注目!伸びるベンチャー〈その3〉
シナジーマーケティング
細かなニーズに適合するCRMを投入
複数製品戦略で攻める  |
シナジーマーケティング 谷井等社長 |
CRMを開発・販売し、2000年の創業以来、成長を続けているシナジーマーケティング。2011年12月期の売上高は32億2200万円で、クラウドサービスの契約数は3000件を超えた。
「いつ人生が終わってしまうかわからない。今すぐやりたいことをやろうと思うようになった」。シナジーマーケティングの谷井社長は神戸大学に在学中、阪神淡路大震災で友人を亡くした。その悲しいできごとをきっかけとして、急ぐように、学生向けに中古の教科書を販売する事業を立ち上げた。そこで出会ったのがパソコン通信である。学生との連絡手段にメールを活用し、インターネットへの興味を募らせた。
大学卒業後も事業を続ける選択肢はあったが、NTTに入社する道を選んだ。谷井社長は、「あるベンチャーの社長に会って、『その事業を一生やっていくつもりか』と問われたが、答えられなかったから」と話す。ただNTTに入社後、新しいサービスの立ち上げを主導できる立場に就くには10年はかかると感じた。「その期間が待てなかった」という。
NTTを退職後、家業の紳士服販売店で仕事を始め、新店舗の黒字化を任された。まず着手したのは、店舗前の交通量調査。店舗の商品が、通行人であるサラリーマンなどの見込み顧客のニーズに合致するのかどうかを調査した。こうして浮かび上がったデータをもとに、ブランドを全面刷新。最も売り上げに貢献したのは、現在の事業につながるメールマーケティングだったという。顧客から入手したメールアドレス宛に、購入してもらったスーツの仕上げの連絡と合わせてシャツなどの情報を送信。来店時にその商品を提示することで、購買に至るまでの接客時間を短縮した。顧客単価は向上し、売り上げが20%伸びた。
黒字化を成し遂げたが、「ゼロから起業したい」という思いが強く、1997年、NTT時代の同期生と無料メーリングリストを提供するデジタルネットワークサービスを設立した。その事業を売却した後、独自に開発し、立ち上げたメール配信システム事業がシナジーマーケティングの前身となった。
「2004年頃はメール配信システムの市場はニッチで、アーリーアダプタが使うものだった。でも、やたらと低価格のサービスが登場し始めていて、市場が拡大しているのに単価が下がっている状況だった」と、谷井社長は振り返る。同社は、そんな価格競争に巻き込まれないように、メールマーケティングに限定しない事業領域を模索した。「メール配信の精度やスピードなどを追求しても早晩、差異化要因ではなくなる」という理由からだ。
四つの注力分野を新たに設定し、(1)会員管理、(2)BtoB、(3)店舗の来店集客、(4)Eコマースに向けた製品を投入してきた。このうち、BtoBの領域では2010年10月、セールスフォース・ドットコムと業務提携を果たし、翌年2月にはクラウド型マーケティングオートメーションシステム「Synergy!LEAD on Force.com」の提供を開始した。このシステムは、「Synergy!」と「Salesforce CRM」を統合するものだ。
米国で先行リリースして逆輸入も セールスフォースとの現在の提携範囲は国内展開にとどまっているが、グローバル展開で手を組むことも見据えている。
直近にリリースした「Synergy!360」や「iNSIGHT BOX」といった製品は、グローバル展開を視野に入れて開発した製品だ。「Synergy!360」は、すべてのユーザーの成果を統計情報として共有・解析し、マーケティングに活用する機能や過去の統計データをもとにマーケティングプランの成果を予測する機能などを実装している。一方「iNSIGHT BOX」は、ユーザー企業が共有する膨大なユーザー行動履歴データとマーケティングノウハウを有効活用することで、クライアントのマーケティング活動に貢献する。
谷井社長は、「先進的な考えをもった分析エンジンを搭載している。新しいものは米国のほうが受け入れられやすいので、今後は米国でまずリリースして、ある程度実績を上げてから逆輸入するアイデアもある」と明かす。
現在の中期経営戦略では、2013年度には売上高を65億円、営業利益を20億円、契約数を1万件に引き上げる計画だ。
記者の眼
「ネットバブル」といわれた2000年頃と比べて、ITベンチャーを取り巻く状況は大きく変わっている。独自製品を携え、最初からグローバル市場を見据えた事業展開に乗り出す起業事例が目立つようになった。今回紹介した先駆的なITベンチャー3社は、こうした新興勢力と激しい競争に晒されるようになる可能性がある。いかに迅速に経営判断を下して競争優位を保つかが、より重要になるだろう。