡邉執行役員は課題感を次のように語る。「クラウド市場はまだまだ伸びる。ラージエンタープライズのお客様が使い始めてから10年しか経っていないし、全国津々浦々で使ってもらえるようになったかというと、まだそこまでは至っていない。お客様の規模、業種など関係なく、より広く使ってもらえるようになることが日本の競争力を上げることにつながると信じて施策を打っている」

 エリアのカバレッジを広げていくという観点からは、昨年7月、ダイワボウ情報システム(DIS)とパートナー契約を結んだ。国内ディストリビューターとの契約は初めて。「全国に1万9000社の販売店網を抱えるDISの販路は、AWS単独ではどんなに頑張っても獲得できない規模。物販の延長ということではなく、我々に共感してくれる販売店の方々も含めて、一緒にクラウドビジネスにシフトしてマーケットを全国で広げていくという覚悟を持って協業している」と渡邉執行役員は力を込める。

 また、クラウドのポテンシャルをユーザー企業のビジネス変革により効果的に生かすという観点では、コンサルティングパートナーのSIerとともに、ユーザーの内製化を支援する取り組みも始めた。現在、15社のパートナーがこの取り組みに賛同・参加している。「日本はITエンジニアの多くがユーザー企業ではなくITベンダーに所属している。世界的に見てもユニークな環境にあることを認識して、我々自身が手を打たないといけない」という問題意識の下に開始した施策だ。渡邉執行役員は次のように続ける。

 「SIer不要論はナンセンス。日本がうまくデジタルの力を活用できるようになるためには彼らの力が不可欠だ。内製化支援はSIerの仕事を奪っているように見えるかもしれないが、そうではなく、継続的な成長につながるSIビジネスの変革そのものだと考えている。お客様とパートナーが共通言語で会話できるようになり、請負や上下関係ではなく、フラットな関係になる。BizDevOpsのBizをお客様が担い、DevOpsをパートナーが担う形になっていかないと、クラウドのポテンシャルをビジネスに存分に生かすのに必要なスピード感を獲得できない」

 DISとのパートナーシップもユーザーの内製化支援も、ITプロダクトの販売店やSIerのビジネスモデル変革を後押しする側面があり、技術者の質と量を拡大するという意味でも重要な施策であると位置づけ、積極的な投資を継続する意向だ。
この記事の続き >>
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