スマートフォンの新商売を賢く開拓
セキュリティベンダーやNIerの動きが加速化 企業で使われるスマートフォンの出荷台数は、2014年に200万台を突破すると見込まれる。その大きなポテンシャルを有望とみて、2010年半ばから、セキュリティベンダーやNIerが動き出している(図2参照)。iPhoneだけでなく、Android端末も本格的に普及するとみられる2011年、各社は取り組みを本格化していく構えだ。
セキュリティ
 |
マカフィー 安藤浩二本部長 |
スマートフォンの法人利用が増えれば、それに連動して需要が高まるのがセキュリティだ。カスペルスキーラブスジャパンが、2010年8月に、Android端末を狙った初のマルウェアを検知したことを発表した。今後も、パソコンの世界と同様に、スマートフォンをターゲットにしたサイバー犯罪の脅威が増加していくことは間違いないだろう。
大型案件の獲得を狙う 大手セキュリティベンダーのマカフィーは、今年の春をめどに、スマートフォンに対応した企業向けモバイルデバイス管理プラットフォーム「Enterprise Mobility Management(EMM)9.0」の展開を開始する。EMMは、同社が2010年にプラットフォーム開発を得意とする米Trust Digital社を買収したことによって実現したものだ。「これから、当社の主力商材の一つになる」(マーケティング本部の安藤浩二本部長)と、マカフィーでは大きな期待を寄せている。
EMMは、iPadやiPhoneだけではなく、AndroidやWindows Mobileの端末にも対応し、スマートフォンを社内ネットワーク接続時にセキュアな環境を構築する。米国では2010年末から展開しており、順調に導入が進んでいるという。
今年春から提供を開始すれば、競合ベンダーに一歩先駆けたタイミングになりそうだ。安藤本部長は「スマートフォンの法人市場が爆発的に拡大しているので、EMMは非常に戦略的な商材で、当社の日本市場でのポジションを強めるにあたって、大きなターニングポイントになる」と鼻息が荒い。同社は、EMMを単独商材としてではなく、統合管理ツール「ePolicy Orchestrator(ePO)」と統合したソリューションのかたちで展開していく。販売パートナーの技術サポートの拡充を図り、パートナー体制の強化に取り組む戦略だ。
安藤本部長は、「2011年度第3四半期(11年7~9月期)から、EMM事業の本格的な展開を目指していく」という。EMMは、スマートフォン1万台を一度に管理できるなど、スマートフォンのユーザー数が多い大手企業を主要ターゲットに据えている。同社は、「既存客に対して、EMMをePOと統合したソリューションとして提案して、EMMを切り口に、他の商材も合わせた大型案件の獲得を狙っていく」という方針を示している。
セキュリティの検証で商売 マカフィーをはじめ、各ベンダーからスマートフォン向けセキュリティのサービスやソリューションが投入されることによって、それらの安全性を確認する検証機関のニーズが生まれてくる。官公庁や企業に統合セキュリティを提供するラックは、スマートフォンのセキュリティサービスに対する脅威を研究する「スマートフォンセキュリティ研究所(SSL)」を今年中に開設することを計画している。
同社は、KDDIが2月に開始した法人向けサービスの検証に関わるなど、検証事業の実績を築きつつある。「これからは、NTTドコモとソフトバンクモバイルなど、他のキャリアからの受注も目指していく」(加藤智巳上級研究員)としている。
加藤上級研究員は、来年以降にセキュリティ検証事業の本格的なビジネス展開を見込んでいる。「研究所の人員体制はまず10人以下と少人数からスタートするが、市場のニーズに応じ、増員していく可能性もある」という。
こんな商売も
Android技術者の育成セミナー
2011年、受講企業100社を目指す  |
サートプロ 近森満CEO |
スマートフォン法人利用の急増による新商売は、セキュリティやネットワーク関連にとどまらない。資格認定のコンサルティングやIT技術者の人材育成をビジネスとするサートプロは、Android技術者育成研修の事業に注力している。Androidアプリケーション開発のニーズが高まっているなかで、Androidを得意とする技術が不足していることが、同社にとって大きなビジネスチャンスになりつつあるのだ。
サートプロは現在、厚生労働省の協力によって、JavaプログラミングやAndroidアプリケーション作成などをテーマにした無料講座を提供している。近森満CEOは、Android端末の急速な拡大を受け、「ビジネス用途に特化したAndroidアプリケーションを開発できる人材が必要になる。当社は今後、助成金を必要としないかたちで、研修を横展開していく」と語る。
その一環として、今年の4~5月をめどに、企業向けの有料研修プログラムを開始するという。4月に始まるAndroid端末メーカーの新人研修の需要を狙い、20日間の短期間コースなどのカリキュラムづくりを推進しているところだ。サートプロは企業向けAndroid研修の事業目標を高く設定している。「2011年は、100社くらいからの研修参加申し込みの獲得を目指している」(近森CEO)と意気込みを示す。
これからは、Android研修の講師の数を増やしていく方針だ。近森CEOは、「現状では講師の数が少ない。この体制では、見込んでいる受講者に対応しきれない」とうれしい悲鳴を上げている。

セミナー参加者は講師の説明に熱心に耳を傾ける
ネットワーク
スマートフォン関連に大きなビジネスチャンスが期待できる事業分野として、ネットワークがある。スマートフォン利用の増加に対応した社内ネットワークの再構築や無線LANソリューションの展開といったことはもう少し先の商売となりそうだが、ネットワーク関連サービスの提供などはすぐにでもビジネスとなり得る。
uniConnectを1万ユーザーへ  |
エス・アンド・アイ 藤本司郎社長 |
スマートフォン用の企業向け発信専用ダイヤラーアプリケーション「uniConnect」を展開するエス・アンド・アイ(S&I)は、スマートフォン法人利用の急増を機に、uniConnectの事業拡大を狙っていく。この2月に、機能を追加した新バージョン「uniConnect II」を発表した。市場獲得に向け、ラインアップを強化する戦略だ。2月に発表したバージョンはiPhoneのみに対応するが、今年5月にはAndroid端末への対応も予定している。藤本司郎社長は、「現在、ほとんどのuniConnectユーザーがiPhoneで使っているが、向こう1年でAndroid端末が大きく伸びることを予測しており、これから、Androidユーザーも重要なターゲットになってくる」と語る。
2009年10月に発売したuniConnectの現バージョンの導入実績は10社という。ユーザー数については「企業の数としては少ないが、なかには1社で1000人程度というケースもある」(藤本社長)ということから、およそ2000人前後になると推測できる。新バージョンの導入目標を「今年中に1万ユーザー」としており、大幅な事業拡大を目指していく。uniConnectは、現バージョンの基本パッケージ価格がソフトウェアやハードウェアを含めて100ユーザーあたり約350万円からということで、1万ユーザーの導入を狙うとしたら、同じ価格設定で最低限でも3億5000万円規模の商売になってくる計算だ。
 |
| NECネッツエスアイが「Customer's Fair 2011」で、iPadやスマートフォンを活用したソリューションをユーザー企業に披露 |
同社はuniConnectのターゲット企業を広げるべく、今年9月に、SaaS型での提供開始を予定している。現状では、uniConnectを使うためには同社の専用システムなどハードウェアの導入が必要だが、データセンターに置いたハードウェアを使うクラウドサービスとして展開し、導入コストの削減を訴求することによって、uniConnectのユーザー企業を拡大していく方針だ。
海外進出が切り口 ネットワークインテグレーションを展開するNECネッツエスアイは、主力商材のオフィス改革関連のソリューション群「EmpoweredOffice」で、スマートフォンを活用したソリューションの開発に力を入れている。2月に開催したユーザー企業向けイベント「Customer's Fair 2011」で、会議資料をモバイルデバイスへ配信することによって会議のペーパーレス化を目指すソリューション「Smooth Meeting」を訴えた。このソリューションは現時点ではiPadだけに対応しているが、近々、Android端末などスマートフォンへの対応を実現していくという。
同社は、中国などアジアをはじめ、海外進出を図る企業を重要なターゲットと見込んでいる。ユーザー企業の海外での事業展開に対応し、これから、スマートフォンを活用したオフィスソリューションの提供に注力していく。日本企業の海外進出の加速化が、スマートフォン関連のビジネス開拓の一つの切り口になりそうだ。
記者の眼
スマートフォンの法人利用にまつわる新商売がかたちになりつつある。リーマン・ショック以降の経済悪化に伴ってIT投資を抑えてきたユーザー企業だが、スマートフォンの導入を機に、これからセキュリティやネットワーク環境への投資を拡大していく可能性が大いにあるといえそうだ。