Special Feature
デジタルトランスフォーメーションに日本の老舗企業も生き残りをかける!?
2018/06/13 09:00
週刊BCN 2018年06月04日vol.1729掲載
信頼できるパートナーを日本企業は必要としている
日本マイクロソフト
丸谷 淳
デジタルアドバイザリ
サービス本部
本部長
日本マイクロソフトは、前述の調査結果をもとに、「日本の企業は、DXの実行において、スキルとリソースが不足していること、DXのプロセスをどうやって牽引するかといった知識が不足していること、適切なITパートナーが選択できていないことが課題になっている」(日本マイクロソフトの丸谷淳・デジタルアドバイザリサービス本部本部長)ことを把握したうえで、「DXが、現場でどのような効果を発揮しているのかがわからないことや、データそのものを活用できる自信がないこと、DXへの期待は大きいものの、まだ具体的な絵が描けていないということも、日本の企業が抱える課題である」と分析している。
こうした日本の企業が抱える課題の根幹にあるのは、DXを推進するうえで、信頼できるパートナーが不在であるという点に尽きるといえそうだ。丸谷本部長は、「DXの実行をしっかりとサポートしてくれるパートナーをみつけることができれば、これらの課題は解決できるだろう」とする。
もともと日本の企業は、欧米やアジアの企業に比べて、SIerなどにシステム構築や運用、保守を丸投げする傾向が強い。DXの実行力に欠けたり、予算措置が遅れたりしているのは、ユーザー企業がDXの実行や、その成果に自信がないことの裏返しともいえる。つまり、この課題を埋めたり、解決したりできるパートナーがいれば、状況は大きく変わることになる。SIerにとっては、ここに大きなビジネスチャンスがある。
SIerがユーザー企業にとってDXの最適なパートナーになるには、業界の動向や企業が抱える課題を熟知し、経営層や現場に新たな価値を提案する能力とともに、DXを支える最新技術にも精通している必要がある。SIerは、そのための社内体質の強化や、協力会社との連携体制を敷く必要があるだろう。
例えば、連携体制を敷く協力会社として捉えた場合、日本マイクロソフトは、DXにおいてSIerが頼るべき1社になるといえる。同社は、約3年前から「デジタルアドバイザー」と呼ぶ人材を全世界で500人、そのうち日本では、約10人を配置している。
デジタルアドバイザーは、上流コンサルティングのスキルなど、企業のDXを支援するための専門知識をもち、グローバルリソースを活用したAI(人工知能)、MR(ミックスドリアリティ)、IoTなどの最新技術を活用したビジネス変革を提案できる人材だ。「企業のビジネスディシジョンメーカーに対して、フェイス・ツー・フェイスで提案し、信頼できるパートナーとして、変革を支援する」(丸谷本部長)のが役割だ。今後、日本におけるデジタルアドバイザーの陣容は、拡大していく計画だという。
さらに、日本マイクロソフトでは、日本の企業のDXの促進に向けて、2018年2月から、「D-Lex(デジタル・リーダーズ・エクスチェンジ)」と呼ぶコミュニティを設置。第1回目の会合では、大手企業を中心に、12人のCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)が参加し、人材不足や社内文化の改革といったDXを実行するうえでの課題を共有した。ちなみに、同社では、CIOを対象にしたコミュニティとして、Lexを設置しているが、D-LexはそのDX版といえるものだ。
日本マイクロソフトは、「デジタルマチュリティモデル」の提供も行っている。これは、企業におけるデジタルを活用したビジネス活動に関する成熟度レベルを可視化し、自らの位置を把握できるもので、マッキンゼーと共同で、グローバル共通に利用できるツールとして開発した。
マイクロソフトでは、DXにおいて同社が掲げている「お客様とつながる」「社員にパワーを」「業務を最適化」「製品を変革」という四つの要素から、71項目の設問を用意。これに回答することで、デジタル化に対する成熟度レベルを4段階で評価する。DXを実行するうえでの課題を浮き彫りにすることが可能だ。
実はここでも、日本の企業のDXの遅れが浮き彫りになっている。デジタルマチュリティモデルでは、国内の大手企業2000社を対象にアンケートを収集。これをベンチマークとして利用できるが、同調査によると、71項目の全体集計で、成熟度レベルが「遅れている」企業は44%、「適応中」が24%となり、成熟に満たない企業が7割近くを占めている。
ここでは、情報通信/インフラや小売りなどの業種を中心に、「お客様とつながる」といった点での取り組みは比較的進んでいるが、「製品を改革」することでは全般的に遅れが目立っている。また、業種別では、運輸業での取り組みが遅れていることもわかった。このように、自らのポジションを客観的に把握できるデジタルマチュリティモデルを活用することで、まずは、DXを推進するうえで最初の一歩を踏み出すことができるだろう。日本マイクロソフトは、こうした取り組みを通じて、DX推進の最適なパートナーとしての役割を担おうとしている。
SIerにとってDXは新たなビジネスチャンス
デジタル技術を活用し、ビジネスを成長させるDXは、企業の生き残りに不可欠な取り組みであることは、グローバルにおいて共通の認識になっている。そして、その流れに遅れている日本の企業は、もっと危機感をもつべきだ。
一方で、SIerにとっては、DXが新たなビジネスチャンスを生むことになるのは確か。そのためには、自らがDXを提案できる体制づくりを行うとともに、パートナーとの連携を強化することも必要だろう。ユーザー企業に対して、これまで以上に信頼できるパートナーとしての役割を担うことが求められる。
創業100周年を迎えたパナソニックが
「住空間」の実現で暮らしや人生に新たな喜び
パナソニック
アプライアンス社
本間哲朗 社長
パナソニックは、最近になって、住宅事業でも、住設事業でも、家電事業でもない、「住空間事業」という言葉を使い始めている。これが、パナソニックが取り組むDXのキーワードだ。
パナソニック アプライアンス社の本間哲朗社長は、「パナソニックのこれまでの家電事業は、壁と屋根に囲まれた『家』を『HOME』として捉えてビジネスを展開してきた。これからのパナソニックの家電事業は、コミュニティやソサエティとつながることで、暮らしや人生に新たな喜びをもたらす存在に『HOME』が進化すると捉えていく。家電と家電をつないだり、家電と社会をつないだりすることで、より幅広い範囲をHOMEに捉えた新たな製品やサービスを提供していくことになる」とする。そして、「家のなかにとどまらず、心が安らげ、大切な人と過ごすことができる場所をHOMEと定義。新たなHOMEに対する体験提案を行い、HOMEの世界に寄り添いながら、暮らしの憧れを届けることになる」と語る。これが、家電や住設、住宅を超えた「住空間」という考え方だ。
例えば、食生活という切り口からは次のことを想定する。ユーザーのコンディションや生活パターンを把握しながら、最適なレシピ提案を行い、食材の配達や保管、調理までをシームレスにサポート。時間にゆとりがない平日には、不在時でも食材の受け渡しを可能にする宅配ボックスと、自動調理を行う調理家電との組み合わせで、料理の負担を最小化する。ゆとりがある休日は、こだわり調理を提案。こだわり食材の調達や、ユーザーのスキルにあわせた調理方法を提案して、食を通じた非日常体験をサポートするという。
これらを実現するために、パナソニックはレシピを提供するサービス事業者や食品生産流通事業者、宅配/運送事業者、健康管理サービスなどのパートナーとの連携で、トータルサービスを提供することになる。
「家電一つひとつが個別の機能を提供するだけでなく、個々の家電が連携しながら、それぞれの生活シーン、空間にあわせた新たな体験を提供するのがこれからの家電。さまざまな領域のパートナーと連携して、顧客一人ひとりの生活シーンやライフステージにあわせた体験、サービスを提供することになる」(本間社長)というわけだ。
ここで重要なデジタル技術になるのが、省電力広域無線通信技術「LPWA(Low Power Wide Area)」。パナソニックはNTTドコモと協業し、LPWAを搭載した家電を年間100万台規模で販売して、インターネット回線がない家庭でも家電の電源を入れるだけで、クラウドサービスを利用できるようにする考えだ。つながるためのデジタル技術が、家電を変えることになる。
シリコンバレーの拠点でデジタルネイティブを推進
パナソニック
馬場 渉
ビジネスイノベーション本部
本部長
パナソニックでは、デジタルネイティブへの取り組みも同時に進行している。この取り組みをリードするのが、17年4月に、SAPジャパンからパナソニック入りした馬場渉本部長が率いるビジネスイノベーション本部だ。
同本部は、シリコンバレーに拠点を置き、デザインシンキングの手法などを導入するとともに、「ヨコパナ(横のパナソニック)」によるクロスバリューイノベーションを推進している。その中核となるのが「Panasonic β」であり、具体的な取り組みが「HOME X」である。
Panasonic βで目指しているのは、「イノベーションを量産化するマザー工場」だ。馬場本部長は次のように語る。
「パナソニックは、創業者の松下幸之助によって、民間企業で初めてモノづくりの量産化を支える『生産技術』に取り組み、この基礎となるシステムをつくった。さらに、モノづくりのための生産設備もつくり、量産するためのメソッド(方法論)も開発した。パナソニックは、全世界に300の工場をもつが、どの工場で、どんなものをつくっても、すばらしいクオリティと低コスト、安定した納期を実現している。これは属人性によって実現したものではなく、生産技術というメソッドが社内につくられたからである」と前置きし、「イノベーションの量産技術とは、かつての生産技術のように、メソッドをつくることで実現できると考えている。300個の工場で何をつくっても高い品質でモノづくりができるように、パナソニックのどんな事業でもイノベーションが生まれてくる。これがイノベーション技術の量産になる」とする。
そして、Panasonic βの「β」には、「不完全に対する許容」の意味が含まれるとともに、「パーフェクトを目指すのではなく、とにかくやってみたほうがいいという考え方がベースにある」とする。そして、「パナソニックの事業を破壊的に創造するものを目指している」と位置づける。
例えば、パナソニックは、住宅用照明スイッチで8割以上のシェアをもつ。「照明スイッチの未来をつくるのに最適なポジションにいるのはパナソニック。だが、仮に既存事業が縮小することを恐れて、変革に挑まないという判断を下したならば、損をするのはパナソニックではなく、顧客である。顧客は、デジタルネイティブによる新たなサービスを欲しいと考えている。そこに取り組むのがPanasonic β。他社に壊されるぐらいならば、自分で壊したほうがいい」(馬場本部長)。
まさにデジタルネイティブの発想である。
パナソニックはHOME Xの詳細を明らかにしていないが、現在、シリコンバレーに家を購入し、「The β House」と名付けた暮らしを変えるための検証活動を進めている。ここでは、人々の生活を観察し、住空間のなかでの暮らしを変革。デザインシンキングの手法を用いて、アイデアをすぐにプロトタイプ化し、フィードバックを受けて、改善するという作業を繰り返している。
これまでに、1293個のアイデアが創出され、そのうち81個のソフトウェアプロトタイプをつくり、そこから31個のハードウェアプロトタイプをつくり、三つの住空間プロトタイプとして検証を始めているという。
課題は、スピード感をもちながら、アイデアをリアルに体験できるところまで、つくったものを商品化するところまで、スピード感を維持したままつなげることができるかどうかだ。
市場への商品投入の速さがデジタルネイティブの特徴だとすれば、Panasonic βの取り組みはまだそこには至っていない。この部分において、従来のパナソニックの発想と構造を変えることが必要だ。それがパナソニックのDXの推進と、デジタルネイティブ化につながっていく。
丸谷 淳
デジタルアドバイザリ
サービス本部
本部長
こうした日本の企業が抱える課題の根幹にあるのは、DXを推進するうえで、信頼できるパートナーが不在であるという点に尽きるといえそうだ。丸谷本部長は、「DXの実行をしっかりとサポートしてくれるパートナーをみつけることができれば、これらの課題は解決できるだろう」とする。
もともと日本の企業は、欧米やアジアの企業に比べて、SIerなどにシステム構築や運用、保守を丸投げする傾向が強い。DXの実行力に欠けたり、予算措置が遅れたりしているのは、ユーザー企業がDXの実行や、その成果に自信がないことの裏返しともいえる。つまり、この課題を埋めたり、解決したりできるパートナーがいれば、状況は大きく変わることになる。SIerにとっては、ここに大きなビジネスチャンスがある。
SIerがユーザー企業にとってDXの最適なパートナーになるには、業界の動向や企業が抱える課題を熟知し、経営層や現場に新たな価値を提案する能力とともに、DXを支える最新技術にも精通している必要がある。SIerは、そのための社内体質の強化や、協力会社との連携体制を敷く必要があるだろう。
例えば、連携体制を敷く協力会社として捉えた場合、日本マイクロソフトは、DXにおいてSIerが頼るべき1社になるといえる。同社は、約3年前から「デジタルアドバイザー」と呼ぶ人材を全世界で500人、そのうち日本では、約10人を配置している。
デジタルアドバイザーは、上流コンサルティングのスキルなど、企業のDXを支援するための専門知識をもち、グローバルリソースを活用したAI(人工知能)、MR(ミックスドリアリティ)、IoTなどの最新技術を活用したビジネス変革を提案できる人材だ。「企業のビジネスディシジョンメーカーに対して、フェイス・ツー・フェイスで提案し、信頼できるパートナーとして、変革を支援する」(丸谷本部長)のが役割だ。今後、日本におけるデジタルアドバイザーの陣容は、拡大していく計画だという。
さらに、日本マイクロソフトでは、日本の企業のDXの促進に向けて、2018年2月から、「D-Lex(デジタル・リーダーズ・エクスチェンジ)」と呼ぶコミュニティを設置。第1回目の会合では、大手企業を中心に、12人のCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)が参加し、人材不足や社内文化の改革といったDXを実行するうえでの課題を共有した。ちなみに、同社では、CIOを対象にしたコミュニティとして、Lexを設置しているが、D-LexはそのDX版といえるものだ。
日本マイクロソフトは、「デジタルマチュリティモデル」の提供も行っている。これは、企業におけるデジタルを活用したビジネス活動に関する成熟度レベルを可視化し、自らの位置を把握できるもので、マッキンゼーと共同で、グローバル共通に利用できるツールとして開発した。
マイクロソフトでは、DXにおいて同社が掲げている「お客様とつながる」「社員にパワーを」「業務を最適化」「製品を変革」という四つの要素から、71項目の設問を用意。これに回答することで、デジタル化に対する成熟度レベルを4段階で評価する。DXを実行するうえでの課題を浮き彫りにすることが可能だ。
実はここでも、日本の企業のDXの遅れが浮き彫りになっている。デジタルマチュリティモデルでは、国内の大手企業2000社を対象にアンケートを収集。これをベンチマークとして利用できるが、同調査によると、71項目の全体集計で、成熟度レベルが「遅れている」企業は44%、「適応中」が24%となり、成熟に満たない企業が7割近くを占めている。
ここでは、情報通信/インフラや小売りなどの業種を中心に、「お客様とつながる」といった点での取り組みは比較的進んでいるが、「製品を改革」することでは全般的に遅れが目立っている。また、業種別では、運輸業での取り組みが遅れていることもわかった。このように、自らのポジションを客観的に把握できるデジタルマチュリティモデルを活用することで、まずは、DXを推進するうえで最初の一歩を踏み出すことができるだろう。日本マイクロソフトは、こうした取り組みを通じて、DX推進の最適なパートナーとしての役割を担おうとしている。
SIerにとってDXは新たなビジネスチャンス
デジタル技術を活用し、ビジネスを成長させるDXは、企業の生き残りに不可欠な取り組みであることは、グローバルにおいて共通の認識になっている。そして、その流れに遅れている日本の企業は、もっと危機感をもつべきだ。
一方で、SIerにとっては、DXが新たなビジネスチャンスを生むことになるのは確か。そのためには、自らがDXを提案できる体制づくりを行うとともに、パートナーとの連携を強化することも必要だろう。ユーザー企業に対して、これまで以上に信頼できるパートナーとしての役割を担うことが求められる。
創業100周年を迎えたパナソニックが
DXとデジタルネイティブの両輪で改革
「住空間」の実現で暮らしや人生に新たな喜び
アプライアンス社
本間哲朗 社長
パナソニック アプライアンス社の本間哲朗社長は、「パナソニックのこれまでの家電事業は、壁と屋根に囲まれた『家』を『HOME』として捉えてビジネスを展開してきた。これからのパナソニックの家電事業は、コミュニティやソサエティとつながることで、暮らしや人生に新たな喜びをもたらす存在に『HOME』が進化すると捉えていく。家電と家電をつないだり、家電と社会をつないだりすることで、より幅広い範囲をHOMEに捉えた新たな製品やサービスを提供していくことになる」とする。そして、「家のなかにとどまらず、心が安らげ、大切な人と過ごすことができる場所をHOMEと定義。新たなHOMEに対する体験提案を行い、HOMEの世界に寄り添いながら、暮らしの憧れを届けることになる」と語る。これが、家電や住設、住宅を超えた「住空間」という考え方だ。
例えば、食生活という切り口からは次のことを想定する。ユーザーのコンディションや生活パターンを把握しながら、最適なレシピ提案を行い、食材の配達や保管、調理までをシームレスにサポート。時間にゆとりがない平日には、不在時でも食材の受け渡しを可能にする宅配ボックスと、自動調理を行う調理家電との組み合わせで、料理の負担を最小化する。ゆとりがある休日は、こだわり調理を提案。こだわり食材の調達や、ユーザーのスキルにあわせた調理方法を提案して、食を通じた非日常体験をサポートするという。
これらを実現するために、パナソニックはレシピを提供するサービス事業者や食品生産流通事業者、宅配/運送事業者、健康管理サービスなどのパートナーとの連携で、トータルサービスを提供することになる。
「家電一つひとつが個別の機能を提供するだけでなく、個々の家電が連携しながら、それぞれの生活シーン、空間にあわせた新たな体験を提供するのがこれからの家電。さまざまな領域のパートナーと連携して、顧客一人ひとりの生活シーンやライフステージにあわせた体験、サービスを提供することになる」(本間社長)というわけだ。
ここで重要なデジタル技術になるのが、省電力広域無線通信技術「LPWA(Low Power Wide Area)」。パナソニックはNTTドコモと協業し、LPWAを搭載した家電を年間100万台規模で販売して、インターネット回線がない家庭でも家電の電源を入れるだけで、クラウドサービスを利用できるようにする考えだ。つながるためのデジタル技術が、家電を変えることになる。
シリコンバレーの拠点でデジタルネイティブを推進
馬場 渉
ビジネスイノベーション本部
本部長
同本部は、シリコンバレーに拠点を置き、デザインシンキングの手法などを導入するとともに、「ヨコパナ(横のパナソニック)」によるクロスバリューイノベーションを推進している。その中核となるのが「Panasonic β」であり、具体的な取り組みが「HOME X」である。
Panasonic βで目指しているのは、「イノベーションを量産化するマザー工場」だ。馬場本部長は次のように語る。
「パナソニックは、創業者の松下幸之助によって、民間企業で初めてモノづくりの量産化を支える『生産技術』に取り組み、この基礎となるシステムをつくった。さらに、モノづくりのための生産設備もつくり、量産するためのメソッド(方法論)も開発した。パナソニックは、全世界に300の工場をもつが、どの工場で、どんなものをつくっても、すばらしいクオリティと低コスト、安定した納期を実現している。これは属人性によって実現したものではなく、生産技術というメソッドが社内につくられたからである」と前置きし、「イノベーションの量産技術とは、かつての生産技術のように、メソッドをつくることで実現できると考えている。300個の工場で何をつくっても高い品質でモノづくりができるように、パナソニックのどんな事業でもイノベーションが生まれてくる。これがイノベーション技術の量産になる」とする。
そして、Panasonic βの「β」には、「不完全に対する許容」の意味が含まれるとともに、「パーフェクトを目指すのではなく、とにかくやってみたほうがいいという考え方がベースにある」とする。そして、「パナソニックの事業を破壊的に創造するものを目指している」と位置づける。
例えば、パナソニックは、住宅用照明スイッチで8割以上のシェアをもつ。「照明スイッチの未来をつくるのに最適なポジションにいるのはパナソニック。だが、仮に既存事業が縮小することを恐れて、変革に挑まないという判断を下したならば、損をするのはパナソニックではなく、顧客である。顧客は、デジタルネイティブによる新たなサービスを欲しいと考えている。そこに取り組むのがPanasonic β。他社に壊されるぐらいならば、自分で壊したほうがいい」(馬場本部長)。
まさにデジタルネイティブの発想である。
パナソニックはHOME Xの詳細を明らかにしていないが、現在、シリコンバレーに家を購入し、「The β House」と名付けた暮らしを変えるための検証活動を進めている。ここでは、人々の生活を観察し、住空間のなかでの暮らしを変革。デザインシンキングの手法を用いて、アイデアをすぐにプロトタイプ化し、フィードバックを受けて、改善するという作業を繰り返している。
これまでに、1293個のアイデアが創出され、そのうち81個のソフトウェアプロトタイプをつくり、そこから31個のハードウェアプロトタイプをつくり、三つの住空間プロトタイプとして検証を始めているという。
課題は、スピード感をもちながら、アイデアをリアルに体験できるところまで、つくったものを商品化するところまで、スピード感を維持したままつなげることができるかどうかだ。
市場への商品投入の速さがデジタルネイティブの特徴だとすれば、Panasonic βの取り組みはまだそこには至っていない。この部分において、従来のパナソニックの発想と構造を変えることが必要だ。それがパナソニックのDXの推進と、デジタルネイティブ化につながっていく。
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、企業の生き残りにとって不可避な取り組みとさえいわれるようになった。だが、日本の企業の実態をみると、掛け声は高まるものの、DXに対する投資意欲が低く、取り組み実績において、先進的な欧米企業との差はもちろん、アジア全体と比較しても遅れがみられる。日本の企業におけるDXの取り組みと課題を追った。(取材・文/大河原克行)
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