スマートフォンが普及し、今やほとんどの人がプライベートにおける日常的なコミュニケーション手段としてチャットを活用している。一方で、ビジネスの場ではいまだメールが主流であるものの、法人向けチャットサービスの導入が拡大している。仕事の場面でもメールからチャットへと、コミュニケーション手段が移り変わるのか。(取材・文/前田幸慧)
メールに代わる
コミュニケーションツール
総務省の平成28年通信利用動向調査によると、スマートフォンの個人保有率は、全体で56.8%。50代で6割を超え、20代と30代では90%を超える。一方で、スマートフォンを除く携帯電話・PHSの個人保有率は、全体で33.6%。前年と比較して、1.5ポイント減少している。スマートフォン人気に火をつけ、国内で多く利用されている「iPhone」は、2008年に日本に上陸。以来、10年の間で、スマートフォンはモバイルデバイスとしての地位を、従来型の携帯電話から取って代わることとなった。
また、スマートフォンの普及によって、テキストによる主なコミュニケーション手段も変化。メールから、チャットへと移り変わっている。なかでも無料で通話やゲームが利用できるチャットツール「LINE」の、17年末の日本における月間アクティブユーザー数は7300万人に上り(参考:LINE平成29年12月期通期決算説明会資料)、国内ではチャットツールとしてデファクトスタンダードとなっている。いうまでもなく、ほとんどの人が利用していて、家族や仲のいい友人同士であれば、LINE上でやり取りする人が多いだろう。日常的なコミュニケーションツールという観点でいえば、チャットは完全に定着しているといえる。
ただ、これはあくまでプライベートな場面であって、ビジネス上でのやり取りは、いまだメールが主流だ。これには、会社として新たなツールを導入する必要があったり、PCが業務の中心であること、セキュリティへの危惧などが主な理由として挙げられる。
働き方改革の波が
ビジネスチャット導入を後押しする
近年では、ビジネスチャットを採用する企業も増加している。企業内でスマートフォンの導入が拡大していることに加え、コンシューマ領域でのコミュニケーション手段がメールからチャットに置き換わっていることからみても、ビジネスにおけるコミュニケーション手段に変化が現れているのは、自然な流れだと考えることができる。
さらに、企業におけるビジネスチャット導入を加速させているのが、「働き方改革」だ。長時間労働の削減や業務の効率化、労働生産性の向上などを目的とするこの取り組みにおいて、ITの活用は欠かせない。総務省の通信利用動向調査によれば、ITを利活用している企業のほうが、利活用していない企業よりも、いずれも一社あたりの労働生産性が高いことが明らかになっており、とくにクラウドサービスを利用している企業と利用していない企業を比べると、その差は1.3倍になるという。
また、IDC Japanが昨年8月に発表した「国内企業の人材戦略と人事給与ソフトウェア市場動向の調査」では、働き方改革で関心を集めるITツールの一つとして、ビジネスチャットに「高い関心」があったと言及している。実際に、ビジネスチャットサービスを提供するベンダーからも、働き方改革がビジネスに好影響をもたらしているとの声がある。ワークスモバイルジャパンの萩原雅裕・執行役員マーケティング製品統括は「(ビジネスチャットを導入する)きっかけとして、話がくることが多い」と話す。また、メールでは文頭と文末に挨拶などの定型文を入れるうえ、情報が多くなりがちで、「コンテキストの理解に時間がかかるが、チャットでは件名などを入れておけばコンテキスト共有が不要になる。それだけで、コミュニケーションコストが減る」とChatWork(チャットワーク)の山本正喜CTO。「チャットではメッセージをオフラインの相手にも送ることができ、(電話や内線のように)業務を邪魔しない。受信者も好きなときに確認できて業務の切り替えを必要としないため、そうした意味でも生産性が上がる」と説明する。
ビジネスチャット市場
競争が過熱?
ビジネスチャットの市場をみると、16万社以上の導入実績を謳うChatWorkや、サービスの本格提供開始1年で導入社数1万社を数えるワークスモバイルジャパンなど、国内プレイヤーの勢いが目立つ。
一方で、海外製の有力ツールも登場している。昨年11月には、「Slack」日本語版がリリース。米Slackが13年から提供を開始したサービスで、サードパーティ製アプリケーションとの連携に力を入れており、エンジニア向けのビジネスチャットツールとして定評がある。国内でも、日本語版の提供以前から多くのユーザーがいるとされている。また、マイクロソフトは「Office 365」を構成するサービスとして、ビジネス向けのグループチャットツール「Microsoft Teams」を昨年に本格提供を開始した。Teams内で、「SharePoint」でのファイル共有や、「Skype for Business」を利用した通話など、Office 365アプリとの連携を実現できることが特徴だ。
ビジネスチャットはまだ普及段階ではなく、ホワイトスペースのある市場。今後、市場の動きも過熱していきそうだ。
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