ユーザー企業の旺盛なIT投資に支えられ、主要SIerの今年度(2018年3月期)上期決算は好調に推移している。ユーザー企業の売り上げや利益に直結するデジタル領域への投資増が顕著で、同領域はSIerにとっても次の成長の柱になりつつある。IoTやビッグデータ分析、AI(人工知能)などを活用するデジタル領域は、当初、実証実験レベルにとどまることが多かったが、ここへきて本番導入へのシフトが本格化。また、NTTデータ、野村総合研究所(NRI)のトップSIerの2社は、積極的な海外M&A(企業の合併や買収)による増収効果も業績に貢献している。(取材・文/安藤章司)
IT基盤全体の
刷新案件につなげる
主要SIerの上期決算を俯瞰してみると、ユーザー企業の旺盛なデジタル領域への投資をうまく自社のビジネスに取り込んでいることがうかがえる。例えば、IoTやビッグデータ分析をする場合、高性能なデータベースや、それを支えるハードウェア環境の整備、さらには既存システムとの連携、各種クラウドサービスの活用など、ITインフラからクラウドサービスに至るまで、「IT基盤全体の刷新案件につながっている」(新日鉄住金ソリューションズの謝敷宗敬社長)という。
デジタル領域のピンポイントの受注ではなく、それを実現する幅広いIT基盤の受注が売り上げを押し上げているといえそうだ。
NTTデータとNRIは、海外SIerのM&Aを積極的に展開している。両社とも既存事業ベースでも伸びており、M&Aとの相乗効果を発揮。TISと伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は、M&Aこそ少なめだが既存事業ベースで成長している。TISは今年度(18年3月期)過去最高の連結売上高4000億円の達成を射程内に入れ、CTCはこの上期、受注、売り上げ、すべての利益項目、受注残の過去最高を更新。通期の連結売上高は前年度比4.2%増の4250億円を見込む。CTCの菊地哲社長は、「ITを稼ぐツールとして捉える顧客が一段と増えている」ことが、良好な受注環境をつくりだしていると話す。実証実験ベースだったデジタル領域の案件が、本番導入へシフトしていることも追い風だ。
一方、情報サービス業界全体での人手不足が顕在化。SEの稼働率が高止まりする状況が続いている。SCSKやTISをはじめ「働き方改革」を積極的に推進するSIerが目立つ。従業員の処遇改善、残業時間の短縮、有休取得率の向上を通じて優秀な人材の確保に努める。同時に限られた労働時間のなかで生産性を高め、さまざな業務の合理化、コスト削減を行うことで、利益率向上への施策に意欲を示す。
NTTデータ
M&A効果で北米の売り上げ倍増へ
決算説明会に臨むNTTデータの岩本敏男社長(左)
NTTデータは、旧米デル・サービス部門の統合効果などによって、上期(17年4-9月期)連結売上高は前年同期比31.0%、営業利益同14.8%のそれぞれ大幅増になった。旧米デル・サービス部門は北米での売上高比率が大きい。このためこの上期決算からは、「北米」と「EMEA(欧州・中東・アフリカ地域)/中南米」の大きく二つの地域に分けて開示。海外ビジネスをひとくくりに開示する従来方式から変更した。売上規模がそれほど大きくない中国・APAC(アジア太平洋地域)は、その他セグメントへ振り分けた。
今年度(18年3月期)通期の北米地域での売上高は、前年度比108.2%増の5130億円と、旧米デル・サービス部門などによって2倍余り伸びる見込み。EMEA地域も同9.4%増の3620億円の見通し。
全社売上高は、前年度比18.9%増の2兆600億円の見通しだが、国際会計基準(IFRS)への対応準備のために、一部海外グループ会社で12か月を超える決算が発生。このため、「実力ベースでは1兆9600~1兆9700億円に着地の見通し」(岩本敏男社長)と、わずかに2兆円には届かない見込みだという。
来年度(19年3月期)はNTTデータの3か年中期経営計画の最終年度で、目標値は連結売上高が名実ともに2兆円超、営業利益率は15年度比で1.5倍の1500億円、海外売上高比率50%達成を目指す。営業利益率については、AIやIoT/ビッグデータをはじめとする新規デジタル領域の「研究開発費や実証実験などに100億円を投じて達成できるよう努める」(岩本社長)と鼻息が荒い。
国内はほぼ堅調に推移している。NTTデータだけでなく、国内情報サービス業界全般に追い風が吹いており、東京五輪のある20年まではこの傾向が持続すると国内主要SIerの経営者は異口同音に話す。だが、それ以降については不透明な部分が払拭しきれない。ITに限ってみれば、技術進展によって新規商材の登場が期待されており、岩本社長は、「25年を一つの目安として成長戦略を推し進める」と、新規のM&Aも視野に入れつつ、一層の業容拡大にドライブをかけていく。
野村総合研究所(NRI)
豪州で大型M&Aを相次いで実現
NRIの上期(4-9月期)連結売上高は、前年同期比8.4%増の2202億円。実数で170億円ほど増えており、うち約100億円が既存事業ベースの成長、約70億円が16年末にグループに迎え入れたオーストラリアASGグループを中心とするM&A効果だった。既存事業の成長を牽引したのは、製造や流通・サービスなど産業分野のITビジネス。次いでコンサルティングビジネスも好調に推移した。
此本臣吾社長は、「ユーザー企業の売り上げや利益に直結する領域のビジネスが活発化している」と、既存事業ベースの成長要因を指摘。既存のバックオフィス系システムの入れ替えや刷新だけでなく、売り上げや利益への直接的な効果が大きいフロント系の案件が拡大。これまでNRIとユーザー企業が共同して進めてきた実証実験が、ビジネスとしての収穫期に入ってきたことが売上増を後押しした。
NRIは、バックオフィス系を「コーポレートIT」、フロント系を「ビジネスIT」と定義。後者は実証実験などの試行錯誤を繰り返しながらシステムを構築していくことが多く、予算の全体像がみえにくい特性をもつ。コーポレートITが、システムをつくる以前に仕様や予算を固めるのと比較してビジネスの進め方が大きく異なる。こうした手法の違いを「ユーザー企業が受け入れ始めた」(此本社長)のも追い風になっている。18年1月にはKDDIと企業のデジタル変革を支援する合弁会社も立ち上げる予定だ。
今年度(18年3月期)通期の売上高見通しは前年度比8.4%増の4600億円。この9月末までにオーストラリアのSMSマネジメント&テクノロジーを新しくグループに迎え入れており、このM&A効果も含まれている。オーストラリアでは、前述のASGグループと相互補完するかたちで「営業力や提案力の強化が期待できる」(同)と話す。
具体的には、ASGは官公庁やエネルギー、インフラ系に強いのに対して、SMSは金融や通信に強い。エリア別では前者が首都キャンベラや西オーストラリアのパースに強いのに対して、後者は東南部のメルボルンや東部のブリスベンに強い。得意とする技術領域も相互補完の関係にあることから、今後は両社がタッグを組んでオーストラリア市場でのNRIグループの存在感を発揮していくことになる。此本社長は、グローバルビジネスの第2ステップは「北米市場をイメージしている」と、海外での新規M&Aに含みをもたせる。
TIS
過去最高の年商4000億円を射程内に
TISは、今年度(18年3月期)に過去最高の連結売上高4000億円を達成する見通し。同社は18年3月期までの3か年中期経営計画で、連結売上高4000億円、営業利益300億円、純利益160億円を目標値に設定。これら目標値をいずれも射程内に収めている。
課題だった利益率も着実に改善。15年3月期の営業利益率は5.9%だったが、この上期(4-9月期)は7.0%までに増えた。利益率改善の背景には、良好な事業環境が追い風になっていることに加え、不採算案件の抑制も奏効している。昨年度通年で44億円余り発生していた不採算案件を、この上期は8億円弱(=開発損失率0.8%)に抑制。通期でも開発損失率1%以内の範囲内で推移していることが利益の押し上げ要因の一つになっている。
他にも、主に事業会社としてのTISとインテックが運営する東名阪と富山などのデータセンター(DC)を「DCAN(ディーキャン)」と呼ばれるDC間ネットワークで連携。ユーザー企業からみて、TISグループのDC活用型サービスをワンストップで使えるようにした。ユーザー企業にとっての利便性が高まるだけでなく、各DCを個々に連携させるのに比べてネットワーク費用などを圧縮でき、結果的にDCサービスの運用費の削減につなげた。
また、グループ各事業会社が手がけていたBPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)事業を傘下のアグレックスへ集約するとともに、東京・多摩地区に総額80億円を投じて、新しくBPOセンターを開設。同センターはこの12月末までに竣工する予定で、18年1月から順次、同センターへBPO業務を移転・集約を始める。これによってBPOサービスの24時間対応がやりやすくなったり、集約によるコスト削減効果を見込んでいる。
一方で、働き方改革による生産性向上にも意欲的に取り組む。昨年度は月平均26.6時間あった残業時間を、この上期は同19.6時間まで減らした。今年度の目標は前年度比5ポイント減の21.6時間に設定しており、ほぼ計画どおりに進捗している。並行して、有給休暇の取得率は昨年度68%だったが、今年度は80%に高める目標を設定。上期までの有休消化率は41%で推移。残業削減、有休取得率を向上させつつ、同時に生産性を高めることで売り上げや利益を増やす。人手不足感が強まるなか、働き方改革や処遇改善を進めることで、グループの人材流出を防ぐ狙いもある。
利益率が改善していることから、中期経営計画で設定した純利益の目標160億円から上方修正するかたちで、中計最終年度の今年度の純利益180億円を目指す。来年度は、次の中期経営計画がスタートする年で、桑野徹社長は、「収益性をより重視した計画になる可能性が高い」とコメントしている。
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