5年ほど前から動き始めた情報システムの仮想化は、企業のITコスト削減機運の加速で一気に広まった。その勢いは衰えず、中期的な成長が見込めるデータもある。仮想システムの構築ビジネスはまさに伸び盛りだ。しかし、仮想化は構築だけがビジネスではない。物理的なシステムとは勝手が違う仮想システムの“運用”に手を焼くユーザー企業が増加して、ITベンダーに助けを求めているのだ。仮想化には、システム構築だけでなく、運用にもビジネスチャンスがある事実を追った。
SMBにも広がる仮想化需要
4年先まで見込めるビジネス 国内のIT産業全体をみれば、中期的には成長が見込めない可能性が高い。調査会社IDC Japanの調べによれば、国内IT産業全体(ハード、ソフト、サービス含む)の2008~13年までの年平均成長率(CAGR)は1.1%減。10年4月以降、IT業界人からは「(IT需要は)回復傾向に入った」「不況は底を打った」との声がちらほら聞こえるようにはなった。しかし、IDC Japanの予測がもし現実になるなら、09年から数えて5年後の2013年でも、日本のIT産業は08年の市場規模を上回ることができない。ITベンダーが、国内の市場だけで成長することが、いかに難しいかがわかる。
そんな成熟市場で、ひと際輝きをみせるのが仮想化だ。1台の物理サーバーの中身を仮想的に分割し、複数のOSやアプリケーションソフトを動作させることが可能な技術だ。導入のメリットは多い。既存のサーバーを有効活用できるので、サーバーの購入費用を削減できる。稼働する物理サーバーが減少すれば消費電力も減り、設置スペースも小さくて済む。これらのメリットは、いずれもコスト削減につながる(図1参照)。
不況の影響で「ITコストを可能な限り削減しろ!」と命令されている情報システム部門の担当者にとっては、うってつけのITソリューションであり、だからこそ物理システムから仮想システムへの移行、つまり仮想システムの構築ビジネスが一気に伸びているのだ。現在はサーバーの仮想化が需要の中心だが、ストレージ、デスクトップ(クライアント端末)ネットワークなどを仮想化する動きもあり、仮想化に関連するソリューションは広がりをみせている。
IDC Japanの調べによれば、仮想環境を構築するために出荷されたサーバー(仮想化サーバー)の09年出荷台数は約6万8000台で、前年に比べて9.2%増加した。中期的な成長も見込まれており、09~14年までの年間平均成長率(CAGR)を15.9%と予測している。そうなると、14年に出荷される全サーバーのなかで、約4分の1は仮想化サーバーになる勘定だ。その伸びに伴って仮想化ソフトも伸びており、09年は21.8%増。09~14年までのCAGRは20.5%としている。(図2、図3参照)
IDC Japanの福冨里志・サーバーリサーチマネージャーは、「仮想化サーバーを導入する企業のすそ野が、大企業から中堅企業へ、そして首都圏から地方へと広がっている」と説明。仮想化を求めるユーザー企業が企業規模や地域に関係なく増えていることを、高成長の要因として挙げている。仮想化は、すでに一部の大手企業や先進企業だけが求めるソリューションではない。中堅・中小企業(SMB)を相手にするITベンダーにとっても、商売につながる状況にあるわけだ。
チャンスは構築だけではない
運用に手を焼くユーザーが急増 今後も安定した成長が見込める仮想システムの構築ビジネス。しかしながら、伸びる市場では、競争が激化するのが自然の習いだ。一部のITベンダーしか販売していなかった仮想化ソリューションは、いまや中堅企業以上をターゲットにするITベンダーなら、ソリューションメニューのなかに当たり前にラインアップしている。
ユーザー企業にとっては、コストを削減するためのITソリューションであっても、初期コストはかかるし、景気が回復したとしても予算を捻出するのは至難の業。仮想化ソリューションでも、低価格を求めてくる。そうなれば、中期的な成長は見込めたとしても、ビジネスのうま味はどんどん失われていくだろう。IDC Japanの入谷光浩・ソフトウェア&セキュリティマーケットアナリストも、「ハイパーバイザー(仮想化ソフト)の導入は、コモディティ化が進み、ITベンダー間の競争が激化する」とみている。
そこで、他社との差異化につながり、新たなビジネスの種になるのが運用だ。その理由は明確で、「システムを仮想化したはいいが、その運用は手に余る」というユーザーが増加しているからだ。1台の物理サーバーに複数のシステムを仮想的に構築するというのは、言葉で表現するのは簡単だが、それを運用する場合には、物理システムとは違った仮想システム独特のノウハウが必要になる。ユーザーの困りごとは、ITベンダーにとってはビジネスチャンスとなる。仮想化ソリューションは、構築だけのビジネスではないのだ。
仮想システムの運用には、さまざまな問題がつきまとう。図4は、ユーザー企業の情報システム担当者が仮想システムの運用管理で悩んでいる問題の主な内容だ。トラブル時の問題特定とその対処策、バックアップ手法、コンピュータの処理能力管理などが挙がっている。物理システムでは可能でも、仮想システムではできないことが多いという実態がよくわかる。
仮想化したシステムが一部だけだったり、重要業務のITインフラとして活用するシステム以外であれば、ユーザー企業が抱える問題は小さいかもしれない。しかし、仮想システムが増えてミッションクリティカルシステムでの利用が進めば、課題は増幅することになる。
そこで、どうするか――。ユーザー企業は、自社の技術者を育てて自前で仮想システムを運用するのではなく、ITベンダーに任せようと考えているわけだ。
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