データ活用型の攻めのIT投資の代表格として注目を集めるデジタルマーケティング。昨年、グローバル大手ベンダーが相次いで国内に製品を投入し、市場はにわかに盛り上がりをみせている(『週刊BCN』2014年11月17日号で特集)。しかし現状では、売り手として積極的に活動しているのはマーケティングコンサルやクリエイティブ系の企業で、ITビジネスの中核を担ってきたSIerの存在感は薄いのが実情だ。SIerにとって、デジタルマーケティングは有望市場にはなり得るのか。「デジタルマーケティング特集第2弾」として、SIerにとってのビジネスチャンスを探る。(取材・文/本多和幸)
先進SIerは市場をどう攻略する?
まだ少数派ではあるが、デジタルマーケティング分野に積極的に投資し、将来の主力事業の一つに育てようというSIerが現れてきた。まずは、そうしたSIerが何を強みにこの新しいビジネスを開拓しようとしているのか、代表例を三つ紹介する。
Case1 TIS
マーケ業務に精通した人材を続々採用
積極投資で専門チームをつくりあげる
●150人体制の新組織発足 
秋野隆
シニアエキスパート SIerがデジタルマーケティング市場に参入する際に、最大の障壁になるのは、マーケティングの業務知識に乏しいことだ。デジタルマーケティング・ツールは、ほとんど開発が必要ないSaaS商材も多く、現状、売り手に求められるのは、情報システムの構築ノウハウではなく、いかにマーケティングの業務に沿って導入・運用し、ROI(投資対効果)を高めることができるかという点。そうした評価軸では、一般的なSIerがマーケティングコンサルやクリエイティブ系の企業と勝負するのは難しい。
ITホールディングスグループのTISは、広告代理店やアドテクノロジーベンダー、マーケティング・コンサル企業などから、マーケティング業務の現場をよく知る人材を積極的に採用しており、この4月に、「デジタルインテグレーション事業部」として、デジタルマーケティング専門の組織を立ち上げた。現在は、すでに150人規模のチームになっている。体力のある大手SIerらしく、成長が期待できると判断した分野に先行して積極的に投資をして、先行者利益が得られる基盤づくりに乗り出したかたちだ。
TISがデジタルマーケティング・ソリューションを手がけ始めたのは、2012年。ソリューション群を体系化し、「TECHMONOS」というオリジナルブランドを展開している。TECHMONOSは、「EC+」「Mobile+」「Intelligence+」という三つのソリューションで構成されている。EC+は、Eコマースサイトを含む企業のウェブサイトなどのオウンドメディアの構築やコンテンツ管理システム(CMS)から成るソリューション群。一方、Mobile+は、ユーザー企業の販売の現場などで使うモバイル業務アプリケーションを中心としたソリューション群だ。そしてIntelligence+は、EC+やMobile+で収集される各種データを一元的に収集・分析して、マーケティングオートメーションやキャンペーン施策に生かす、ビッグデータ活用のソリューション群といえる。このなかには、大手グローバルベンダーのパッケージ製品もラインアップしており、CMSではアドビ システムズ、マーケティングオートメーション・ツールはSAS、マルケト製品を担いでいる。
ただし、同社はマルチベンダー対応を基本方針としており、ラインアップは今後広げていく可能性が高い。
秋野隆・産業事業本部デジタルインテグレーション事業部デジタル企画営業部シニアエキスパートは、「当初、TECHMONOSを担当する組織は20人ほどの規模だった。当時はオムニチャネルやマルチチャネルという言葉も一般的ではなく、お客様の反応も薄かったが、お客様の顧客接点とバックエンドシステムをつなぐIT投資の部分には大きなホワイトスペースがあることが明らかだったので、この新しい市場に精通する人的リソースを新たに確保しつつ、必要なソリューションを整備し、導入コンサルから運用のサポートまで、つまり上流から下流まで手がけられる体制の整備を着実に進めてきた」と説明する。
●“統合”のニーズに応えるのはSIer TISは、この新たに取り込んだマーケティングの専門家集団のノウハウと、従来のSIのノウハウを融合させることで、デジタルマーケティングの領域でも高い競争力を発揮できると考えている。秋野シニアエキスパートは、「現状では、単一の事業の収益を上げるためにデジタルマーケティングを導入するのがまだまだ一般的だが、多種多様なデータを統合して、もっと幅広く企業活動に活用するというニーズが必ず出てくる。全社横断的にオムニチャネルの顧客接点となるフロント系のソリューションからバックエンドのシステムまでをつなぎ、デジタルマーケティングソリューションを物流や生産計画の最適化にも役立てていくこともできる。この“統合”という切り口で考えたときに、既存のパッケージ製品だけでは、対応できる範囲が限られる。つまり、SIのノウハウをもたないクリエイティブ系の企業が提供できるソリューションの限界がここにあるということ」と、SIerならではの優位性を強調する。
今年6月にアクセンチュアとファーストリテイリングがデータ活用型の新しいビジネスモデル構築に向け、協業することを発表した。TISが考えるこの「全社統合型のデジタルマーケティング」も同様のコンセプトであり、同社のユーザーでも、すでに案件が動き始めている。
「全社統合型のデータ活用システムをつくるには、マーケ、情シスを含む組織横断型の独立した社長直轄のプロジェクトチームが欠かせない。こうした組織のつくり方やプロジェクトの進め方も含めてサポートし、システムの実現性まで責任をもって設計・構築・運用を手がけられるのはTISの明確な差異化ポイントになる」(秋野シニアエキスパート)という。
すでにポイントソリューションの案件は多く発生していて、ユーザーは2ケタになっている。そして、そのほとんどが新規顧客。TISにとって、デジタルマーケティングという新しいSIのフィールドは、顧客基盤拡大のための重要市場といえそうだ。
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