2018年に訪日外国人が3000万人を突破した。政府は東京五輪・パラリンピックが開催される20年に4000万人を目標に掲げている。一方、実際に訪日客を迎える店舗・施設などの現場では多言語対応などが課題に。適切な対応ができなければ販売機会の損失にもつながってしまう。そうした課題の解決に向けて、ITを活用する動きが現れてきた。インバウンド対応を支援するIT企業の取り組みを追う。
(取材・文/前田幸慧 )
訪日客は3000万人を突破、2020年はついに東京五輪開催
政府は観光を成長戦略の柱と位置付けており、16年3月に策定した「明日の日本を支える観光ビジョン」では、訪日外国人旅行者数について20年に4000万人、30年に6000万人を目標に掲げている。
実際に日本を訪れる外国人客数は近年増加傾向にある。日本政府観光局(JNTO)によると、18年は前年比8.7%増の3119万人が来日し、初めて3000万人の大台を突破。13年の1036万人と比較すると、5年間で3倍以上に伸びている。
国別にみると、トップは中国の838万人。次いで韓国の753万人、台湾の475万人と続き、アジア全体では2675万人と、訪日外国人客総数の4分の3近くをアジア勢が占める。
ただし、19年は日韓関係の悪化が影響し、韓国人観光客が激減。JNTOの推計によると、10月の訪日客数は19万7300人で、前年同月比65.5%減となっている。訪日外国人全体でみても前年同月比5.5%減の249万人で、ラグビーワールドカップ(W杯)開催による旅行者増がありながらも、8月以来2カ月ぶりに前年を下回った。なお、1月から10月までの累計は前年比3.1%増の2691万人で、残りの2カ月もこのままのペースでいくと、19年も3000万人を超える見込みだ。
そして、20年は東京五輪開催の年。これまで以上に多くの外国人が日本を訪れると予測される。それによるインバウンド需要の伸びも期待され、観光を成長戦略に位置付ける政府としてはまさに正念場を迎えることになる。
訪日客が楽しめるための環境整備が必要に
一方で、20年以降も継続的に訪日客数を伸ばしていくためには、外国人客に旅行を楽しんでもらい、何度も日本に足を運んでもらうリピート客になってもらうことが重要だ。政府は今年、「観光ビジョン実現プログラム2019」を策定。今後1年をめどとした行動計画として、「外国人が楽しめる環境整備」「外国人が喜ぶ観光コンテンツの充実」「日本政府観光局と地域(自治体・観光地域づくり法人)の適切な役割分担と連携強化」などを挙げる。その一環として、Wi-Fiやキャッシュレス対応、多言語対応などの環境整備が進められている。
この環境整備に関しては、徐々に改善の方向に向かっている。観光庁が発表した平成30年度「訪日外国人旅行者の受入環境整備に関するアンケート」結果(図参照)によると、ここ3年で訪日外国人が旅行中に困った項目の数値はおおむね低下している。
ただ、困ったことの第1位として依然挙げられるのが、「施設等のスタッフとのコミュニケーションがとれない」(20.6%)こと。これは外国人が困るというだけでなく、迎える側の日本の店舗にとっても、適切な対応ができないことで販売機会の損失につながる。早急に手を打つべきことでもある。
観光庁によると、18年の訪日外国人の旅行での消費額は4兆5189億円。インバウンド需要の獲得には、インバウンドマーケティングの戦略として、訪日外国人旅行客の「旅マエ(訪日前)」「旅ナカ(訪日中)」「旅アト(帰国後)」のそれぞれに対して、いかにアプローチしていくかが重要とされる。
そうした課題やインバウンド対策に目を付けたIT企業によって、近年は多言語での接客対応やインバウンド戦略を支援するITソリューションが提供されている。
以下、ITベンダーの取り組みを紹介する。
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