Special Feature
大手ベンダーに尋ねる いまさら聞けない「DX」「デザイン思考」
2021/02/04 09:00
週刊BCN 2021年02月01日vol.1860掲載

IT業界でのみならず、ビジネスシーン全般でも毎日のように見聞きする用語となった「デジタルトランスフォーメーション(DX)」。また、DXの実現のために必要な考え方としてしばしば登場する「デザイン思考」。頻出語彙ではあるものの、具体的な意味をつかみにくいこれらのキーワードを、大手ベンダーはどのようにとらえているのか。各社による解釈や取り組みの実例を紹介する。
(取材・文/齋藤秀平)
デジタルトランスフォーメーション
データと技術を活用して競争上の優位性を確立する
そもそも、デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉は、いつごろから使われるようになったのか。
総務省がまとめた2018年版の情報通信白書によると、DXは、04年にウメオ大学(スウェーデン)のエリック・ストルターマン教授が提唱した概念と説明されている。具体的には「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させる」ことだと解釈され、将来の方向性について「(DXによる)変化は段階を経て社会に浸透し、大きな影響を及ぼすこととなる」と予想されていた。
また、経済産業省は同年12月、DX推進ガイドラインを策定し、DXについて「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義。企業に対し「デジタル技術を活用してビジネスをどのように変革するかについての経営戦略や経営者による強いコミットメント、それを実行する上でのマインドセットの変革を含めた企業組織内の仕組みや体制の構築等が不可欠」と求めた。
DXはビジネスを変える手段
富士通Digital Software & Solutions Business Group事業統括推進部の林惠美子・統括部長は、DXに対する同社の捉え方について「新進のデジタルテクノロジーやデータを駆使し、革新的なサービスや具体的なビジネスプロセスの変革をもたらすもの」と説明する。一方で「DXとよく言うが『ビジネストランスフォーメーション・バイ・デジタルテクノロジー』が本質的なところ。ICTばかりに目をいかせないで、その後ろにあるビジネスを変えることが重要だ」と話す。
その上で「われわれはこれまで、ビジネストランスフォーメーションという発想で事業を展開してきたため、DXという言葉はあまり新しくない」と語る。ただ「巷で『デジタル』と強く言われるようになったことで、ビジネスを変えるために、ICTやデータにどれだけの強みがあるのかということを説明しやすくなった」と感じている。
同社は現在、IT企業からDX企業になることを目指しており、DXは「ファーストプライオリティ」(林統括部長)に位置づけている。DXを推進するために、自社の変革にも取り組み、20年10月には、デジタル時代の競争力強化を目的として、全社DXプロジェクト「Fujitsu Transformation(フジトラ)」を本格始動させた。
プロジェクトでは、経営陣が全体のリーダーシップをとるほか、国内15部門と海外5リージョンから責任者に当たる「DX Officer」をそれぞれ選出し、DX Officerが中心となって部門横断での改革の推進や全社施策の各部門・リージョンへの浸透などを進めている。プロジェクトには1000億円超の投資をする計画だ。
林統括部長は「マネジメント自体を変えることがメインなので、ICTは当然入れていくが、制度や人事、オフィスなどを変えることもフジトラに含めている」と説明。社員の間では、DX企業を目指すことについて戸惑いもあったというが、各部門などにDX Officerを配置したことで「ただのトップダウンのやり方ではないため、社員の意識も少しずつ変わってきている」と語る。
外に出て、価値に近づく
富士通のDX絡みの取り組みは、社外にも広がっている。20年11月には、新型コロナウイルス感染症治療薬の開発を目的に、ペプチドリームとみずほフィナンシャルグループの連結子会社みずほキャピタル、竹中工務店、キシダ化学とともに、合弁会社ペプチエイドを設立することで合意したと発表した。
新会社の設立に当たり、富士通の長堀泉・執行役員常務は「デジタルアニーラやHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)など富士通独自のコンピューティング技術を用いて医薬品候補化合物の探索を加速することによって、新型コロナウイルス感染症に対する治療薬候補化合物創出に貢献するとともに、この取り組みを通じてニューノーマルの時代における新薬創出プロセスそのものを革新するDX基盤を確立していきたい」とのコメントを出した。
林統括部長は、合弁会社の設立に参画した狙いについて「ただITを提供するだけでなく、外に出ることで最終的な価値に近づくことができる。この価値の部分に早く貢献することで、新たなビジネスに変えていくことができると考えている」と説明する。
新会社のビジネスは
「ほぼ計画通り」
同社は、顧客企業のDXを実現することを目的に、新会社「Ridgelinez(リッジラインズ)を設立し、20年4月から事業を開始した。富士通のDXビジネスのけん引役となり、全体の業績拡大に寄与していくことが期待されている。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、商談活動が計画的にできなかったという影響はあるものの、林統括部長は「苦戦はしながらも、ほぼ計画通りに立ち上がってきた」と話す。
具体的なビジネスの内容について、林統括部長は「レガシーシステム系のビジネスというよりは、データドリブンやエンタープライズアーキテクチャの最適化といった部分に取り組めている」とし、事業開始時に300人の人員を3年をめどに倍増させる計画については、外部からの人材を含めて着実に増員を進めているとした。
社内外向けにDX関連の取り組みにも注力している富士通。日本企業がDXを推進するために必要なことについて、林統括部長は「トップダウンでも、ボトムアップでもなく、日本企業が強みとする中間層が中心となるミドルアップダウンで取り組むことで、日本企業のDXはきっと前に進むのではないか」と期待する。
変化に追いつくためにDXが必要
DXは、IT業界にとっては大きなキーワードだ。NECも「社会も人の価値観も、かつて経験したことのないスピードで変化しており、未来を見据え、新たな社会価値を創造するDXが求められている」と認識している。
同社は、前述した経産省の定義の通りにDXを捉えている。それに加え、同社ビジネスオファリング本部の押山知子・主任は「ITが社会の隅々まで浸透し、生活者が違和感なくITを活用できる状態となり、いろいろなサービスの連携を通じながら生活が豊かになることもDXだと考えている」と話す。
同社がDXについて強いメッセージを打ち出したのは19年ごろから。押山主任は「業界や企業を超えたビジネスやサービスが市場で要求されているほか、顧客側ではITが会社経営に直接大きな影響力を発揮し、経営課題がデジタルの課題になっている。さらに、クラウドなどのテクノロジーが加速度的に進化している」と昨今のIT業界を取り巻く環境の変化を示し、「従来型のビジネスでは変化のスピードに追いつけないため、アプローチを大きく変えていくためにDXが必要になっている」と説明する。
DXオファリングで
デジタルシフトを支援
同社は、DXによる顧客価値創出には「ビジネスプロセス」「テクノロジー」「人・組織」の三つが重要だと位置づけている。押山主任は「DXを実現するためには大きな変革が必要で、ハードルが高いと思われるが、着実に一つずつデジタルシフトすることで、全体としてのDXが実現できる」と解説する。
ビジネスプロセスに関する取り組みについては「顧客の要求を待っているだけではなく、将来の姿や、そこに向けてITをどう活用していくかということをまとめたロードマップを顧客とともに策定し、継続的にロードマップをアップデートしながらDXの実現を目指すようにしている」と話す。
製品やサービスについては、ソフトやハード、サービスだけでなく、業種別のノウハウや保守運用、研究所の技術など、同社がこれまでに培ってきたものを集約し、パッケージ化した「DXオファリング」として提供。押山主任は「DXオファリングを提供することで、DXの目的や課題をしっかりと捉え、スピードと品質を保った状態で顧客のデジタルシフトを支援できる」と胸を張る。現在、イノベーションの創出や顧客接点改革、業務変革などの目的ごとに約30のDXオファリングが準備できており、今後も順次拡大させていくという。
テクノロジーに関しては、生体認証・映像やデータ、クラウド、ネットワーク、セキュリティといった強みを集約した「グローバル共通デジタルプラットフォーム」を整備した。
人・組織では、リーダーシップをもってビジネス変革できる人材を育成するため、人材育成プログラムを社内で実施。外部からの採用も進めており、押山主任は「DX人材はかなり集まってきている」と述べる。
顧客のビジネスを拡大する
フェーズに
同社は、ビジネスプロセス、テクノロジー、人・組織について、体系化・整備、加速、ビジネス拡大の三段階に分けて取り組みを進めてきた。当初は社員の意識はそれほど高くなかったが、徐々に変化がみられるようになってきているという。
押山主任は「当社の社員にはそれぞれの案件があるので、最初はDXに対して関心が薄い部分もあったが、だんだん顧客の課題を解決するような提案をしていこうという雰囲気になっている」と話す。
その上で「NECが今までできなかったDXができつつある」とし、「準備はできてきているので、これからは顧客のビジネスを拡大するフェーズに入っていく。社会がよりよくなるような仕組みをつくることを目指していきたい」と意気込む。

IT業界でのみならず、ビジネスシーン全般でも毎日のように見聞きする用語となった「デジタルトランスフォーメーション(DX)」。また、DXの実現のために必要な考え方としてしばしば登場する「デザイン思考」。頻出語彙ではあるものの、具体的な意味をつかみにくいこれらのキーワードを、大手ベンダーはどのようにとらえているのか。各社による解釈や取り組みの実例を紹介する。
(取材・文/齋藤秀平)
デジタルトランスフォーメーション
データと技術を活用して競争上の優位性を確立する
そもそも、デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉は、いつごろから使われるようになったのか。
総務省がまとめた2018年版の情報通信白書によると、DXは、04年にウメオ大学(スウェーデン)のエリック・ストルターマン教授が提唱した概念と説明されている。具体的には「ICTの浸透が人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させる」ことだと解釈され、将来の方向性について「(DXによる)変化は段階を経て社会に浸透し、大きな影響を及ぼすこととなる」と予想されていた。
また、経済産業省は同年12月、DX推進ガイドラインを策定し、DXについて「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義。企業に対し「デジタル技術を活用してビジネスをどのように変革するかについての経営戦略や経営者による強いコミットメント、それを実行する上でのマインドセットの変革を含めた企業組織内の仕組みや体制の構築等が不可欠」と求めた。
DXはビジネスを変える手段
富士通Digital Software & Solutions Business Group事業統括推進部の林惠美子・統括部長は、DXに対する同社の捉え方について「新進のデジタルテクノロジーやデータを駆使し、革新的なサービスや具体的なビジネスプロセスの変革をもたらすもの」と説明する。一方で「DXとよく言うが『ビジネストランスフォーメーション・バイ・デジタルテクノロジー』が本質的なところ。ICTばかりに目をいかせないで、その後ろにあるビジネスを変えることが重要だ」と話す。
続きは「週刊BCN+会員」のみ
ご覧になれます。
(登録無料:所要時間1分程度)
新規会員登録はこちら(登録無料) ログイン会員特典
- 注目のキーパーソンへのインタビューや市場を深掘りした解説・特集など毎週更新される会員限定記事が読み放題!
- メールマガジンを毎日配信(土日祝をのぞく)
- イベント・セミナー情報の告知が可能(登録および更新)
SIerをはじめ、ITベンダーが読者の多くを占める「週刊BCN+」が集客をサポートします。 - 企業向けIT製品の導入事例情報の詳細PDFデータを何件でもダウンロードし放題!…etc…
