ソーシャルラーニングを事業に
港区南青山のビルの一室にオフィスを構えるキャスタリア。大学卒業後、英語通信教育会社勤務を経て、ニューヨークに留学した経験をもつ山脇智志氏が創業したITベンチャーだ。山脇社長は、今の会社を設立する前に音声コンテンツの販売事業を手がけていた。「これから先、ポッドキャストは、教育しか残らない」と感じたという。キャスタリアは、インターネットを利用した教育・学習ツールの開発や販売などを手がける企業として誕生した。
展開しているのは、インターネット上にある大学などの講義動画・音声を使って学習できるプラットフォーム「iUniv(アイユニブ)」だ。キーワードは、ソーシャルラーニング。オープンエディションとスマートデバイス、ソーシャルメディアの三つの要素で構成する。
国内外の著名大学を中心に、無料で公開されている6万7000以上の講義コンテンツを活用している。ユーザーは講義コンテンツを視聴しながら音声情報に挟み込むデジタルポストイット「Fusen」を使い、学習内容を他のユーザーと共有しながら学ぶことができる。TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアとも連動する。
これまで、オンライン予備校「ソーシャル予備校on iUniv」の活用事例としては、学校法人信学会やKDDI、被災地支援団体である「希望の木プロジェクト」実行委員会などと共同で、東日本大震災で被災した高校・大学受験生を対象にした無償の学習支援がある。この取り組みは石巻市教育委員会の後援で、石巻専修大学が取り組む「復興共生プロジェクト」の一環。2011年11月29日に始まり、2012年3月まで継続する予定だ。
キャスタリアは、大学受験生向けの講義動画コンテンツを提供。KDDIは、動画コンテンツを閲覧するためのタブレット「MOTOROLA XOOM Wi-Fi TBi11M」の提供とWi-Fi環境の構築を通じて、受験生のオンライン学習を支援している。
山脇社長は、「将来は、インターネットの授業で単位を取得できるようになるだろう。すでに、東日本大震災を受けて、文部科学省がルールを変えて可能にした事例がある」と期待を込める。
今後の収益モデルについては、次のように語る。「フリーミアムモデル(無料の基本サービスと有料で高機能のプレミアム版を提供するモデル)でいくことになるだろう。一つの基準はデータ容量になると思う。有料ユーザーを5%くらいは獲得したい」(山脇社長)。
事業はソーシャルラーニングの先進国である米国など、海外での展開を見据えている。山脇社長は、「モバイルキャリアと組む。今後、キャリアが教育ビジネスの中心になると思っている。われわれは、プラットフォームを提供する」と意気込む。

「iUniv」のウェブページ
アイデアを具現化する
名古屋市のステップワイズは、2005年設立のITベンチャーだ。マイクロソフトのクラウドサービス基盤である「Windows Azure Platform」上でクラウド型販売管理システム「VENTA for Silverlight」を提供している。GISを活用した車両動態管理システムなども手がける。
現在、売り上げの多くを占めるのは受託開発だが、長谷川誠代表取締役は、新たな収益源を模索している。「家の外から家電をコントロールできるような仕組みづくりを考えている。家電メーカーからいろいろな話をもらっている。例えば、スマートフォンで照明をコントロールをできれば便利。寝たきりでも『Kinect(キネクト)』のNUI(ナチュラルユーザーインターフェース)技術を使って、テレビのチャンネルを変えられるようにする研究開発も行っている」。
同じく名古屋市にあって、向井真人代表取締役が率いるマジックチューブは、「WallThrough」という技術を特徴とするITベンチャーだ。カメラで撮影した映像の左や右、上面や下面を覗き込んだりすることができる。また、窓枠から遠ざかったり近づいたりすることで、視野が狭くなったり広くなったりもする。
同社が新たに打ち出しているのは「OTEMOTO」だ。複数のプラスチック板を組み合わせることで、テレビ会議システムを補完するコミュニケーションツールに変身する。「OTEMOTO」は、絶妙の角度でiPhoneを設置するスペースを設けており、内蔵カメラが手元の細かい作業を会議相手にほぼリアルタイムに伝達できるようになっている。
向井代表取締役は、「対面で行う会議で通常行われている『手書き』や『指差し』といった人間の自然な行為も意思伝達に活用するので、ビデオ会議システムと一緒に活用することで、より円滑な会議を行うことができる」とアピールする。
プラスチック板は、コスト削減を目指してさらに安価な材料への変更を検討しており、教育機関などに向けて販売することを目論んでいる。

複数のプラスチック板を組み合わせて完成する「OTEMOTO」
国内のITベンチャーに投資する理由
「素晴らしいベンダーが数多く存在する」  |
セールスフォース 倉林シニアディレクター |
セールスフォース・ドットコムは、国内のITベンチャー企業に対して積極的に投資している。倉林陽・コーポレートディベロップメントシニアディレクターが狙いを語った。
われわれは、エコシステムの拡大を進めている。CRM(顧客関係管理)以外のサービスメニューを国内のお客様に届ける必要があり、当社のプラットフォームビジネスに加わってくれるベンダーを投資対象としている。
具体的には、「ソーシャルエンタープライズ」をキーワードとしている。FacebookやTwitterに代表されるソーシャルメディアの要素をエンタープライズで活用できるテクノロジーをもっているベンダーと、プラットフォーム事業を一緒にやっていきたい。
さらにいえば、ベンダーの展開している事業がホワイトスペースであるかどうかを重視する。われわれが欲しているのは、これまでサービスメニューになかったクラウドアプリであり、ベンダーがリーダー的存在であることも重要なポイントだ。さまざまなニーズに対応できるクラウドメニューをすべて揃えて、お客様に届けたいと考えている。
日本には素晴らしいベンダーが数多く存在している。例えば、シナジーマーケティングという会社がそれだ。同社を非常に高く評価している。ビジネスの可能性を広げるために、すぐれたパートナー企業を募って、日本をイノベーティブにするつもりだ。
われわれは投資先である国内のベンダーに対して、資金面だけでなくセールス面でもさまざまな支援を行う。ベンダーには、プラットフォームを提供してアプリの開発に専念してもらう。米本社のマネジメントチームから直接投資先のCEOが学べる環境も用意したい。これから成功事例が徐々に出てくれば、他社がそこから学べるし、日本の社会全体にとって非常に良いことだと思う。(談)
[次のページ]