人材データ分析で長く、よく働く社員を確保
採用時に懸念されることの一つが採用のミスマッチ。自社に合うと思って採用した人が思ったように活躍できず、退職につながってしまうといったことは避けたい。
そうした背景から、HRテック界隈では企業内の人材にかかわるデータを収集・分析して採用や配置に役立てる「ピープルアナリティクス」もトレンドになっている。特に国内の労働人口が減少傾向にある中では、採用した社員に長期にわたり高いパフォーマンスを発揮してもらうことは重要だ。
ピープルアナリティクスサービスを冠するサービス「TRANS.HR」を提供するトランスの塚本鋭社長は、「データを統合して分析することで本当に入社後に活躍する人や定着する人材というのを見極める」と話す。
同社のTRANS.HRは、採用応募者の入社後の活躍や早期退職を予測し、採用や配置などの人事施策に生かすことができるサービスだ。既存従業員のパフォーマンスの高さを分類し、適性検査の診断結果や面接結果などの採用データを基にして予測モデルを作成する。
その上で、応募者の採用データを予測モデルを使って分析することで、応募者の入社後のパフォーマンスや早期退職の確率を判定する。これによって長期間活躍し続ける人材の獲得をサポートする。さらに、部署や職種が変わったときの活躍を予測することもでき、入社後の従業員の異動や配置を考える際に活用することも可能だ。
塚本社長によると、「自社と考え方がマッチする人を採用したいと考える企業からの引き合いがある」という。
社員の持つスキルや経験などについて情報が蓄積、可視化されるようになると、それを基に戦略的な人材配置や育成を行う「タレントマネジメント」につなげることもできるようになる。
戦略的な人材配置・育成を支えるタレントマネジメントシステム
前述したタレントアンドアセスメントのAI面接サービスやトランスのピープルアナリティクスサービスも、社員の性格や適性情報を把握できるようになるため、ツールをタレントマネジメントに利用する企業もある。
一方で、タレントマネジメントに特化したサービスも市場に多く存在している。
カオナビは、顔写真を並べて管理する人材管理ツールの「カオナビ」を提供。19年6月の時点で1400社の導入実績があるサービスだ。
機能としては、社員を検索・ピックアップできる機能や、社員の情報を集計してグラフを作成する機能、そのほか組織図の表示や、社員アンケート、評価フォームの設計・運用ができる機能などをそろえる。こうしたシステムが持つ機能を活用して、優秀な人材の配置・抜擢などに活用することができる。カオナビの佐藤寛之副社長は次のように説明する。
カオナビの佐藤寛之副社長
「前提として、社員の能力などがオープン化されている必要があるが、誰がどんな適性で、どんなスキルや経験を持っているかといったことが一元管理されている。それを配置・育成に使っていきたいとなったときに、(システムが)タコツボ化していたら人事や上司しか知らないということになる。オープン化されているので、人事と現場が情報を共有しながら、どこにどういうスキルを持った人がかたまっているとか、どこに年齢層高い人がかたまっているとかがオープン化される。全体の育成を鑑みながらジョブローテーションの全社最適化していくことができる」
ツール活用のノウハウを集めユーザーの共有知を確立
ただ、人材情報が可視化されている状態であったとしても、ツールを活用するノウハウがなければタレントマネジメントに生かすことは難しい。企業、業種・業態によってデータの活用方法も異なる。
そうした点について、カオナビでは活用ノウハウを共有できるユーザー会を開き、ユーザー同士の情報交換の場を設けている。「使いこなすためには企業ごとに管理するデータの使い方も変わってくる。どう使えばいいかということはノウハウが必要になるが、そのノウハウは1400社のユーザーの共有知から生まれている」と話す。
なお、カオナビでは離職の予兆を検知する新機能「パルスサーベイ」の提供を10月に開始する予定。アンケートを繰り返し実施することで、社員の心理状態や組織の健全性を定点観測することを支援する。また、これまでは直接販売で提供してきたが、現在、代理店経由での販売も「検討中」だという。全国展開に力を入れる方針だ。「タレントマネジメントをして会社自体のエンゲージメントを高めることが採用力の強化につながる」と佐藤副社長は話す。
「採用×AI」活用企業が増加
応募者は合否関連のAI活用に抵抗感も
就活サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、サイトの閲覧情報を基にAIで分析して算出した「内定辞退率」の予測データを、就活生の十分な同意を得ずに企業に販売していたことに批判が集まった。「リクナビDMPフォロー」という名称で2018年3月に始まったサービスで、今年7月末をもって提供を中止。同社は8月に個人情報保護委員会から是正勧告を受け、9月には厚生労働省が行政指導を行うに至った。
この問題の核にあるのは、個人情報を許可なく外部に提供した同社のずさんな情報の取り扱いや内部の管理体制だ。しかし同時に採用活動、とりわけ合否にかかわる部分にAIが使われることに対する就活生の抵抗感も浮き彫りになったといえる。
AIによる選考は、勘や経験、感情に左右されやすい人間による選考と比較して客観的かつ公正に評価することが可能。業務の効率化にもなることから選考にAIを取り入れる企業は増加傾向にあるが、採用の応募者はどうみているのか。
転職サイトのワークポートが今年3月に転職希望者300人を対象にアンケート調査を実施した。
それによると、全体の81.3%がAIによる選考を受けたことがないと回答。企業がAIを用いていることを公表していない場合もあるが、受けたことがあると回答したのは2.3%で、AIによる選考を受けたことのある人はまだ少ない。
「採用活動にAIを導入する際どの段階までが適切だと思うか」という問いに対し、一番多かったのが「書類選考まで」。56.0%が回答した。評価の公平性や業務の効率化を挙げる意見がある一方で、「実際に会って判断するべき」など、面接以降はAIではなく人間が行うべきという意見も見られた。また、AI自体に抵抗感を示す人も一定数存在し、「採用する人材の多様性の欠如」と「AIへの信頼度不足」などを懸念する意見も出た。
また、今後採用活動へのAI活用が増えると予想される中で、「AIを導入していることでその企業への志望度は変化するか」という問いに対しては、64.0%が「変わらない」と回答。多くの人にとって企業の志望度に影響はないとされる一方、20.3%が「低くなる」と回答している。
ワークポートでは今回の調査結果から、AIの信頼度が不足していると指摘。「採用活動にAIを導入する場合は、企業側だけでなく判断される転職希望者側のメリットも打ち出しながら不安を取り除き、信頼度を上げることが求められるのでは」と分析している。採用活動にAIを活用することについてより多くの就職・転職希望者の理解を得るには、AIの信頼性の向上が重要になりそうだ。