介護は「人手の作業」「労働集約型産業」という印象が強く、DXやITと対極のイメージがある。しかし近年、介護事業者のIT化や介護ロボットの導入が急速に進み、介護のあり方自体を変革する「介護DX」というものが現実となってきた。今後も少子高齢化が進み、介護需要が拡大する中、介護分野はDXの最大のフロンティアともいえる。この連載では、介護DXをテーマに、その最前線と今後の進化を解説する。
介護業界の特徴は、地域密着型の小規模事業者が多いこと。業界トップのニチイ学館で介護部門の売り上げは1538億円(2019年度)と、同業界全体の1.2%に過ぎない。また、ケアの充実・向上のためには介護職員のスキルや意識の向上が最優先という意識が強く、ITや介護ロボットの導入が相反するものと捉えられることも多かった。こうした事情もあり、介護分野のIT化やテクノロジー導入はあまり進んでこなかった。
風向きが変わったのは2010年代半ばだ。13年、日本再興戦略で「ロボット介護機器開発5カ年計画」が盛り込まれ、ロボット介護機器の市場規模を20年に約500億円、30年に約2600億円にまで成長させるとされた。17年頃からは、介護分野の人材不足や生産性向上の対策としてIT化や介護ロボットの導入促進の手厚い補助や政策が打ちだされた。また、介護事業者の経営難や事業承継も背景として、M&Aが盛んに行われている。M&A関連サービス事業を手掛けるレコフによれば、21年における介護分野のM&Aは127件と過去最高を更新したという。さらに、21年には介護分野の統合DBである「LIFE」の運用が始まり、「経験と勘」によるサービスから「データに裏付けられた科学的介護」への転換が推進されるようになった。
介護分野におけるIT/介護ロボット関連の現状
こうした動きもあり、最近ではIT化やテクノロジー導入に積極的な介護事業者が多くなった。介護業界は慢性的な人手不足であり、「生産性向上」がキーワードとなっている。筆者は介護事業者向けのコンサルティングを行っているが、ほとんどの経営者がIT化やテクノロジー導入を前向きに捉え、「課題の明確化」「ケア向上との両立」「費用対効果」「オペレーションの改善」「活用体制や意識の向上・定着」など、課題の具体化とそれをどう超えていくかに関心が高まっている。
次回は、介護DXの最前線について解説していきたい。
■執筆者プロフィール

仲川 啓(ナカガワ ケイ)
沖コンサルティングソリューションズ シニアマネージングコンサルタント
ITコーディネータ
大阪大学卒業後、OKI(沖電気工業)を経て沖コンサルティングソリューションズに勤務。介護を中心とするヘルスケア分野や自治体向け事業に長く携わり、現在は介護事業者向けコンサルティングや介護ロボットなどのメーカー向けコンサルティングに従事。ITコーディネータのほかに、スマート介護士Expertなどの資格も持つ。