「ペーパーレス」なオフィス、あるいは「ペーパーレス会議」など業務からペーパー(紙)をなくす・減らすという取り組みが半世紀近く続いている。最近ではSDGs、一昔前であればエコ、遡るとコピー機のカウント料金や紙代の削減など、地方中小企業の現場でもさまざまな目的でペーパーレス化が謳われている。しかし、ペーパーレス化に成功した地方の中小企業が、世の中に存在するのか疑念を抱くほどに、成功事例を目にする機会はない。そこで、中小企業だけでなく多くの企業の見果てぬ夢といっていいペーパーレス化について考察を進めてみる。
未だ成功例を見たことがない“ペーパーレス”
コロナ禍により在宅勤務を強いられた2年間は、車通勤主体で在宅勤務に取り組む必要性が薄い地方中小企業が「ペーパーレス化」に取り組む最大のチャンスであった。ところが、多くの地方中小企業は業務の抜本的見直しを行えずに終わってしまったのではなかろうか。
あらゆる紙媒体が電子化されてはいるが、業務における「ペーパーレス」への道は遠い
「ペーパーレス化」を目的にしても成功しない?
当社では、さまざまなクラウドサービスを利用してペーパーレス化を実現しているが、ペーパーレス化や紙の使用量削減を目標にしたことはない。当社を見学に訪れた多くの経営者は、書庫や個人の引き出しが一切ないオフィスに驚くが、働く側からすれば働き方の変化、生産性改善の結果としかいいようがなく、何故と聞かれても困る状態である。
ペーパーレス化を目的としていたわけではなく、在宅やリモートワークなどの働き方、業務生産性の改善の結果として、業務効率の悪い紙の利用が減っただけ。最近は、多くの企業がSDGsへの取り組みから紙の使用量削減を目指すが、仕事のやり方が変わるわけではないのでかえって不便になるだけのケースが多いのではなかろうか。
また、製造業では購買コスト削減が目的となり、裏紙の再利用、両面印刷、縮小印刷など業務効率を下げるという浅はかな取り組みが次々と行われている事例を往々にして見かける。
ペーパーレス化やコスト削減を目的にすると、これまでの何回もの失敗事例が証明するように、社員の手間が増えるだけで業務生産性が低下するだけの結果になってしまう。生産性向上、多様な働き方への対応の一策であるクラウド化によって紙が不要になり、結果としてペーパーレス化が達成されるのである。
Kintone導入により「点検簿」を保存して書庫が空になった事例
それでも「書類-キングファイル-書庫」をなくすのは結構難しい
当社ではリモートワーク、在宅勤務を可能とするため、「チャット」「タイムカード」「給与明細書」などのクラウド化だけでなく、営業や開発、バックオフィスなど、ほぼ全ての業務にクラウドサービスが導入され紙を使わない業務手法になっている。
しかし、自社のクラウド化を進めても、役所や取引先、銀行、保険会社などから郵送やFAX、添付ファイルで紙が毎日のように届き、長期の原本保管が必要な書類も多く、実はペーパーレス化は結構難しい。
郵送で届いた文書はスキャナーで電子ファイル化、「Evernote Business」や「Dropbox Business」「Kintone」に保存しており、特にEvernote Businessには数万ノート(書類)が保存され、「スタック(書庫)-ノートブック(キングファイル)-ノート(各書類)」と電子的に整理整頓され保存されている。
電子的に検索可能な環境があることから、紙の請求書やレシートなどの原本は、月単位のポリ袋に入れるだけで決して整理整頓は実施しないルールとしているが、社会全体で紙が減らないとスキャンの手間が減らないのが悩みである。
「ペーパーレス化」は結果でしかない
Zoomに代表されるWeb会議によって、移動時間と交通費が削減され、生産性が向上することを多くの企業が実感し成功体験を積んだことで、DX、デジタル化に熱心に取り組む企業が増えている。
しかしその一方で、リモートワーク、在宅勤務への取り組みが進みづらい地方中小企業は、デジタル化への取組に熱心な企業が生産性を向上させる間も平成時代の業務手法(電話、FAX、メール、訪問)を続け、生産性がほとんど向上していないケースを多く見かける。
ペーパーレス化は決して目指すべきゴールではないが、相手は目に見える紙である、紙を見つけて、紙にまつわる業務を紐解く業務改善に取り組めば自然とペーパーレス化は進捗していく。
まずは業務単位で紙がなくせるタイムカード・給与明細・日報など、会社全体でメリットを得られるところから、紙がなくせるクラウドサービスを導入していくとことが望ましい。そうすれば自ずとペーパーレス化は進捗しデジタルで業務を回し、中小企業においてDXを進めていく一歩となるのである。
■執筆者プロフィール

樋口雅寿(ヒグチ マサトシ)
コムデック 取締役会長 ITコーディネータ
1972年、三重県伊勢市生まれ。95年、国立鳥羽商船高等専門学校を卒業。地元系IT企業などを経て、97年、コムデックに創業に参画、2011年に代表取締役社長、2022年 事業承継により取締役会長に就任。