インターネットは、企業や一般の人たちの利便性と生産性を飛躍的に高めた。だが、その一方で、膨大な量の情報が飛び交うネットの世界では、本当に欲しい情報を探し出すのが難しい面もある。
「一人ひとりの趣味・嗜好に合わせて自動的に情報が集まってくる仕組みがあれば、きっと便利なはず」
猪子寿之氏はこのコンセプトを現実化した。2000年のことだ。アクセスユーザーのクリックから、各ユーザーの趣味・嗜好を分析し、この結果からユーザーごとに欲しい情報を選び出してPush型で流す。「レコメンデーション(推薦)エンジン」と呼ぶソフトウェアを開発した。ECサイトで用いれば、購入履歴やアクセス履歴から、ユーザー個々が好みそうな製品やサービス情報を自動的に提供することが可能になる。
この発想をプロダクトに具現化した猪子氏。実は、バブルがはじけ日本が沈滞ムードに陥っていた中学生の時、すでに経営者を志向していた。東大を選んだのは、「日本を牛耳るため」だとか。
言動は型破りで、風貌も経営者離れ。デジタル絵画の制作やファッションブランドの立ち上げなど活動範囲も多岐にわたる。
インターネットの誕生を「明治維新以来の革命」と表現する若き起業家は、体裁や既存のビジネスモデルにとらわれない。
「専門性を追究し続け、仲間を大事にする会社にしたい。世界規模で変化を与えられる存在にチームラボを育てたい」
個性を重んじながら専門集団を作りあげ、将来は世界に打って出るつもりだ。
プロフィール
猪子 寿之
(いのこ としゆき)1977年生まれ、徳島県徳島市出身。97年、1年間サンフランシスコに留学後、01年に東京大学工学部卒業。その後、東京大学大学院に進学し、04年中退。大学では、確率・統計モデルによる手書き文字認識、大学院では自然言語処理とアートの研究に従事。00年12月、チームラボを設立。代表取締役社長に就任。経営だけでなくアーティストとしても精力的に活動。ファッションブランドの立ち上げや、デジタル画像の展示活動などを行う。屏風をデジタル画像で描く「若冲幻想 動色彩絵」は、03年2月にパリの展示会で紹介された。