アカマイ・テクノロジーズ
CDNがAPIとエンタープライズを守る
1998年設立で、CDN事業者としては老舗の米アカマイ・テクノロジーズ(Akamai)は、世界の約4000地点からコンテンツを配信できるインフラを備えており、国内では大手企業を中心に約650社が同社のサービスを採用している。コンテンツ配信に加え、Webアプリケーションの高速化、セキュリティといったサービスを提供しているが、この中で最も顕著な伸びを示しているのがセキュリティだという。
同社のセキュリティ機能は、システムへの侵入など一般的なサイバー攻撃への守りを高めるだけでなく、ビジネスそのものを保護するという発想でサービスを拡充している。例えば、人気の興行チケットや限定商品の販売サイトには、プログラムで自動的に購買操作を行う“ボット”が押し寄せ、その商品を求めている本来の顧客に十分なサービスを提供できないことがある。アカマイでは世界の膨大なトラフィックから得られる知見を活用し、システムへの攻撃に加え、ビジネスへの攻撃にも対応できるソリューションを用意しているという。
近年は多くのWebアプリケーションが、パートナーやサードパーティーのサービスとの連携を可能にするため、外部にAPIを公開している。アカマイ日本法人(山野修社長)の中西一博プロダクト・マーケティング・マネージャーは「今やWebトラフィック全体の83%が、WebブラウザではなくAPI経由によるアクセスという統計がある。APIを集中的に狙う攻撃も増えているが、APIが適切に管理され、セキュアな状態に保たれているか、といった課題に気付いていない企業も多い」と話し、人がWebブラウザを操作してアクセスする“正面玄関”だけでなく、APIアクセスのパフォーマンスとセキュリティに目を配ることが重要だと指摘する。先に述べた、ボットによる意図しないリクエストからの保護も、API保護の一種と言える。
同社では、API利用者の認証やポリシー適用などが可能なAPIゲートウェイサービスを提供しており、これとセキュリティ機能を組み合わせることで、開発工数を最小限に抑えながらAPIを管理・保護できるようにしている。中西マネージャーは「適切にAPIを設計・実装できる開発者はまだまだ少ないが、APIゲートウェイを導入することでセキュリティを高め、企業内のさまざまなサービスのポリシーを統一することができるし、API管理をオリジンサーバーからCDNにオフロードすることで、Webアプリケーションの拡張性と安全性を高められる」と説明する。
また、同社は近年Webセキュリティに加えて、企業の業務システムを保護するエンタープライズセキュリティの分野にも進出している。
業務システムのクラウド化が進むと同時に、モバイルデバイスの活用やリモートワークの導入も広がっていることから、セキュリティ市場では「ゼロトラスト」の考え方が提唱されている。アクセス先を問わず、全てのユーザーとデバイスについて認証・認可を必要とするという考え方だ。アカマイでは、さまざまな業務システムへの認証を統合するソリューション「Enterprise Application Access(EAA)」と、Webフィルタリングなどのポリシー制御を行う「Enterprise Threat Protector」を、クラウドベースのサービスとして提供することで、ゼロトラストを実現可能としている。VPN機器等への追加投資を行わずともセキュアなリモートアクセスが可能となるため、2月末からは新型コロナウイルス禍でのテレワーク支援策として、EAAの90日間無償提供を実施している。
ライムライト・ネットワークス
CDN上でのコード実行機能を拡充
米国に本社を置くCDN大手のライムライト・ネットワークスは、グローバルに張り巡らせた大規模なプライベートネットワークと、それを活用した「集中型」のアーキテクチャーを大きなセールスポイントにしている。
世界中の主要インターネットサービスプロバイダーやその近くに大量のキャッシュサーバーを設置する「分散型」アーキテクチャーのCDNでは、キャッシュサーバーの位置がエンドユーザーに近いというメリットがある一方、一つ一つのキャッシュサーバーの容量は小さくならざるを得ず、目的のコンテンツがキャッシュされていない「キャッシュミス」や、キャッシュサーバーごとにサービスの品質や機能に差が生じるといったデメリットがある。
これに対してライムライトでは、集中管理された大容量のキャッシュサーバーを用いる「集中型」のアーキテクチャを採用。インターネットの混雑を避けるためのプライベートネットワークの構築に大きな投資を行っており、世界で自社運用するプライベートネットワークの配信容量は70Tbpsを超えるという。
分散型に比べて大容量かつ高性能なキャッシュサーバーを用いることができ、高精細動画のような大型のコンテンツも長い期間キャッシュとして保持し続けられるため、キャッシュヒット率を高められる。エンドユーザーに快適な体験を提供できるのに加え、オリジンサーバーへ元のコンテンツを取得しにいく回数を減らせるので、ネットワークのコストも抑えられるという。
ライムライト・ネットワークス・ジャパンの田所隆幸代表は「今年日本市場では5Gのサービスが始まったことから、大容量コンテンツの中でもとりわけライブ動画のニーズが高まる」と想定する。また、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、多くの企業がイベントの開催をオンラインに切り替えたことからもライブ配信の需要が増大しているという。
田所隆幸 代表
また、各社と同じく、WAFやDDoS対策といったセキュリティ機能の需要が伸びているが、「プライベートネットワークは外部からの攻撃を受ける可能性が低い。このため、パブリックネットワークのインターネットで配信拠点を結ぶ事業者に比べて、高いセキュリティレベルが期待できる」(田所代表)と話す。
さらに同社は4月、CDNのインフラ上でプログラムコードを実行する機能「EdgeFunctions」を発表した。これはコンテンツ配信を最適化するためのサーバーレスコンピューティング基盤で、コンテンツのパーソナライズや動画広告の挿入、A/Bテストなどの処理をCDN上で行うことができる。これらの処理をオリジンサーバーではなくCDN上のサーバーレスプラットフォームで行うことで、コードを実行するための環境を構築する煩雑さや、コードの実行自体がコンテンツ配信のパフォーマンスに影響を与えるリスクを排除できるという。田所代表は「CDNは『エッジ』としての位置づけがさらに強化されていく。パブリッククラウドとエッジのそれぞれにどんなワークロードが適しているのか、棲み分けが進んでいくだろう」との見通しを示した。
ファストリー
最新アーキテクチャーで即時性と柔軟性を確保
2011年創業の米ファストリー(Fastly)は、CDN市場では後発のベンダーだが、DevOpsとの親和性を追求した、リアルタイム性と開発の柔軟性の高いCDNとして注目を集めている。
井上大亮 セールスエグゼクティブ
オリジンサーバーのコンテンツを更新した際に、150ミリ秒でキャッシュを削除できる「インスタントパージ」や、アクセスログをリアルタイムで収集し、Webアプリケーションの利用状況を常に分析・把握できる「ログストリーミング」などが、同社サービスの代表的な機能として知られる。日本法人(ダグラス・チュクロ社長)の井上大亮・セールスエグゼクティブは、「CDNはサーバーが世界中に散らばっているという特性上、設定の変更などに時間がかかりがちだった。当社ではインターネットエクスチェンジなどにサーバーを配置することで、キャッシュヒット率を高めている」「ブロッキングやルーティング、ヘッダー情報の更新といったさまざまな処理をユーザーの自由に設定できる。導入ユーザーからはカスタマイズのしやすさで評価していただいていて、柔軟性という側面では他社よりも優れていると考えている」と、CDN市場で独自の優位性を発揮できている点を説明する。
今後の販売方針としては、まずはビデオ配信やデジタルパブリッシングといったCDNのメインユーザー層を中心に拡販していく考えだ。すでに国内ではソフトバンクや富士通クラウドテクノロジーズと販売パートナー契約を取り交わしている。高木淑美・パートナーシップ&チャネルディレクターは「当社のお客様は、自社で高い開発能力を持っていることも多い。そこで、パートナーの方々にはわれわれのCDNを自身のネットワークやサービスに組み込んでいただくなど、サービスを再販するだけでない深いお付き合いをしている」と話し、APIで柔軟な制御が可能なCDNとして、パートナー側のソリューションとの連携による付加価値創出を図っていく考え。
高木淑美 ディレクター
また、AWS、グーグル・クラウドとのパートナーシップを結んでいるほか、昨年にはマイクロソフトとAzureでの戦略的連携を発表するなど、大手パブリッククラウドとの連携を強めている。高木ディレクターは「パブリッククラウドは競争相手ではなく、われわれとしては協力できるパートナーとして考えている。各社とシームレスに連携することで、ユーザーはクラウドとCDNを用途ごとに使い分けていただける。直近では大手クラウドの認定資格を持つパートナーとの連携が始まっており、案件を共同で開拓する事例も出ている」と述べ、パブリッククラウドのエコシステムとつながりを強めることで、CDNの提案機会がさらに増えるとの見方を示している。
Jストリーム
米インパーバのクラウドWAFにニーズ
1997年設立で、国内の動画配信プラットフォームとしては草分けのJストリーム(石松俊雄社長)は、自社運営のCDN「CDNext」を始め、コンテンツ配信に必要なさまざまなサービスを提供している。国内に完結したCDNで、放送局や新聞社などのメディア企業、国内大手メーカー、金融機関などを主な顧客層としている。
プラットフォーム本部副本部長兼プロダクト推進部長の浅野大介氏は、「コンテンツを配信するという機能そのものは“枯れた”機能になり、コストは下がっている。今ではCDNに特別で高価なサービスというイメージはまったくなく、地方自治体や中小企業による導入も進んでいる」と説明。逆に言えば、単純なコンテンツ配信機能だけでは差別化が難しくなっており、セキュリティに代表される付加価値機能の部分が競争の中心になっていると指摘する。
大手企業では、可用性の確保や、過負荷への対応のため、複数のCDNを束ねて同時に使用する「マルチCDN」の構成がとられることが徐々に一般化しているという。マルチCDNはライブ動画などのマルチメディアコンテンツ配信で用いられることが多いが、それだけでなく、ソフトウェアの新バージョンや更新パッチのリリース時など、一時的にトラフィックが集中することが明らかな場合に、臨時で使用するCDNを増やし、キャパシティの確保や地理的な分散を図り、トラブルの発生を防ぐと行った使い方もある。
同社では自社CDNの提供と並行して、米インパーバのクラウド型WAFを搭載した高セキュリティCDNサービス「Incapsula(インカプスーラ)」の販売も行っている。自社のCDNextにも基本的なセキュリティ機能は用意されているが、Webアプリケーションで個人情報を取り扱うなど、特に高い安全性を求める顧客に対しては、セキュリティ専門ベンダーであるインパーバのサービスを提案している。
クラウド型WAFはさまざまな事業者によってサービスが提供されているが、中でもIncapsulaは高い検知精度を誇り、WAF・DDoS対策・CDNの機能が一体となっていることから、金融やEコマースなどで多くの導入実績があるという。「多くのパブリッククラウドにWAF機能は用意されているが、攻撃をブロックするためのルールをユーザーが自分で選択して運用する必要があったり、使用できるルールが制限されていたりして、一般企業のニーズにうまく合致しないことが多い」と浅野副本部長は説明する。
Incapsulaはさまざまなベンダーが販売を行っているが、同社では自社でCDNを提供してきたノウハウや、マルチCDN構築のスキルを生かし、ユーザー企業でのスムーズなCDN導入を支援できることを強みとしている。また、近年は災害発生時の情報インフラとしてWebの重要性がますます高まっていることから、地方自治体からの「非常時にもダウンしないサイトを構築したい」というニーズが増えており、地場のSIerなどをパートナーとした公共向けの販売も多くなっているという。