何度道を聞いても目的地に着けず、店に入ればぼったくられ、バスに乗ったらカメラを盗まれる……。学生時代最後の思い出にと、東南アジアとインドを回った卒業旅行が、菊池隆吾の初の海外経験だった。先々でことごとくトラブルに遭い、最悪の海外デビューだったが、日本では絶対に味わうことのできない体験に、菊池はむしろ興奮していた。ガンジス川のほとりで自分の死期を待つ老人の姿を見ながら、「日本の外にある世界が、自分のなかの現実になっていく」のを確かに感じていた。
それまで、日本の外に出て何かをしようという考えは希薄だった菊池だが、IIJに入社するころには、海外で仕事をする自分の姿が頭のなかに浮かんでいた。数年後、若手を対象とした英国法人赴任の募集があり、迷わず手を挙げた。
現地ではクラウドサービスの立ち上げを担当し、予算管理からケーブルの配線まで何でもやった。残業しない現地の従業員、売り手と客の間柄ながら敬語もなく対等な関係など、欧州の文化には戸惑ったが、発見も多く楽しかった。
1年9か月の赴任から帰ってきた菊池の頭のなかは、すでに日本企業の一員として海外へ進出するという図式ではなく、自分も顧客も、どの国という括りはなくなっている。米国出張中にアジアの会議に出たり、シンガポール滞在中に欧州の顧客に連絡を取ったりと、仕事のスタイルもボーダーレスになった。
現在の菊池がとくに好きなのは、南米やアフリカの案件。そもそも「何がビジネスになるのか」から考えなければいけないプロジェクトもあるが、「顧客や関係者と話をしながら、まったくなじみのない商習慣のなかで仕事をするのが面白い」という。日本では得がたい体験を求めたインドへの旅は、まだ続いているのかもしれない。(文中敬称略)
プロフィール
菊池 隆吾
菊池 隆吾(きくち りゅうご)
1985年生まれ。2008年にIIJ入社、国内外のシステム運用、ネットワーク構築に携わる。2013年に社員育成制度を利用してロンドンの英国現地法人に出向。欧州市場向けクラウドサービス「IIJ GIO EU」の立ち上げを手がける。2014年末に帰国、現在はロンドン時代の得意先を継続して担当し、アフリカの案件も抱える。