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【インテグレーターのためのコンサルティングポイント・9】DX×営業

2023/02/14 10:00


 営業とは、どんな役割を担っているだろうか。日本で「営業」の範囲は、企業によって異なっていて、広すぎる傾向にある。客先訪問、新規開拓、挨拶周り、業界・市場、分析、電話対応、メール対応、戦略・企画、顧客管理、テレアポ業務、顧客との交渉、社内外競争、入札、付属品の販売、値付け、見積書・請求書発行、伝票の起票、イベント運営、営業報告、資料作成、施設管理、在庫管理、工事、品出し、車の整備などなど、営業の業務範囲として聞くものは多数。このように多岐にわたるので、営業という言葉でひとくくりにせず、今回は、マーケティングとセールスに分けて考え、自ら売りに行くセールスについてフォーカスしたい。

 成熟社会での売り方を理解するには、まずニーズとウォンツの違いを理解しよう。どちらも「要望」だと捉えがちだが、ここで定義を一度明らかにしたい。ニーズが「人や集団が持つ欠乏感のこと」、ウォンツが「欠乏感を満たすための具体的な商品やサービスへの欲求」のことを指す。

 例えば、「疲れたから、ガッツリしたものが食べたい」と後輩に伝えたときに「では、焼肉にします?」と聞かれて、「う~ん、でも商談が控えているから、においがつくのは避けたいな」と断る。後輩が続いて「ラーメンはどうですか?」とガッツリしたものを提案してくれるが、「麺類って気分じゃないなあ」とまた断る。後輩はにおいもつかない、麺類でもないガッツリしたものを考え、続いてとんかつを提案。ようやく「いいね!とんかつ屋にしよう」とオフィスの近くの行きつけのとんかつ屋へ向かう。

 ところが、なんと定休日。隣の寿司屋や牛丼屋はやっているが、どうするだろうか。おそらく、多くは「もうとんかつの舌になっているから、とんかつを食べたい」とインターネットで近場のとんかつ屋を探すのではないだろうか。「場所 とんかつ」と初めて検索するのだ。「場所 ガッツリしたもの」とは調べないのだ。「ガッツリしたものが食べたい」というニーズを「とんかつ」というウォンツまで落とし込んだのは、携帯の検索機能ではなく、後輩である。ニーズにフォーカスしているのがマーケティング、ウォンツにフォーカスしているのがセールスである。
 

 成長社会では顧客自身が何を欲しいというのが分かっていたので、顧客の不満・不足を解決できるように売っていけば良かった。顧客が認識している悩みや要件(顕在的なウォンツやニーズ)を解決すれば良かったので、どう動けば正解なのかが分かりやすかった。「痒い所に手が届く」御用聞きスタイルが喜ばれた。

 しかし、モノやサービスに溢れた成熟社会では不満・不足が解消されているので、顧客自身がウォンツやニーズを分かっていない状態である。つまり、顧客が認識している悩みや要件がない。これからの営業には非常に難儀ではあるが、顧客の潜在的なウォンツやニーズを見つけ、顧客がたどり着くであろう場所にスルーパスを打つことが求められているのだ。

 この潜在的なウォンツやニーズをアナログで見つけられれば「スーパー営業」であるが、見つけられない営業にはデジタルデータを分析もしくはマイニングしたことによって得られるものを使うことになる。「マーケティング4.0」や「マーケティング5.0」によって得られた顧客の無意識の困りごとをベースに、営業は接触していくことになる。DXでの営業はマーケティングとの連携が不可欠というわけだ。

 システム的にいえば、CRMで顧客を見える化して、SFAで営業のクロージングを見える化していくことになる。くれぐれもSFAをただの日報入力ソフトにしてはならない。SFAだけ導入してもマーケティングの要素(CRM)がなければ営業のDXにはならないのである。

 そもそもDXは価値創造である。では価値とはなんだろうか。人間はアナログの世界で生きているので、現在に価値をもたせようとするとアナログのほうが優位である。デジタルの利点は過去から現在に価値を生み出したり、現在から未来に価値を生み出したりするところにある。

 欧米と日本の飲食業のウエイターで比べたい。決定的に違うのはチップがもらえるということである。チップがもらえるウエイターは、顧客にいわれてから動く御用聞きではなく、現在の様子からちょっと先の未来を予測して提案して喜んでもらう。先回りをいかにするかが、チップがもらえる重要な要素である。いわれてから動く御用聞きでは高いチップはもらえない。DXでのマーケティングとセールスの役割はマーケティングが後方支援、セールスが最前線で連携しあう必要がある。マーケティングが未来志向で顧客のデータマイニングやアナリティクスを行い、先回りで寄せて集めて確度を高め、セールスが現在志向でアナログに特化して顧客の特性にあわせて、きちっとクロージングすることが望ましい。
 

 SIerはそれぞれの役割をしっかりと区別し、むやみやたらとデジタル化せず、どうやって顧客の先回りをすればいいのかということに気をつけることが重要である。デジタルよりもアナログが強みとなるのがセールスである。営業DXとは、アナログで動く営業の先回りをしてどう動くかを明示し、顧客を先回りして価値を提示するサポートをする仕組みを構築することが重要というわけだ。

 
■執筆者プロフィール
並木将央(ナミキ マサオ)
ロードフロンティア 代表取締役社長 ITコーディネータ

1975年12月31日生まれ。経営と技術の両面の知識でDXに精通、現在の世情や人間観をも背景としたマーケティング、経営手法や理論の活用方法で、企業や各大学で講演や講義を行っている。さまざまな分野で経営やビジネスのコンサルティングを実施している。電気工学修士、MBA、中小企業診断士、AI・IoT普及推進協会AIMC、日本コンサルタント協会認定MBCなどの資格も持つ。
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