日系ITベンダーのASEANビジネス
成長著しいASEAN市場に商機をみた日系ITベンダー各社のビジネス戦略や状況はどうなのだろうか。ASEANに進出する10社の取り組みを紹介する。
ブイキューブ
シンガポール/タイ/インドネシア/マレーシア
ローカライズが海外展開の要

間下直晃
社長 海外ビジネスを手がけるうえで現地のスタイルに合わせた「ローカライズ」は一つのカギ。シンガポール、タイ、インドネシア、マレーシアに拠点をもつウェブ会議システムのブイキューブも、ローカライズに力を入れて現地企業に製品を提供している。
「言語や宗教、商慣習をどれだけ理解し、対応していくかが重要となる」と間下直晃社長は話す。欧米企業が競合としてひしめくなかで、現地語への対応をはじめ、アジアのコミュニケーションスタイルに適した製品の提供を強みに、データセンター(DC)を各国に置き、現地のユーザー企業が安心してサービスを利用できるようにした。
ASEANでの売り上げは「まだまだこれから」というが、シンガポールで現地教育プラットフォーム大手のWizlearn Technologiesを15年10月に買収して売上規模が拡大。タイも堅調に売り上げが伸びている。16年度(16年12月期)は、ASEANを中心とした海外売上規模を前年度の2倍以上と予想している。
インターネットイニシアティブ
シンガポール/タイ/インドネシア
クラウドを積極的に展開

大導寺牧子
課長 シンガポール、タイ、インドネシアに拠点をもつインターネットイニシアティブ(IIJ)では、12年からグローバルでのクラウドサービス提供を本格化している。シンガポールとインドネシアでクラウドを提供、ローカル企業からの引き合いを中心に売り上げを伸ばしている。
3拠点のなかで異彩を放つのがインドネシアだ。14年にインドネシアの大手通信事業者であるBiznet Networks(Biznet)と合弁会社を設立。15年5月、他社に先駆けてクラウドサービス「Biznet GIO Cloud」の提供を開始した。ユーザー企業数は月ごとに右肩上がりで増え、1年を待たずに約800社を獲得。大導寺牧子・グローバル事業本部グローバル企画部サービスソリューション課長は、「クラウドが求められはじめたタイミングで参入でき、知名度の高いBiznetの受けもよかった」と語る。
日系企業向けシステム/ネットワークインテグレーション事業を行うタイにおいても、現地パートナーと協業し、クラウドサービスの提供を予定している。
JBCCホールディングス
シンガポール/タイ
主力商材で売り上げをけん引

山田隆司
社長 JBCCホールディングスは、ユーザー企業の要望に応えるかたちでASEANに進出している一社だ。10年にタイ(JBTH)、12年にシンガポール(JBSG)で子会社を設立。「日本と同じサポートを現地でも提供する」(山田隆司社長)ことをモットーに、タイで製造業、シンガポールで金融やDC事業者などの日系企業向けにITサービスを提供している。
ASEANビジネスのメイン拠点であるタイでは、グループ企業のリード・レックスが開発・販売する製造業向けERP「R-PiCS」を拡販し、「タイやその周辺国に進出するユーザーが多く、地域全体の売り上げの8割を占めている」という。シンガポールでは、IBM製サーバーを独占的に販売することで収益を確保している。「案件数は増えてきており、ようやくトントンくらいにはきた」と、収益化への兆しがみえてきた模様だ。
クララオンライン
シンガポール
幅広い地域のニーズに応える

FullRoute
白畑 真
Managing
Director アジアで広くインターネット・モバイル事業を展開しているクララオンライン。なかでも、13年にビッグローブとの合弁でシンガポールに設立したFullRouteでは、日系企業向けのITコンサルティング事業と、主にローカル企業を対象にしたクララオンライン・ビッグローブの両社がもつネットワーク回線の卸売(IPトランジット)事業を手がけている。ベトナム、インドネシア、マレーシアなどの中堅・中小規模の通信事業者などに、シンガポール拠点がネットワークのハブとして機能している。
二つの事業で案件を抱えながら、FullRouteとしての売上規模は、「まだ数千万程度」(白畑真・Managing Director)といい、現状はビジネスを軌道に乗せようとしている段階だ。客層の拡大と、日本との連携強化を図ることで、今後のビジネス拡大を狙っていく。また、昨年には香港にFullRouteの支店を設立し、より幅広い地域のニーズに応える体制を整えている。
セゾン情報システムズ
シンガポール
現地固有のニーズに応える

HULFT
櫻井泰子
ダイレクター セゾン情報システムズは、主力商材であるデータ連携ツール「HULFT」を世界42か国で拡販している。ASEANでは、社名をツール名と同じHULFTとしたシンガポール法人を昨年4月に開設。日本語/英語/中国語に対応、24時間365日のサポート体制を武器に、ASEAN現地の日系企業をユーザー企業として開拓している。
同社は、ASEAN戦略の一つとして、アジア固有のニーズに応えていくことを重視している。ASEANではExcelでデータ管理している企業が多く、データ連携にかかわる一連の作業を自動化し、業務を効率化することへのニーズが高まっている。そこで、Excelとのデータ連携を自動化するソフト「DataSpider Mini for Excel」を15年12月にリリース。「ASEAN向けにスモールスタートで導入しやすくした。1月にタイで開催したセミナーで50人以上の参加者が集まって、ここから引き合いが出てきた」(HULFTの櫻井泰子・マネージングダイレクター)と出足は好調のようすだ。
日本事務器
シンガポール
ASEAN進出でニーズに応える
日本企業の海外進出が進むなか、ITベンダーも海外をサポートできる十分な体制を整えていなければ、ビジネスチャンスの損失につながる可能性がある。「“攻めよう”という気持ちをもつお客様の視線は海外に向いている」。そう語る日本事務器の田中啓一社長は、既存ユーザー企業の進出が多く、将来的に発展の余地も大きいASEANに着目した。
約3年前から着々と準備を進め、16年4月、シンガポールに駐在員事務所を設立。実際に、海外での体制を整えることでユーザー企業からの相談が増えたそうだ。今後、ASEANに進出するユーザー企業のサポートを行っていく。
シンガポール拠点の責任者である桝谷哲司・海外準備室長は、「人員体制を強化し、徐々にサービス範囲を広げて事業の方向性を見定めていく」との方針を示している。
富士通システムズ・ウエスト
マレーシア
LCMビジネスで導入後をサポート

堀 暁
取締役 14年に、Fujitsu Systems Global Solutions(FSGS)をマレーシアに設立した富士通システムズ・ウエストでは、富士通グループ全体のソリューションを取り扱い、マレーシアを拠点に営業モデルをつくりながら、タイ、シンガポールの「最優先エリア」、インドネシア、ベトナムの「優先エリア」へと横展開している。
15年度(16年3月期)に、従来のプロダクト売りから、ユーザー企業の地域・業種に合わせてソリューションを組み合わせたトータルソリューション提供へとシフト。16年度は、プロダクトのライセンス販売とともに、導入後の運用サポートを行うLCM(Life Cycle Management)にも注力する。「ASEANは、導入してもきちんと運用できないユーザー企業が多く、LCMをサポートすることが重要」と、堀暁・取締役執行役員常務兼ソリューションビジネスグループ長は捉える。各国で現地ITベンダーとパートナーシップを組み、「CADは有力パートナーと組むことでブレイクしつつある」と手ごたえをつかんでいる。
NTTコミュニケーションズ
マレーシア
タイをASEANのICTハブに

宮崎 一
Vice President&
COO
Country Director NTTコミュニケーションズの注力地域は、AEC発足で期待のかかるタイとメコンエリア(カンボジア、ラオス、ミャンマー)だ。タイ法人の支店として、10年にCLM各国に進出を開始。カンボジア、ミャンマーでは通信事業のライセンスを取得した。
CLM地域では、すでにカンボジアで日系企業を中心に140社をユーザーとして獲得し、ミャンマーでも高い伸び率をみせている。13年に受注したヤンゴン市の高層オフィスビル「SAKURA TOWER」では、「ミャンマーの通信回線は故障率がタイの10倍以上高いなかで、常に回線のバックアップを取り、回線が混み合わないようにモニタリングしてコントロールしている。また、回線の開通の早さを最も評価いただいた」(NTTコミュニケーションズ タイランドの宮崎一・Vice President&COO Country Director)といい、将来的にはASEANの通信トラフィックをタイに集中させて「タイをASEANのICTハブにしていく」方針。
日立製作所
ミャンマー
ミャンマーのインフラ整備を支援

情報・通信システム社
酒井宏昌
部長 日立グループでは現地企業とのM&Aや合弁会社の設立によって、ASEAN地域での事業を急速に拡大。現在では、シンガポールとマレーシアからASEANのほぼ全域をカバーする。最近、とくに投資を活発化させているのがミャンマー。まだITインフラが十分に整っておらず、日系企業の進出も最近になって出てきたミャンマーだが、「社会インフラを強みにソリューションを提供できる」と、情報・通信システム社の酒井宏昌・国際情報通信統括本部グローバル営業第二本部地域事業推進部部長は自信をみせる。
鉄道の信号やエネルギーなどのシステムを支え、昨年12月にグループ子会社の日立ソリューションズがミャンマーの港湾EDIシステム開発案件を受注。現地パートナーと協業し、ローカライズを意識しながら取り組みを進めている。日系企業の進出が加速していることから、「今後、ミャンマー進出に合わせた案件が増えてくるだろう」との見方を示している。
日立システムズ
マレーシア/シンガポール/インドネシア/タイ
ハブ&スポークでビジネスを効率的に

中村重美
本部長 マレーシアSunway Technologyの合弁会社である日立サンウェイインフォメーションシステムズ(日立サンウェイ)を13年4月に設立した日立システムズは、マレーシアを拠点に、シンガポール、インドネシア、タイの4か国で、ITインフラ構築・運用、ERP、PLMをメインとした営業活動を展開。製造業が多いタイ・インドネシアでは、PLMソリューションを切り口に、SIやマネージドサービスなどをクロスセルで提案する戦略で案件を獲得している。
日立サンウェイのASEAN事業展開においてキーワードとなるのは「ハブ&スポーク」だ。中村重美・産業・流通事業グループグローバル事業推進本部理事本部長は、「マレーシアにノウハウとリソースを集中させ、スポークのかたちで他の地域に展開することで、どの地域でも効率的にビジネスを展開できる体制を整えた」としている。ローカル企業を中心に堅調に売り上げは伸長。16年度(17年3月期)は、4か国すべてでビジネスの拡充を目指す。
[次のページ]