迫る改正スケジュール
国産ベンダー、SIerの課題
システム改修で問われる信頼性
消費税率8%への引き上げが1年後に迫るなかで、業務ソフト・ERPベンダーやSIerの問題意識はどこにあるのだろうか。消費税改正の市場へのインパクトをどう見積もっているかも含めて取材した。
富士通マーケティング
●オペレーションの切り替えが難問 
渡辺雅彦
常務理事 富士通グループの基幹業務統合ソリューション「GLOVIA」には、ユーザーの規模に合わせて、複数のシリーズがラインアップされている。中堅向けの「GLOVIA smart」、中小向け「GLOVIA smart きらら」のベンダーで、大企業向け「GLOVIA SUMMIT」の販社でもある富士通マーケティング(FJM)は、消費税改正に伴う業務システムの改修の課題について「システムでの対応よりも、業務オペレーションを速やかに切り替えられるかどうかが最大の問題」(渡辺雅彦・常務理事ソリューション事業本部副本部長)と考えている。
渡辺常務理事は、「GLOVIAは、会計、販売、購買など、それぞれのシステムごとに消費税のマスターがあり、そこで税率を管理している。税率が切り替わるタイミングも任意で設定できるので、経過措置や複数税率についても、事前に設定して混乱のないように準備することができる」と説明する。ユーザー側の動きとしては、「消費税の改正が、販売、購買、会計だけでなく、どこまで多岐にわたって自社システム全体に影響を及ぼすのか、その調査に順次取り組みはじめている」(渡辺常務理事)という。
しかし、この「自社システム全体への影響把握」については、建設業など、経過措置に密接に関わる分野で先行してはいるものの、全体的な傾向としてユーザー側にそれほど切迫感が感じられず、のんびりしすぎていると感じている。渡辺常務理事は「例えば会計システムでは、複数税率の導入や経過措置などを含めると、申告書のフォーマットも複雑になる。経理の人員が、システム切り替え時のオペレーションにスムーズに対応するためには、ある程度の準備期間が必要」と指摘する。
●システム改修に合わせて付加価値を提供 また、新しいパッケージソフトを使っている顧客はそれほど問題はないが、手組みのシステムを使っている場合は、かなり大規模なシステム改修が必要になる可能性が高い。
FJMとしては、今年度上期、消費税改正対応について、セミナーなどで重点的に情報発信を強化していくとともに、運用指導やコンサルティングも、パートナー企業のGLOVIA認定コンサルタントと連携して展開していく方針だ。
渡辺常務理事は「消費税に対応したシステムを提供するという側面だけでは、IT市場に大きなインパクトはない。しかし、ユーザーには、これを機会に自分たちのシステムを見直してもらう必要があるので、そこに付加価値のある提案ができれば大きなビジネスになる」と話す。さらに、「インボイス方式が導入されれば、帳票管理も手間が増え、現場の業務オペレーションはいっそう煩雑になる。ベンダーとしては、それをサポートする知恵と工夫が求められる。幸い、『GLOVIA』は、もともと取引を明細単位で細かく管理し、経営分析にも活用するという思想で設計している。取引単位で税を管理する際も、そうしたコンセプトが生きてくる」と、「GLOVIA」の拡販に自信をみせる。
ピー・シー・エー
●XPマイグレーションとの相乗効果も 
折登泰樹
専務 中堅・中小規模の企業をメインターゲットとする基幹業務ソフトウェアベンダーのピー・シー・エー(PCA)は、今回の消費税改正について「ベンダーとしての信頼性を問われるという意味でも、インパクトが非常に大きい」(折登泰樹・専務取締役営業本部長)と捉えている。
基本的には、最新版とその一世代前の製品まで消費税改正に対応するという方針を打ち出している。折登専務は「向こう3年間にわたる段階的な税率引き上げになるが、今期の需要が一番大きいとみている。ただ、ユーザーにはどのタイミングで乗り換えていただいても不公平にならないように、救済措置は用意する」と説明する。
経過措置や10%引き上げ時の複数税率などへの対応については、FJMと同様、製品開発上の技術的な課題はほとんどなく、オペレーション面の課題が大きいとみている。そのため、同社は今後の施策として、サポートセンターの人員を増強するなど、ユーザーへのサポートを強化する方針だ。
「消費税特需とでもいうべき需要増は確実にある」と主張する折登専務だが、一方で「ベンダー側にもユーザーサポートのためのリソース拡充など、応分のコストはかかる」とも話す。そのうえで、「Windows XPのサポート期限切れと、消費税率8%への引き上げがまったく同じタイミングで発生するので、販売パートナーはハードの移行も合わせて提案できる。消費税改正をきっかけに、業務システムの抜本的な刷新に乗り出すユーザーも相当数出てくる可能性がある」と指摘する。
●クラウドサービスの需要増を見込む 同社が消費税改正対応時の強みとして、今後さらに力を入れて拡販しようとしているのが「PCAクラウド」だ。基幹業務系アプリケーションにおけるクラウドサービスの先がけであり、消費税改正がユーザー拡大のきっかけになる可能性は高いとみている。折登専務は「クラウドサービスは月額課金が基本で、今後、どんな法改正や税制改正があっても、ユーザー側にシステム改修のための費用は発生しない」とメリットを強調する。販売パートナーがイニシャルで利益を確保する仕組みとして、ユーザーが一定の期間分の利用料をまとめて払う「プリペイドプラン」も用意しており、販売体制も整えている。
世界のあらゆる税制に対応可能
グローバルERPベンダーは改正をどうみるか
「システム刷新のトリガーになり得る」

日本オラクル
桜本利幸
ディレクター 消費税率10%への引き上げ時には、複数税率やインボイス方式が導入される可能性がある。EUなど、すでに同様の制度を運用している地域で基幹業務系システムやERPを展開しているグローバルベンダーは、日本の消費税率改正について、市場や自社製品開発への影響をどうみているのだろうか。
日本オラクルの桜本利幸・アプリケーション事業統括本部担当ディレクターは、ERP(統合基幹業務システム)の「Oracle EBS」の消費税率改正対応について「税率の変更や適用時期、特定品目への軽減税率の適用なども、税金マスターや製品マスターといったアプリケーションでユーザーが簡単に設定できる。アップデートも必要ない。グローバルERPの税金アプリケーションは、世界中のあらゆる税制に対応が可能で、それを地域、人、事業所によって個別に設定できないといけない」と説明する。
基本的に、新たな税率の設定などはユーザー自らが行うことになるが、やはりそのために情報システム部門に多くの人員を揃えている企業でなければグローバルERPは使いこなせないということなのか。桜本ディレクターは、「グローバルERPに対しては根本的な誤解がある場合が多い」と指摘する。「グローバルERPは、インターフェースもわかりやすく、ユーザーが自分たちの手で使いやすいシステムを構築できるのが最大の特徴。設定にITリテラシーはそれほど必要ないので、業務部門の人員が、それぞれの仕事に最適なかたちで設定できる」
ユーザーサポートのメニューとしては、専門家を派遣するコンサルティング、ユーザー向け教育サービス、そして電話やメールでの問い合わせやナレッジベースの閲覧ができるサービスを用意している。

SAPジャパン
佐々木直人
ダイレクター 今回の消費税率改正は、あくまでもERPをめぐるさまざまな環境変化の一要素で、将来的には、さらなる税率アップや、商取引の国際ルールの変更なども考えられる。桜本ディレクターは「グローバルERPは、管理会計も実現可能な、経営や事業運営の意思決定に資するツールだ。今後起こり得るさまざまな事業環境の変化に柔軟に対応できる」と、グローバルERPを導入するメリットを強調する。国産ERPパッケージからの移行案件も相当数出てきており、消費税改正がトリガーとなって、そうした動きがさらに進む可能性は高いという。
これについては、グローバルERPのリーダー企業であるSAPジャパンの佐々木直人・ソリューション本部アプリケーションエンジニアリング部経営管理ソリューションズダイレクターも同様の説明をしてくれた。「スクラッチ開発をしてきた基幹システムの刷新需要も高まっている時期。消費税改正がその後押しをしている部分はある。設定変更でさまざまな状況変化に対応できるグローバルERPは、スピーディに導入できることも大きなメリット。『時間を買う』という観点から、大企業だけでなく、中堅企業でも導入例が増えている」。
記者の眼
一連の消費税改正に、プロダクトとして対応すること自体は難易度が高いテーマではないというのが、規模の大小を問わず各ベンダーに共通する声だった。また、単純に業務ソフトやERPを消費税改正に対応させるだけでは大きなビジネスチャンスにはならないという見方も同様だ。ユーザーに対しては、消費税改正をトリガーとして、基幹業務システムを経営に資するツールとして使ってもらえるような、付加価値のある提案をすることが重要といえそうだ。ベンダーとSIerが連携して知恵を絞り、ユーザーのニーズに応えるとともに、時にはそれを先取りする提案が求められるだろう。
今年12月には、2014年度の税制改正大綱が発表される予定だ。そこで10%引き上げ時の具体的な消費税のかたちがある程度示されることになる。ベンダーはもちろん、SIerも、しっかりと情報を収集して対応の準備をしていく必要がある。