“ニューノーマル”な社会を見据えたIT投資が進む中、中堅中小企業のクラウド活用が加速している。特にIaaSの市場では、情報システム基盤の選択肢としてクラウドを検討する動きが増えているという。各クラウドベンダーは、ユーザーから選ばれるためにどのようなビジネスを展開しているのか。IaaSビジネスの最前線を追った。
(取材・文/齋藤秀平)
アマゾンウェブサービスジャパン APNの全都道府県への展開は目前
アマゾンウェブサービスジャパン(AWSジャパン)は現在、同社の特設ページで「中堅中小企業こそクラウドを活用すべき」とのメッセージを発信している。理由としては「忙しい中堅中小企業のIT管理の業務効率の向上」「大企業が使っているサービスを従量課金で手軽に利用」「必要な時に必要なだけ柔軟で無駄のないIT環境」「最小限のリスクで新しいチャレンジが可能」の四つがあるとしている。
AWSジャパンが中堅中小企業の導入拡大に向けた施策を展開する中、新型コロナウイルスの感染が拡大した昨年は、同社の営業活動を上回るような勢いで活用が広がったという。
AWSジャパンの渡邉宗行・執行役員パートナーアライアンス統括本部統括本部長は「クラウド移行はコロナ禍の前から進んでいた。それがコロナ禍で一瞬ストップしたが、今は再び動き始めている」とし、「この1年で、クラウドがもつ俊敏性や伸縮性にメリットを感じるお客様がたくさんいた。さらに、物品調達のリスクがないことに加え、人工知能(AI)やマシンラーニング、IoTといった新しいことに費用を抑えながら取り組める便利さにも気づいていただけている」と語る。
AWSジャパンは、既存システムのクラウド移行をどのように進めているのか。渡邉統括本部長は「お客様のクラウド移行は、パートナーと一緒に進めていくことを大きな戦略にしている」とし、パートナー向けの施策では、移行ツールの作成やマーケティングを支援したり、定期的なトレーニングを実施したりしていると説明する。
AWSのパートナープログラム「AWSパートナーネットワーク」(APN)は順調に拡大し、今は岩手県を除く各都道府県に展開している。AWSジャパンによると、各地にユーザーの相談相手となるパートナーがいることは、AWSがユーザーから選ばれる要因の一つになっているという。また、2010年からスタートしているユーザー会「JAWS-UG」を通じて成功体験を共有していることも、導入の拡大につながっているようだ。
とはいえ、APNだけでは、全国津々浦々にサービスを届けるのは難しい。そこで昨年、新しい試みとして、ダイワボウ情報システムと国内初のディストリビューター契約を結び、販路の強化を実現した。
今後の市場の見通しについて、渡邉統括本部長は「業務アプリケーションのオンクラウドの流れはどんどん進んでおり、システム更改のタイミングでクラウドを検討する中堅中小企業は増える一方だとみている」と予想し、パートナーネットワークの強化やエンジニアの育成を引き続き進める考えだ。
一方で「地域のビジネスは、地域に根付いたパートナーが担っており、そのビジネスを壊してはいけないと思っている」とし、「現状の各地域のビジネスとクラウドのビジネスを融合しながら、いい方向に進めることをパートナーと一緒に目指していく」と話す。
5年ごとの費用と業務上の負担を解消
AWSの活用がユーザー企業の課題解決に役立った事例も増えているという。鋼板の切断・加工や販売を手掛ける髙砂金属工業(大阪府高石市)は13年9月から18年5月までの間で、所有していた10台の物理サーバーをAWSに移行した。
1人でシステムの管理を担当していた同社の楠瀬博之・総務経理部業務課課長は「サーバーは5年ごとのリプレースが必ずあり、ソフトやハードの更新費用が発生する。保守費用も含めると、5年間で約1000万円の費用が必要だった」とし、サーバーの稼働状況を気にしながら業務に当たることも大きな負担になっていたと振り返る。
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