
貴安新区の将来の都市構想
将来は29棟のDCで構成される中国電信雲計算貴州信息園 ●超大規模DCが続々と 貴安新区のなかでも、比較的立ち上がりが早いのは、DCだ。前述の通り、貴州省はDC拠点としての先天的な優位性を有しており、とくに自然環境が豊かで土地面積も広大な貴安新区は、その有力地となっている。中国3大通信キャリアが進出しているのも貴安新区で、国家級新区に指定される以前の13年から建設を進めている。驚きなのは、DC拠点の規模感だ。3大通信キャリアだけでも投資総額は100億元を超え、すでに契約済みの企業もあわせて、すべてのDCが完成すれば、新区内の延べサーバー収容台数は300万台に達する見込みだという。

中国電信雲計算
貴州信息園
市場拓展部
伍丁
副総経理 中国電信では、投資総額70億元をかけて「雲計算貴州信息園」の建設を進めている。将来は29棟のDCが完成する予定で、サーバー収容台数は80万台、ラック換算では6万ラックを予定。同社にとっては、華南エリア最大のDC拠点となる。現時点では4棟が建設済みで、このうち2棟が稼働。貴安新区が環境保護を重要視していることから、DCには外気冷却を採り入れるなどして、エネルギー効率を示すPUE値は理論値で1.3程度に抑えた。
中国電信雲計算貴州信息園の伍丁・市場拓展部副総経理は、貴安新区の利点について、「自然環境が豊かなだけでなく、政府の支援も手厚い」と説明する。新区内では、税制や土地使用料、電力料金などの優遇支援を受けることができる。「例えば土地使用料は、同じ面積で上海では数百万元かかるところを、貴安新区では数万元程度に抑えられる」という。良好な自然環境と高効率のDC設備を兼ね備えた結果、「電力コストも伝統的なDCの半分程度で抑えられる」という。

中国移動通信集団
貴州大数据運営中心
李文華
総経理 中国最大手の通信キャリアである中国移動通信も、20億元の投資総額で「貴州大数据中心」を建設中だ。同社は、中国国内に五つの中核DC拠点を有しており、貴安新区のDC拠点は、貴州省の金陽、花渓のDCと連動して一つのリージョンを形成する。貴安新区の収納サーバー数は32万、ラック換算では2万1000を計画。中国移動通信集団貴州大数据運営中心の李文華総経理は、「PUE理論値は1.3、設備基準はTier 4レベルの高品質DCだ」と自信をみせる。現在は、完成済みの一部DCにサーバーを格納している最中で、将来はDCサービスやクラウドサービス、蓄積した政府データなどを活用したビッグデータ関連サービスを提供していく構想だ。
●新区ならではの課題も 李総経理は、貴安新区の利点について自然環境と政府支援の充実を挙げつつも、課題もあることを説明。「DCの運営状況はリモートで監視できるが、現場に行く必要がある際には、都市部から距離があるので移動の手間がかかる。人里離れた場所にDCを設けることを不安視するユーザーもある」という。ただし、「実際にはDCは都市の中心部よりも郊外にあるほうが安全で、ユーザーの理解が進めば将来はメリットにもなり得る」とみている。
中国電信雲計算貴州信息園の伍・副総経理も「新しい行政区画なので、まだ産業が育っていない」と、新区ならではの課題を挙げる。早期に新区内から大量の顧客を獲得することは現実的ではない。また、「まだ高度な人材が不足している状況だ」という。
●急ピッチで進める人材育成 人材不足については、政府も対策を講じている。貴安新区では、南部に面積63km2からなる教育機関のキャンパス集合エリア「花渓大学城」を設置し、外部の大学や教育機関の誘致を進めている。すでに北京師範大学などと提携しており、将来は大学で30万人、専門学校で15万の学生を収容する計画だ。
高度なIT人材を育成する試みも並行して進めている。貴安新区はマイクロソフト(中国)と手を結び、「貴州マイクロソフトIT学院」を設立した。これはビッグデータ関連人材を育成するためのプロジェクトで、貴州の大学教員や学生、IT人材に対して系統的なIT知識の実践スキルの研修を行い、就労能力の向上につなげる。

貴陽で人材育成の取り組みに調印するユーキャンチャイナの坂西健二董事長 また、花渓大学城の学生の起業支援を目的とした「貴安創客連盟」も15年6月に設立されている。起業家に求められる能力の研修やマーケティング支援、無料のスタジオオフィス、投資・融資機構や資本家との商談機会などが提供される。貴安創客連盟の王克総武秘書長は、「3年間で1万の革新的な創業プロジェクトを育成し、10万の創業者を支援したい」と野心的な目標を掲げている。
貴陽市でも、人材育成の新たな取り組みが行われる。通信教育サービスの成都生涯科技(ユーキャンチャイナ)は、現地の教育機関と提携して、今年4月から貴陽市でオンライン・オフラインの人材研修サービスを提供する予定だ。これを通じて、不足するビッグデータ関連人材の育成に貢献していく。
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