SMBもターゲットに  |
大塚商会 伊藤昇センター長 |
日本IBMやNTTデータ、NSSOLなどは、もともと大手ユーザーをメインターゲットとしてきたこともあり、従来は中堅以下の顧客層への接点が薄かった。このためクラウド基盤をベースとして、他のSIerやISVと協業して新たな販路開拓に乗り出そうとしている。一方で、もともとSMBに強いSIerや、DCの運営能力に優れたサーバーホスティング事業者も、クラウドビジネスに乗り出している。
中堅・中小規模のユーザー企業に強いSIerの代表格ともいえる大塚商会は、SMB向けプライベートクラウドの開拓で通信キャリアのKDDIと協業。今年5月から「たよれーるマネージドネットワークサービス(仮称)」を開始する。ユーザー企業と大塚商会のDCを、KDDIの閉域網で接続し、「従業員が10人の企業でも、1000人規模の企業と同レベルの高いセキュリティとITシステムの運用品質を実現する」(大塚商会の伊藤昇・たよれーるマネージメントサービスセンター長)というものだ。また、大規模かつ高効率なDC運営によって価格競争力を発揮するさくらインターネットは、「リーマン・ショック以降も、ホスティングの需要は落ちていない」(田中邦裕社長)と話す。ITシステムについての“所有から利用へ”の流れが、ホスティングサービスへの需要拡大という形で現れている。
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さくらインターネット 田中邦裕社長 |
体力のある大手ユーザー企業向けでは、プライベート・クラウドの設備そのものを販売し、必要とあらばその設備運営のアウトソーシングを受ける。一方、中堅・中小ユーザー向けは、あらかじめERPなどの業務アプリケーションを揃えたうえで、サービスのみを定額で提供する共有型クラウドのメニュー充実が不可避。クラウド/SaaS型への移行が容易なグループウェアなど情報系の品揃えに偏ると、パブリック・クラウドを得意とするSalesforceなどのベンダーに抗えず、価格競争力の強いホスティングベンダーとも競合する。SMB向けERPなど、クラウド/SaaS化がある程度難しい領域に、あえて進出することが業種・業務に強いSIerの本領を発揮しやすいといえそうだ。
エピローグ
収益面に課題が残る
中長期見据えた改革急げ
有力SIerが相次いでクラウドビジネスを立ち上げている。だが、収益力には依然として課題が残る。例えば、NTTデータの「BizCloud」事業は、関連事業を含めて3年後に年間1000億円の売り上げを見込む。同社はすでにクラウド/SaaS関連のアウトソーシングなども含めて数百億円の年商規模があり、ざっくり3倍に増やす計画ではあるものの、1兆円を優に超える連結売上高を考えれば、少々インパクトに欠ける数字といわざるを得ない。
その背景には、クラウド型サービスの料金体系が、おおむね定額制であることが挙げられる。NTTデータの山田伸一常務は、「従来のシステム構築と異なり、急速に売り上げを伸ばしにくい特性がある」と打ち明ける。NSSOLの「absonneスタンダードモデル」は、3年間で30億円、「SaaSスタートアップ@absonne」は3年後に10億円の売り上げ目標と、こちらも控えめな数字だ。
いったん顧客がついて、シェア拡大の仕組みができあがれば、細く長く、安定して収益を増やせるのがクラウド型ビジネスの特性である。これまでの大型案件の受注で売り上げが跳ね上がるSIビジネスとは収益構造が大きく異なる。
このところ、金融や製造業などのIT投資にも少し明るさがみえてきた。
しかし、かつてのように大型案件を受注できる機会はまだ少なく、“所有から利用”への流れは強まる一方だ。目先の売り上げを追うばかりでなく、クラウドをはじめとするサービス型ビジネスの拡充による、中長期を見据えたビジネスモデルの組み直しが、これからのSI業界に求められていることに変わりはない。